【齋藤敦子(映画評論家・字幕翻訳家)=フランス・カンヌ】第72回カンヌ国際映画祭が14日夜、ジム・ジャームッシュの『デッド・ドント・ダイ(死者は死なない)』の上映から開幕しました。今年は、この作品をカンヌのオープニングと同時にフランス全土600館近い映画館で上映という試みがなされました。これは、ますます顕著なネット配信の台頭に対して、“映画は映画館で”という映画祭の姿勢を示したものでしょう。

 ネット配信といえば、2年前のいわゆるNetflix問題で微妙な立場だったポン・ジュノ監督が、新作『パラサイト(寄生虫)』でコンペに戻ってきます。この作品は配信映画ではありませんが、今また、ディズニーやアマゾンなどが続々とネット配信の映画製作に進出するというニュースが流れ、カンヌとしても、いつまでも拒否しているわけには行かなくなってきました。問題は、“どうやって配信会社の大きさに見合った税法に改正し、フランスの映画興行界を納得させるか”ですが、映画祭プレジデントのピエール・レスキュール氏の“今年末までには何とかしたい”という発言もあり、ネット配信映画がコンペに再登場する日は近いと思われます。


審査員長のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督

 同じ14日の午後、恒例の審査員記者会見が開かれました。今年の審査員長はメキシコの映画監督アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ。審査員は、映画監督のヨルゴス・ランティモス、パヴェル・パウリコフスキ、ロバン・カンピヨ、アリーチェ・ロルヴァケル、ケリー・ライチャート、女優のエル・ファニング、マイムナ・ンディアイェ、バンド・デシネ(仏のコミック作家)、映画監督のエンキ・ビラルの計9人(票が同数に分かれるのを防ぐため、審査員の数が奇数になっています)。イニャリトゥはラテンアメリカ人として初の審査員長だそうで、スペイン語圏の記者から質問を浴びていました。彼は東京国際映画祭でも審査員長を務めたことがあり、そのときの記者会見でも真摯な発言をしていたことが強く印象に残っています。今回、審査の基準について聞かれ、「どんな監督が撮ったかでなく、作品本位で決めたい」と語っていました。社会派イニャリトゥが、どの映画をパルムに選ぶのか、とても興味があります。


記者会見の模様。左から、エル・ファニング、ヨルゴス・ランティモス、マイムナ・ンディアイェ、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、ケリー・ライチャート、エンキ・ビラル、アリーチェ・ロルヴァケル、ロバン・カンピヨの各氏。

 今年はコンペに日本映画がない寂しい年ですが、監督週間で三池崇史監督の『初恋』と吉開菜央監督の短編『Grand Bouget』、批評家週間で富田克也監督の『天座 – TENZO』が上映されます。

【齋藤敦子】映画評論家・字幕翻訳家。カンヌ、ベネチア、ベルリンなど国際映画祭を取材し続ける一方、東京、山形の映画祭もフォローしてきた。フランス映画社宣伝部で仕事をした後、1990年にフリーに。G・ノエ、グリーナウェイの諸作品を字幕翻訳。労働者や経済的に恵まれない人々への温かな視線が特徴の、ケン・ローチ監督の「麦の穂をゆらす風」なども手掛ける。「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)、「奇跡の海」(幻冬舎文庫)、「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書もある。

第72回カンヌ国際映画祭レポート第一回第二回

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