【齋藤敦子=フランス・カンヌ】今年カンヌ映画祭は70周年を迎えました。60周年のときには映画祭が世界各国の映画監督に依頼し、自分と映画館の関わりを短編にした「それぞれのシネマ」が製作されましたが、70周年の今年はそんな特別なお祝い企画はなく、時代を反映して、去年に増して警備が厳しくなっています。私が初めてカンヌ映画祭に参加した83年には手荷物検査などは、もちろんなく、ドレスコードのある夜の公式上映を除いて、どの会場にも(マーケットの上映にも)プレスのバッジで皆平等に入れたのが夢のようです。



土地と人の記憶鮮やかに「顔々、村々」

 今年はコンペがやや期待外れだったのですが、他の部門で何本か素晴らしいドキュメンタリーを見ました。

 1本は今年89歳の映画監督アニエス・ヴァルダが34歳のアーティストJRと共同監督した『顔々、村々』。日本語に訳すと変ですが、フランス語だと“ヴィザージュ、ヴィラージュ”と韻を踏んだ、美しい題名です。その内容は、2015年に出会って意気投合した二人が、カメラの形をしたトラックでフランス中を回り、出会った人々の写真を撮り、家や工場の壁など、ゆかりの場所に貼り付けていくパフォーマンスを記録したもの。

 寂れた炭鉱町の炭鉱労働者用住宅に、たった一人で住んでいるおばあさんの写真を住宅の壁いっぱいに貼ったり、昼夜2シフトで働く人たちの写真を工場の壁に貼って、ふだんはシフトの違いで出会わない人たちを出会わせたり。ものおじせずに、どんどん人の中に入って話を聞くヴァルダの人柄、人々との暖かなふれあいが楽しく、JRの写真アートが土地とそこに住む人々の記憶を風景の中に蘇らせる、美しくて深い作品でした。

放置された地球「不都合な真実2」

 もう1本は日本でも公開された『不都合な真実』のその後を描いた、『不都合な真実2:放置された地球』です。地球温暖化に警鐘をならし、化石燃料から自然エネルギーへの転換を訴えて、世界中で講演を行っているゴア元副大統領の活動を描いた前作のその後を追ったもの。ゴアの活動の成果で、世界中に風力やソーラー発電が浸透し始め、2015年12月にパリで開かれたCOP21で、それまで反対していたインドを説き伏せて、パリ協定が結ばれて大団円。と思いきや、開催直前にパリでテロ事件が起き、世界が一気に右傾化、翌2016年に化石燃料を提供する企業側に立つドナルド・トランプ氏が大統領に当選して、すべてが無に帰す、という皮肉なエンディングでした。ブッシュ政権のときに発射直前に計画中止になった気象衛星が、オバマ大統領の許可でようやく打ち上げられ、宇宙から常時送られてくるようになった地球の写真を見ていると、今の地球に何が一番必要か、そのために人は何をすればいいのかを雄弁に語ってくれているように思います。『不都合な真実2』は今秋、日本で全国公開されます。

「ヴィザージュ、ヴィラージュ」のポスター。液体用貨物車にヴァルダの巨大な目の写真が貼られています。​

【齋藤敦子】映画評論家・字幕翻訳家。カンヌ、ベネチア、ベルリンなど国際映画祭を取材し続ける一方、東京、山形の映画祭もフォローしてきた。フランス映画社宣伝部で仕事をした後、1990年にフリーに。G・ノエ、グリーナウェイの諸作品を字幕翻訳。労働者や経済的に恵まれない人々への温かな視線が特徴の、ケン・ローチ監督の「麦の穂をゆらす風」なども手掛ける。「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)、「奇跡の海」(幻冬舎文庫)、「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書もある。




【連載】第70回カンヌ映画祭報告

Netflix問題と映画の未来/第70回カンヌ映画祭報告(1)

口先だけの博愛主義を批判 「スクエア」にパルムドール 第70回カンヌ映画祭報告(3・完)




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