故郷の震災、シンガポールの学習塾で伝える 石川晋太郎さん

2017年からの新連載「アジアの街角〜陸奥の風」は、東北のニュースサイト「TOHOKU360」と、アジア各地からニュースを届けるニュースサイト「シンガポール経済新聞」及び「ムンバイ経済新聞」、シンガポール唯一の日本語週刊誌「週刊SingaLife」の4媒体が国際ニュースネットワークを築き、お互いの地域の現地ニュースを交換し合う取り組みです(詳細)。第2回は「SingaLife」からの寄稿です。


シンガポールで日本人対象の学習塾を経営している宮城県出身の石川晋太郎さんが、2011年3月11日の東日本大震災以降、シンガポールで子どもたちと支援活動に取り組み、授業の傍らで子どもたちに災害についての教育も進めています。震災から6年が経とうとする今、海外から故郷に対して思う気持ちや、シンガポールでどのように震災と向き合っていくかについて、お話を聞きました。【文章:太田直子/SingaLife】

海外から東北へ発信サポートを通して出会えた人々

シンガポールで学習塾「KOMABA」の経営をしています。6年前3.11の震災が起こった時、「海外にいる自分が東北にできることは何か」を考え、出した答えが「シンガポールに住む子どもたちと東北を近くすること」でした。震災直後からすぐに動き出し、6年という時間が経ってもまだ復興途中である被災地のこと、震災についてをシンガポールの子どもたちに伝え、考えさせ、また支援や応援する人々の声を東北に対して届けられればと取り組みをスタートさせました。


大船渡での七夕飾りのようす

 震災後、最初に行なったのは、トータルペインター・ミヤザキケンスケ氏との支援活動です。ミヤザキ氏は震災直後から被災地に入り、避難所で子ども達と絵のワークショップをしたり、壁画を制作したりと、被災者を少しでも明るい気持ちにさせるためのさまざまな活動を展開していました。その彼が最初に入った避難所が私の両親が住む家の近くの多賀城市の小学校だったのです。ネットを通して彼の活動を知り、避難所で描いた絵を見て涙が止まらなくなった私は、ミヤザキ氏にアプローチし、シンガポールで一緒に被災地支援をしてもらえないかとお願いしました。

 ミヤザキ氏の提案で『シンガポールと東北をつなぐ』ことをテーマにしたプロジェクトをすすめたのですが、それは手のひらサイズの厚紙に「自分の夢」を描くというものでした。最終的にシンガポールで2000枚の絵を集め、日本でも2000枚の絵を一般、被災した子どもたちから集めることができたのですが、ミヤザキ氏が被災地でそれを合わせて仙台七夕の吹き流しのように縦につなげて飾りを作ったんです。巨大な七夕飾りは仙台空港や彼がずっと支援を続けている大船渡などで飾らせてもらいました。


作成した七夕飾り

 この時の活動をきっかけに、シンガポールや日本で支援活動を進める様々な分野の素晴らしい方々とつながっていきました。現在(2017年2月)は南相馬のマーチングバンドの子どもたちのドキュメンタリー映画上映会も企画しています。

シンガポールで日系の塾経営から日本人の子に震災を知ってもらうこと

震災のことをシンガポールに住む日本人の子ども達にどう教育として伝えて行くかは、絶対に必要なことだと思っています。海外にいる、ということで子どもたちが無関心なまま成長していくことは、大きく言うと日本人としてアイデンティティーにも関わる問題だと思うからです。震災前、震災後という言葉が示すように、エネルギー問題はもちろん、日本社会は様々な面で新たな課題に直面していると感じています。しかし、被災地以外の地域、ましてや国外ではなかなか現地の状況が分からず、現地の人々がどういう思いを抱えているか伝わらないという問題があるのも事実。だからこそ大切なのが、子どもたちの考える力を育てることです。「復興」「支援」といった答えが一つではないようなテーマにも取り組み考えさせる。これは何も震災に関わることだけでなく学習全般に必要な力ですので、普段からそういう授業を、塾という立場で行なっています。


防災教育の授業風景

私の塾には幸い、小学生から高校生まであらゆる年齢の子どもが通っています。そのため幅広い年代の子どもに、それぞれの年齢にあった伝え方を工夫することが可能。小学生にはサイエンスセンターで地震の仕組みを伝えたり、中学生には新聞から復興の記事を取り上げ、そこから感じること、現地の人が具体的にどういったことで困っているか、何をすることが支援につながるかということまで掘り下げて考える機会を作っています。

学びたい子どもの気持ちを大切に アフリカで青年海外協力隊の経験

海外で生活していると保護者は子どもに対して「グローバルな人材を育てたい」思いが強くなり、英語力=グローバルと思い込む傾向にあるように感じています。しかし、本当のグローバル人材とは一体どういう人材でしょうか。
私は日本人としてのアイデンティティーを育てないでグローバル人材になることはありえないと思います。そのためには海外にいるからこそ日本社会のことも教育を通してしっかり伝えなければならない。震災のことも、依然残る原発問題なども知り、他者に答えを委ねるのではなく、自ら思考する力を育てなければならない。そのうえで、例えばテロや移民問題などのグローバルイシューについて人ごとではないと思う感性を育てることが、これからのグローバル人材に繋がると考えています。海外にいる日本の子ども達は間違いなく貴重な経験をしているわけですから、だからこそ日本人として様々な地域の問題に目を向けてほしい。学習塾という立場ですが、受験対策や偏差値向上を最終目標とするのではなく、海外にいることのメリットを最大点に活かし、塾という機能でできることを試行錯誤しています。


海外協力隊の子供達と石川氏

どんな子どもでも学びたい意欲を間違いなく持ってます。その確信は、昔、青年海外協力隊でアフリカの子ども達の教育開発に関わったことがベースになっています。子どもが潜在的に持つ学びたい意欲をどう引き出し育てるか、そのことこそが大人の役目。私たちは精一杯学びの種を撒きますが、どのように芽を出すか、どこから芽が出るかはそれぞれ子どもたち次第です。
故郷が震災に見舞われて、海外にいた私は成す術がなく茫然自失に陥りました。あの日からの6年間で強めてきた思いは、子どもたちの生きる力を育てたい、ということです。毎日の教室での授業も、点数のためではなく生きるための力につながることを信じ、真摯に、目の前にいる子どもたちと向き合っていきたいです。そしてその子たちの成長が、私が海外からできる復興支援の一つだと信じています。


*石川晋太郎

宮城県仙台市出身。大学時代を岩手県で過ごし、卒業後に上京してバンド活動に没頭。2003年に青年海外協力隊の小学校教諭でジンバブエへ。シンガポールの学習塾に2007年に就職。2012年に独立し学習塾KOMABA設立。


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