【文・写真/土井敏秀=秋田市】見事なまでに、みんな話すことがばらばらだった。8月11日、秋田市の「遊学舎」で開かれた「地域力フォーラム IN あきた2017=WE CREATE OUR FUTURE」。それでも骨格、特に背骨はよく似ていた。マクロの視点でものごとを語らない。自分の生き方はこれでいいのか、を常に問いかけ、うーむ、言い方が堅いな、そう「これで、いんじゃネ」を自分で判断して活動している。第1部・提言のタイトルからして「『秋田のために』はもうアキタ!?」である。けんかを吹っかけているのである。「少子高齢化問題を考える」とか「子供たちの教育はどうあるべきか」といった問題のたて方は、何の解決にもならないのではないか。そのことを、彼らの「ワクワク」が伝えてくれた。



協力隊の任期を終えても東京に帰らなかった、ふたりの若者

5回目を迎えた「地域力フォーラム IN あきた2017」(秋田市・遊学舎)

フォーラムは袴田俊英さん(秋田ふきのとう県民運動実行委員会会長)を聞き手に、県内で注目を集めている五城目町の地域おこし協力隊員として、この3月までの3年間活動してきた、移住者ふたりの話で始まった。石田万梨奈さん(onozucolor代表、福禄寿酒造㈱クリエイティブディレクター)と、柳澤龍さん(シェアビレッジ町村御庭番、AkitaAge Labプロジェクトマネジャー)。3年前5人で東京から来た移住者は今、30人以上に増えている。

秋田県五城目町に移住し、さまざまな活動している柳澤龍さん㊧と石田万梨奈さん(中央)が提言(土井敏秀撮影)

柳澤さんは幾つかの失敗から、ものごとを考えるきっかけをつかんできた。地域おこし協力隊に応募した理由を聞かれたとき「人口減少に悩む地域のお手伝いに来た」と優等生の答えをした。すると相手の逆鱗に触れる。「だれがお前に、困ってる、助けてくれ、と頼んだ。何も困っていない」。柳澤さんは、この地に来たことを感謝した。木イチゴ栽培にも取り組んでいるが、専門家に見てもらうと「こんな土じゃダメだ。根が育たない。いろんな微生物がいないとだめなんだよ」。地域も同じかもしれない、と気づいた。保育園が6時以降の保育士が足りなくて困っている、と聞いた柳澤さんは「助けたい」と移住仲間に相談した。「母親が6時以降も働かなくちゃいけない町が、あなたの住みたい町なの」と言い返された。なるほどなあ、と素直に思えた。

石田さんは「違うな、違うな」と思いながらも、さまざまな仕事に携わった後、地域おこし協力隊にたどり着いた。東京の女子高のお嬢様育ち、最高学歴人間の頭でっかち、そんなタイプが合わずにいた。でも経験した仕事は、さまざまなアイデアを産み出す土壌となっていた。五城目ではそれが役に立った。そして移住者仲間が取り組んだのは「世界一こどもが育つ町」。子供を育てるではない、「こどもが育つ」。手取り足取りからほど遠く、育つのを待つ。それはもう一つの活動のキーワードにしている「醸す」につながる。食べ物がおいしくなる「発酵」。食べ物は地域作り、仲間作りにも通じる。

「やりたいことが何でもできる」から、秋田に残った

提言のタイトルがこれ(土井敏秀撮影)

聞き手の袴田さんが最後に尋ねた。「地域おこし協力隊の任務は終わったのだから、東京に帰ってもよかったわけです。どうして残ったの?これからどんなことをしていくの?」。(こう文字にすると、袴田さんて意地悪そうに思えるかもしれませんが、そんなことは決してありません。念のため)

「今が一番充実しているし、楽しい。起業する移住者がいるだけではなく、地元の人も起業し始めた。こんなに面白い場所、やりたいことが何でもできる場所にいるだけです。そういう五城目、秋田が好きなんです」(石田さん)

「大学の研究者、学生と地元の高校生や小中学生との交流もして、子供たちがどう育っていくか、すごい楽しみ。どう若者と向き合うか、彼らが本を読む、勉強が楽しくなるには、どんなメッセージを送れるかなあ、なんてことを考えると、具体的ななになにさん、なになにくんになるから、ここにいるのが楽しいんです」(柳澤さん)

こう聞くと、ふたりは何もけんかを吹っかけているわけではないし、やはり生きる姿勢、問いのたて方なのだ。「秋田のために私は何ができるか」と考えること自体、窮屈で楽しくない。



「つまらない授業を受けるより、外に飛び出した方がいい」

続くプレゼンテーション「秋田の未来はこう切りひらく」では、4人の若者が自身の取り組みを発表した。

この4月、横手市十文字町に発酵バルを併設した宿泊施設「Hostel&BarCAMOSIBA」のオーナーの阿部円香さん。バルに「発酵」の文字を付したのは、地元のお酒や、世界中の発酵食品を置いているから。「なーんにもない秋田」で育ち、よその人には「来ても、なあーんにもないですよ」と伝えた。東京の大学に入り、約30カ国をバックパッカーで回ったりした後、帰った。「秋田で好きなことをやろう。ゲストハウスを作ろう」。クラウドファンディングで資金を募り、手伝ってくれる仲間を募って、蔵付きの古民家を改修した。阿部さんは、代々続く麹屋で生まれ育った。ゲストハウスに泊まる人同士、地域の人との交流の場にもしていく。「食べ物だけではなく、人も醸してこそうまみが増します」

古民家を改修して、発酵バルを併設した阿部円香さん(土井敏秀撮影)

中高生向けのワークショップを数多く開く「Lift-Up」代表の松嶋駿さんは、トレードマークの金魚の帽子をかぶって登場した。「今の時代、勉強するのは学校だけに限りません。全国にはたくさんの機会があります。塾の有名な先生が、1カ月千円で見放題のインターネット授業とか。さまざまな学習プログラムがあります。そのことを中高生、親たちに伝えたいんです」。地元の能代市のほか、各地でワークショップを開く。松嶋さんは17歳。通信制の高校に籍を置く。

「中学生の時、学校の修学旅行先が面白くなさそうなので、行かずにお金を返してもらい、卒業してからひとりで旅行しました」。松嶋さんは安上がりな方法を組み合わせて、全国各地を旅する。すると、中高生で起業している人が珍しい存在でないことが分かる。「つまらない授業を受けるよりは、外に飛び出した方がいい」

全国50以上の都市にでかけ、学校以外の「学びの場」を知る松嶋駿さん、17歳(土井敏秀撮影)

松倉力弥さんは高校生のころ、力を入れていたサッカーでけがをし、入院生活に。「そのとき、考えたんです。自分からサッカーをとってしまうと何も残らない。そんな自分て、なんなんだって。それからですね。やりたいことはなんでもやっちゃおう、と」。入院というマイナスを、自分の生き方を考える機会ととらえた。大学生になった今、「やりたいことを素直にでき、楽しめる環境づくりをする学生団体「苗baco.」を組織し、活動している。「子供たちのキャリア教育、居場所作り、貧困問題を総合的に解決できないか」を念頭に、「正しいより楽しい」をモットーとする。これからは、小中高生と一緒に、移動販売車でのカフェを運営といった計画も練っている。

平元美沙緒さんは、まちづくりファシリテーターという、あまり耳慣れない肩書きを持つ。ファシリテーターは中立的な立場で、会議などの進行役を務める人のこと。地域づくりに一役買う。平元さんは今、暮らしている横手市大森保呂羽地区で仲間と「地域で楽しく暮らすヒントひろば」を開いている。

住民を「ヒントプレゼンター」と呼び、この地の魅力、ここでできること、したいことのヒントを出してもらう。それらを組み合わせて、みんなが参加するイベントを企画する。 「全国ぼんでんサミット」「いちからなべっこ遠足(みそ作りから始める)」などのイベント候補が集まり、「ひろば」は大盛り上がり。だから「こんな保呂羽に来てください」という結論になる。

9月には若者の地方移住の流れを読み解くイベントも

このフォーラムはことしで5回目。今回の会場では、100人を超す人が話に聞き入った。フォーラムが終わると、いつも「せっかくのいい機会なのに、興味を引く話ばかりなのに、もっと多くの人に聞いてほしかったな」「そのためには、どうすればいいのか」という同じ思いを繰り返してきた。でも今回、初めて気づいた。「同じイベントを3千人収容の大ホールで開いたら、どうだったろう」と。雰囲気が違うのは確か。それだけではない。大ホールでは、何かが足りないのだ。

このフォーラムの魅力は?そうか。これはライブハウスでしか味わえない魅力なのだ。狭い空間で、話す相手に集中できる。それは、自分から始める、相手を確かめ合える環境で動き出す、このフォーラムの「背骨」なのかもしれない。

このフォーラムの1回目では、哲学者内山節さんが総括講演をした。9月2、3日には、その内山さんの講演を含めたイベント「秋田県の男鹿半島で過ごす2日間『ここで生きる』」が開かれる。若者の地方移住が確実な流れになっているこの時代、自らも東京と群馬県上野村で暮らす内山さんにこの流れを読み解いてもらい、移住者と移住者を受け入れる側双方がプレゼンテーションするトークセッションにもアドバイザーとして参加してもらう。2日目には秋田のレゲエバンド「英心&ザ・メディティショナリーズ」のライブや、加茂青砂の海で獲れた魚介類を囲んでの「宴」もある。参加申し込みは080−2891−7856。


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