今年のポスター。『気狂いピエロ』のジャン=ポール・ベルモンドとアンナ・カリーナのキスシーンです。

【齋藤敦子(映画評論家・字幕翻訳家)=フランス・カンヌ】ある視点のオープニング・セレモニーで、ティエリー・フレモー総代表から発表になったことがもう1つありました。それはコンペに『夏』を出品しているロシアのキリル・セレブレンニコフ監督がカンヌに来られないという残念なニュースでした。セレブレンニコフ監督は舞台演出家で、ゴーリキー・センターの芸術監督を務めているのですが、反体制的な言動でも知られており、ゴーリキー・センターの予算をめぐって、当局から詐欺罪で訴えられ、自宅軟禁状態が続いています。せめてこの時期だけ、カンヌに来られるよう、措置を緩めて欲しいと映画祭からプーチン大統領に書簡を送ったところ、“自分としては喜んでカンヌの要望に添いたいところだが、ロシアの司法は独立しているので”という返答だったということでした。




こういった予算の使途不明金をめぐって、使い込みで責任者を訴えるというのは、権力者が自由な言論を封じるためによく使う手で、以前、『ダイビングベル』の上映をめぐって、朴槿恵政権側のプサン市長がプサン映画祭に介入しようとしたときにも使われました。おそらくは、今年のロシア大統領選に絡んで、反体制の言論を封じる目的がプーチン政権側にあったような気がします。

映画祭会場から見た港の模様

不在といえば、『3つの顔』をコンペに出品しているイランのジャファル・パナヒ監督もカンヌに来ることができませんでした。パナヒ監督といえば、2010年にイラン当局から他の文化人とともに逮捕・拘束された際に、カンヌ映画祭が招待状を送って国外へ出る機会を作ろうとしたことがあります。その後、20年の映画製作禁止令を受けたのにもかかわらず、『これは映画ではない』という“映画”を作って反骨を示し、15年には『人生タクシー』で見事ベルリン映画祭金熊賞を受賞しました。

『3つの顔』は、有名な女優ベフナズ・ジャファリのところに見知らぬ少女から自分の自殺を録画したビデオが送られてきて、驚いた彼女は友人のパナヒと少女の消息を訪ねてイランの山奥の村を訪ねるというもので、パナヒの師であるアッバス・キアロスタミの『そして人生は続く』によく似た作品でした。『そして人生は続く』は、『友だちのうちはどこ?』を撮った地方が地震に遭い、出演してくれた人達の装束を訪ねる旅を描いたものですが、『3つの顔』はトルコとの国境に近いイランの山奥に自殺した少女の消息を訪ねながら、根強い伝統と家族に縛られて、自由に人生を選択できないイランの女性たちの状況を浮き彫りにしていきます。パナヒは『チャドルと生きる』でも『オフサイド・ガールズ』でも、社会に虐げられたイランの女性たちの味方になって、映画を作ってきた人なのでした。

【齋藤敦子】映画評論家・字幕翻訳家。カンヌ、ベネチア、ベルリンなど国際映画祭を取材し続ける一方、東京、山形の映画祭もフォローしてきた。フランス映画社宣伝部で仕事をした後、1990年にフリーに。G・ノエ、グリーナウェイの諸作品を字幕翻訳。労働者や経済的に恵まれない人々への温かな視線が特徴の、ケン・ローチ監督の「麦の穂をゆらす風」なども手掛ける。「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)、「奇跡の海」(幻冬舎文庫)、「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書もある。





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