【写真・文/土井敏秀(半農半漁見習・男鹿市)】秋田県男鹿市・北浦地区の港を見下ろせる一画に建つ雲昌寺は、今や「青色のアジサイ寺」として、男鹿半島の代表的な観光名所になりつつある。きっかけは15年前。寺の副住職古仲宗雲さんが、いち輪の切り花に心を奪われたことだった。「そのころはひと株しかなかったんです。それをいち輪挿しに飾ってみたら、深く引き込まれました。この青は特別な色だなあ、と」。そのひと株を元に挿し木を繰り返し、1500株にまでなった。この数字もまだ、途中経過、発展途上だが、境内一面に広がる青は、波打つ海のイメージをかきたてる。あるいは、うねる青い龍か。7,8年前は訪れる人が30人ほどだったが、口コミで翌年100人、その次のシーズンが200人と増えて行き、昨年は2万人弱を数えた。リピーターが多いのが特徴だという。「檀家さんや近所の人たちが喜んでくれるのが、嬉しかっただけなんですけどねえ」と古仲副住職は、まだ戸惑っている。





青の世界がモコモコモコ

これまでは境内を開放し、家族や檀家、友人のボランティアで対応してきた。それが今シーズン(7月22日まで)は、入り口、出口を設け、維持管理費として300円のチケットを販売している。「身内だけだと応対に、疲れてしまっていた」(古仲さん)。境内ではスウィーツやお茶、コーヒー、お土産グッツといった店も開き、観光地っぽくなった。男鹿市などの協力もあり、周囲に新たな駐車場も整備された。「朝のアジサイ見学と座禅体験」といった地元ホテル、旅行業者とのタイアップ企画があり、旅行ガイドの本「死ぬまでに行きたい! 世界の絶景新日本編」(絶景プロデューサー詩歩著)に掲載されているほか、マスコミに登場することも増えている。

青い龍は上って来たのか、海に向かって行くのか

6月中旬、同じ男鹿半島に住んでいながら、すまぬ、初めて見学に訪れた。狭い道路沿いにも、青いアジサイがはみ出るように花をつけている。受付の周りも、山門への通路わきも、その先も、後ろを振り返っても、まだ5分咲き程度だが、アジサイがモコモコモコ、モコモコモコ、モコ……もういいか。飛び込みたくなってくる。大の字になって、後ろ向きに倒れるのもいいな。映画なんかで空から映すみたいに。笑顔で「好きだよお」と叫んだりして、青春映画か。

友達と一緒に自撮り。どんな世界に飛んで行ったのだろう?

訪れた人はみんな、雰囲気を、空気を吸い込むように味わっている。仲間で自撮りをしてはしゃいでいる。「経済至上主義だけでは、心を満たすことはできません。ここはお釈迦様の心境の世界です」(古仲副住職)。そうだ、ここはお寺だったのだ。ん? 本堂からは、ジャズが流れてくるぞ。だけど似合っている。ジャズは静けさ、おごそかさを演出できるのだなあ。だれもが手を合わせて祈りをささげている。30分も歩いただろうか。帰り際、おじいさんが(人のことは言えないけれど)ニコニコと近づいてくる。「久しぶりだなあ」。まずい、誰だか分からない。男鹿市内の人のようなので「今年は何回目ですか」と聞くと「まだ2回目、前はほとんど咲いていなかった。今年は遅いようだ」とこたえてくれたので、ほっ。「たくさん楽しんでください」などとごまかして、足早に立ち去るのだった。 (了)

ジャズが流れてくる本堂に祈りをささげる





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