難民問題に多様な視点/第68回ベルリン国際映画祭報告(2)

【齋藤敦子(映画評論家・字幕翻訳家)】毎年思うことですが、ドイツに来ると移民の問題をより身近に感じます。映画の中に移民問題が見え隠れするのは、そういう現実を踏まえて、作り手の問題意識が深層にまで及んでいるからでしょう。

 コンペティション部門のクリスティアン・ペツォルト監督の『トランジット』は、第二次大戦中のドイツ軍によるパリ占領が迫っている頃、自殺した作家の原稿と手紙を手に入れた主人公が、作家に化けてメキシコへ脱出しようとするというストーリー。原作はアンナ・ゼーガースの小説で、設定は40年代ですが、映画はストーリーはそのままで、撮影だけ現在のフランスで行われています。後半、アメリカへ脱出しようとする人々が吹きだまるように生きているマルセイユに舞台が移り、主人公が北アフリカからの移民の母子と交流するあたりから、40年代の亡命者と現在の移民の姿が重なって見えてきて、移民問題の普遍性が浮き上がってきます。

 一方、コンペ外作品として上映されたマルクス・インホーフ監督の『エルドラド』は、第二次大戦中、少年だった頃にイタリアから逃げてきた少女を家族が受け入れたときの思い出と、現在の北アフリカからの難民問題を重ねたドキュメンタリー。北アフリカからの難民船をイタリアの国境警備船が助ける部分は2年前に金熊賞を受賞したジャンフランコ・ロージ監督の『海は燃えている』と同じですが、そこからさらに踏み込んでいき、イタリアの難民キャンプに移された難民たちが、やがてはマフィアの手に渡され、男性はトマト栽培などの農業へ、女性は売春へ駆り立てられていき、彼らの奴隷労働のおかげで安価に生産された農産物が、北アフリカの農業を直撃し、結局は難民を生む悪循環、ヨーロッパがアフリカを搾取している現実を鋭く突いていました。

 写真は『エルドラド』の記者会見の模様で、マルクス・インホーフ監督と出演者たちです。

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