仙台のカフェ店主が東京でカフェをつくる理由 JAM CAFE・gramme店主 山路裕希さん

渡邊真子=仙台市青葉区】仙台市青葉区内に2店舗のカフェを経営するMASTER PLAN 代表の山路裕希さん(35)は、この夏に1店舗をクローズし、新天地「東京」で新しいカフェをオープンする計画を現在進行中だ。地元を離れ家族とともに東京に移住し、東京でカフェを開くことを決めた山路さんの思いとは? 

「カフェ巡り」が生活の一部だった東京での大学生時代

一番町買い物通りに面したビルの2階にある落ち着いたラウンジ風のカフェ『JAM CAFE』と、仙台市役所からほど近い国分町の路面に面した、珈琲と焼き菓子の店『gramme』。その2店舗の経営者である山路さんは、仙台の高校を卒業後、東京の大学へと進学し、そこで、「カフェ」というものに出会った。

「それまでは、ドーナツショップぐらいしか行ったことがなかったんですよ」。そう話す山路さんは、先に上京していた友人に連れられて、カフェブームの真っ只中にあった東京の「カフェ」を体験する。

「『うまいタコライスがあるから食いに行こうよ』と言われたけど、その時はタコライスが何かもわからなくて」そう言って笑う山路さん。初めて足を踏み入れたカフェで、それまで見たことも食べたこともないメニューを目にした山路さんは、「これは面白い!」と思ったという。「自分の知らない料理の食べ方、盛り付け方、お店の見せ方とか、内装から何から何まで興味深くて、もっと“カフェ”を知りたいと思い、カフェにはまっていきました」

山路さんはその日から、休みの度にひとりであちこちのカフェ巡りを始めた。大学一年生にして、「カフェに行くこと」が生活の一部に入り込んでいた。東京で就職活動に励んでいた頃、ふと「このままでいいのだろうか?」と不安になり、そんな時に「自分の会社を作ろう」という考えがポッと浮かんだという。

「『カフェが好きだからお店』という発想ではなく、会社を作りたいから、じゃあ飲食店かな?と。ただ漠然と思っただけなんですけど」と山路さんは笑った。

grammeでコーヒーを淹れる山路さん

修行した場所で、カフェをオープン

大学卒業後は地元に戻り、当時好きだった仙台のカフェ「Loving Room」で週6日でバイトを始め、3年間のカフェ修行をした。

「そこで色んなことを教わりました。フードやドリンクの作り方やテクニックというより、精神論。カフェを経営するための心構えなどを教わりました。『カフェをやるならなめられないようにしなきゃダメだよ』などと」そう語る山路さん。

開業に向けて物件を探していたが、なかなか良い所がみつからずにいたところに、仙台を離れることになったバイト先のオーナーから「よかったらどう?」と声がかかり、カフェ修行を行った店の跡を借りることになった。そして、山路さんがかつて働いていた「Loving Room」は、自身がオーナーとなる「JAM CAFE」へと形を変えた。

JAM CAFE 仙台市青葉区
家具や装飾品にもこだわった落ち着いた店内のJAM CAFE。店名はイエローモンキーの曲名が由来とのこと

究極のvalueは「そこにいていいんだよ」と感じてもらうこと

オープン直後は、様々な地元メディアで取り上げてもらったにも関わらずヒマだったという。そこで、もっとお店のことを知ってもらうためにと、山路さんはブログを始め、自身の思うことなどを綴り、年末年始も休まず毎日更新を続けている。そのブログでの発言やお店に対して、お客様からたまに指摘が来ることもあるという。

「例えば、『愛嬌がなくて全然良くないお店でした』というメッセージが来たことがあるんですが、僕は、自分の店に愛嬌はあまり必要ないと思っているんですよね」と笑う。無愛想にするということではなく、お客さま全員にフラットに接するということを心掛けているようだ。オープン当初あったカウンター席も「どうしても身内感が出てしまう」という理由で撤去した。ひとりで来店する人も寛げるように、JAM CAFEでは5名以上での入店も断っている。

カフェとはどうあるべき?との問いに、山路さんはこう答えた。

「極端に言ってしまうと、そこの場所で過ごせることが“価値”。カフェのあるべき姿というのは、“時間を過ごせること”。それのみだと思うんです。なので、僕の思う究極のサービスは『そこに居ていいんだよ』とみんなに言ってあげること。お客さんにそう思ってもらうこと。感じさせることだと思っています」

カフェに対する自分の思いを語る山路さん(JAM CAFEにて)

影響を受けたカフェ、目指すカフェとは

コーヒースタンドやパンケーキ店の数は増えているが、山路さんが学生時代にお気に入りだった東京のカフェは、どんどんなくなって来ているという。そんな中、学生時代から好きで影響を受けた東京のカフェとして『LOTUS(ロータス)』(東京都渋谷区)の名を挙げる。90年代後半から始まった東京カフェブームの火付け役となった『BOWERY KITCHEN(バワリーキッチン)』(東京都世田谷区)と並ぶ、カフェブームを牽引したカフェ好きなら誰もが知る名店だ。

友達に連れられて初めて訪れたロータスで山路さんが受けた衝撃のひとつに、フードメニューがある。

「メニューに『塩昆布チャーハン』があったんです。それまではカフェ飯というと、もうちょっと派手で、彩りもあって、ちょっと凝ったものというイメージを持っていたんですけど、ロータスには、もうそれがなかったんですよね。でも、めちゃくちゃシンプルなのにすごく美味しくて。そういうシンプルなメニューの見せ方というか取り入れ方というか、ああ、こういうのもあるんだなと思いました」

入口からキッチンの前を通らないと奥の席へ辿り着けない店舗デザインや内装についても勉強になったという。「料理を作っている活気ある場所を通って、階段を下りていく、という動線がすごい考えられているなと思いました。これはすごいぞと。そういう影響はめちゃくちゃ受けています」

山路さんは、東京に行く度に今でもロータスをよく訪れるという。先日も、家族を連れて行って来たばかり。

「やっぱり“ロータス”には、何度行っても『ああ、やられたな』という感じがするんです」と、今でも刺激を受ける場所だと話し、「そこを訪れた時に、自分にとって何かプラスとなる場所。新しいきっかけが何か生まれるところ。そういった“カフェ”になりたい。自分が“ロータス”に出会った時に受けた衝撃のような、でも、それとはまた違った次元のカフェをつくりたい。そう考えているんです」と自身が目指すカフェの話を続けた。

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東京で主役級のカフェをつくって、仙台の店をグレードアップしたい

「最近、自分の生活のルーティーンがずっと同じ円の中にいる気がしていたんです。だったら、僕が今仙台で思い描いているカッコイイ店を、今度は東京でやってみようかと」

JAM CAFEで一緒に働く奥様も、その考えには大賛成だという。

「コーヒーやフードメニューで惹きつけるのもいいけど、そこで時間を過ごすだけ、ただ寛げるだけという感じの店を作って、東京のカフェシーン再燃に一役買えればいいなと思っています」と、東京へ移住する意義は「それですかね?」と山路さんは言う。

「カフェって結局、お客さんに「なんかよかったわ」と言ってもらって完結しちゃうものなんですよね。なので、そこにあまり深い意味は持たせず、お客さんがより過ごしやすくて、豊かな気持ちになれて、よし、もうちょっと頑張ろうかな?とか、そういうやる気やクリエイティビティをちょっとでも持ち帰ってもらえたら一番いいなという気がします」

それは、はっきりとしたコンセプトなどがまだなかった10年ほど前から、山路さんがずっと言ってきたことだという。

「お客さんにただお金を使って帰ってもらうだけじゃなくて、カフェで時間を過ごすことで、何か創造してもらって帰ってもらう。そのためには、もちろんご飯もコーヒーも美味しい方がいいし、お店もそこで働く人もカッコ良い方がいい。そのためのお洒落さは必要という感じなんですよね」

山路さんは、地元仙台と同じくらい大好きな東京で、新しいカフェをつくる。訪れる人みんなに「そこに居ていいんだよ」と感じてもらえるような、居心地が良くて寛げるカフェという空間を、カフェと出会った原点の地で。そして、いつかそのカフェスタイルを仙台の店にも取り入れて、「JAM CAFEをアップデートさせて、最強のカフェにしたい」と山路さんは思っている。

grammeの明るいカウンター席
grammeの明るいカウンター席で寛げるのもあとわずか
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