【鈴村加菜通信員=宮城県仙台市】毎日こっそりと野良猫に食事を与え、食べ残しや糞尿を片付けずに去っていく「餌やりさん」の行動が、地域の人々を悩ませている。このような身勝手な「餌やりさん」は一部だが、始まりはみな、「お腹を空かせているのに放っておけない」という猫に対する愛情からだ。

しかし、知識や情報がない状態で食事を与えてしまった結果、「飼い主のいない猫」はさらに増えてしまい、「餌やりさん」自身も困った状況に追い込まれてしまっている。困っている地域の人々や「餌やりさん」に寄り添いながら、猫との共存をめざし地域が飼い主となる「地域猫活動」に最近踏み出した仙台市の花壇大手町町内会。行政・地域・ボランティアの立場から活動に関わる方々から話を聞いた。




「飼い主のいない猫」たちの現実

仙台市健康福祉局 保健衛生部動物管理センター(アニパル仙台)によると、平成28年度の仙台市内における猫の引取件数は855頭。そのうち300頭以上が殺処分となっている。動物管理センターは野良猫などの「飼い主のいない猫」を自主的に保護することはないため、収容されるのは警察を経由するなどしてセンターに連れてこられた猫たちだ。何らかの事情で飼えなくなった飼い主が連れてくるケースもあるが、近所の猫が物置や庭で子猫を産んで迷惑しているので引き取って欲しいというケースが多いという。動物管理センターでも譲渡会を開くなどの取組を行っているものの、全ての猫の飼い主が見つかるわけではない。

動物管理センターに引き取られた猫。収容される猫の8割が子猫(鈴村加菜撮影)

動物管理センターに収容された猫の中には、市民ボランティアの協力のもと、ある程度譲渡可能な状態にまで世話をされるケースもある。市民ボランティアの1人で花壇大手町町内会の「地域猫活動」にも関わる、画家の樋口佳絵さんは、チャリティー活動「cat&dog&me」の事務局として、犬猫保護ボランティア活動の寄付となるグッズ販売企画とともに、犬や猫に関する周知活動を行っている。樋口さんは、「犬や猫を愛している人にも、現状をご存じない方が多いことに驚きます。改めて、犬や猫と人とがよりよく暮らすために現状を知って欲しいですし、考えて欲しい」と話す。

生まれて間もない(生後数日)子猫には2〜3時間置きの授乳が必要。市民ボランティアの協力でおよそ2か月後、里親のもとへ(樋口佳絵さん提供写真)

地域が飼い主に

ここ数年で譲渡数はかなり増えている。しかし、譲渡には限界があるため、殺処分を減らすにはセンターへの収容数を減らさなければならないという現状がある。

この課題の解決策のひとつとなるのが、「地域猫活動」。地域にいる「飼い主のいない猫」を捕獲し、不妊・去勢手術を行い、その後の食事を与える場所やトイレの場所を固定し、地域で面倒を見ながらその猫の一生をまっとうさせようというもの。地域が飼い主となることで「飼い主のいない猫」を排除するのではなく共存することをめざす。

(左)捕獲するには専用の捕獲器を使用。(右)不妊手術後はキャリーの中で休ませながら様子を見る(樋口佳絵さん提供写真)

花壇大手町町内会で「地域猫活動」がスタートするきっかけとなったのは、片平市民センター主催の事業「片平優しい街づくりフォーラム〜猫でつながる人と人〜」。館長の亀田由香利さんは、センターに来る前までは獣医師として仙台市動物管理センターに長年勤め、行政の立場から「地域猫活動」に取り組んでいたが震災後は対応に追われたこともあり、「やり残した」という思いがあったという。「地域猫活動」という言葉が登場したのは20年以上前。一時はメディアなどでも多く取り上げられたが、猫の不妊・去勢手術にかかる費用や捕獲のための器具、トイレ場所の整備など、住民の負担があるため、活動に対する理解はなかなか得づらく、実践まで至る地域は少ない。

亀田さんは、「フォーラムでは、『飼い主のいない猫』について地域で考えるきっかけとなるイベントや講演会を開催しました。そこから『地域猫活動』につながればいいなと思っていた」という。 花壇大手町町内会の「地域猫活動」は、フォーラムに参加していた町内会長の今野均さんがこの問題に関心を持って熱心に取り組んだこと、経験豊富なボランティアがいたこと、昔から町内会と繋がりのある動物病院の獣医師が協力を申し出たことなど、市民センターにとっても心強い偶然が重なり、何より地域住民の理解と協力のもと、実現にいたった。

今野さんによると、昨年の夏に2〜3ヶ月調査した結果、町内には「飼い主のいない猫」が40頭以上いることがわかったという。「少し前まではほんの数頭だったと思います。猫は子どもを複数産みますから急増するものなんですね。それで、庭を荒らされたとか、2階の窓から猫が入って来たとか、苦情も増えました。幸い周りに協力してくれる人が多かったこともあり、これは町内の問題としてやるべきだと決めました」

「地域猫活動」には「餌やりさん」の協力が不可欠

ボランティア・行政・地域。「地域猫活動」に必要不可欠とされている3つの立場にいる樋口さん、亀田さん、今野さんが口を揃えて指摘する「『地域猫活動』をうまく進めるために1番大切な人」がいる。

ペットであって野生ではない猫は本来、自力で食事をとることができないため、一般的には飼い猫に比べ、いわゆる野良猫の寿命は短い。それでも地域から「飼い主のいない猫」が減らないのは、高い繁殖能力に加えて、「飼い主のいない猫」も食料を得られる環境があるからだ。

庭に来た猫に愛着をおぼえ、食事を与え始める。その食事に誘われてほかの猫も集まり始め、子猫が生まれ、さらに増えていき、気付いたときには手に負えない状況に…それが近所からの苦情へと発展するパターンが多いという。猫に関する苦情で一番多いという糞尿は、花壇や家庭菜園をダメにしたり、公園や保育園の砂場を汚したりする。そのため、猫は地域の「悪者」になってしまい、その批判は食事を与えている人にも向けられるようになる。猫に食事を与える行為は決して悪いことではないのだが、知識とマナーがないために猫たちの居場所を奪ってしまうかもしれないのだ。

「地域猫活動」には「餌やりさん」の協力が不可欠。捕獲し不妊手術をしたり、トイレの整備をしたりするためには、猫がいつ、どこに集まっているかを把握する必要があるからだ。ところが、猫嫌いな人や猫で困っている人からの批判の対象になっていることで「餌やりさん」が名乗り出ることのできない状況になってしまっている。樋口さんは、「『餌やりさん」』の多くは、猫に対する情はあっても情報がない状態。そういった人たちに、相談したり解決のために手伝ったりしてくれる人がいれば」と話す。「餌やりさん」に対する悪いイメージをなくし、「餌やりさん」に寄り添いながら、地域で暖かく猫を見守っていくことが必要だ。

「地域猫」である証に、不妊手術後の猫の耳に入れられるカットは「さくらカット」とも呼ばれる(樋口佳絵さん提供写真)

本当に猫の問題?

猫をめぐって行政や町内会に寄せられる苦情は絶えない。これらの苦情はよく聞いてみると「餌やりさん」のように「猫」ではなく「人」に対する不満であったということも少なくないという。亀田さんは「日本人は特に猫に関しては特別な感情を持っていて、世の中に大好きな人、大嫌いな人、無関心な人が1/3くらいずついるといわれています。その結果、猫嫌いな人は『餌やりさん』を攻撃し、『餌やりさん』は地域の目を気にして影に隠れてしまい、互いを理解しようとすることなくいがみ合ってしまう現状があるのです」と話す。猫をめぐる問題は、自分と異なる考えや価値観の異なる人を許容しにくくなっている現代社会の人間の問題なのかもしれない。





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