【仙台ジャズノート】リジェンドフレーズに迫る 公開練習会から

佐藤和文=メディアプロジェクト仙台】ある日曜日、ジャズミュージシャンの公開練習会があるというので、仙台市青葉区一番町にあるジャズクラブに駆け付けました。練習会に参加していたのはジャズライブやコンサートでよく見かけるプロのミュージシャンら7人。サックス奏者廣海大地さん(28)の発案で、ドラマー今村陽太郎さん(32)が中心となって運営しています。

彼らが向き合っている演奏上の課題は非常に幅広く、それぞれの関心や習熟度に応じて、さまざまな考え方や練習方法が存在します。プロの演奏家やプロ志向の強いアマチュアにとって、ジャズ演奏上の課題は、基本的に自分で解決すべき問題ですが、演奏上の課題が幅広い分だけ、意見を交換し合いながら少しずつ解決に向かう機会は貴重です。練習会で特に印象的だった場面を二つ上げます。

公開練習会を運営しているドラマー、今村陽太郎さん

チャーリー・パーカー(サックス)の代表曲の一つ「Confirmation」のテーマ(メロディ)を、サックス、トランペット、トロンボーンで何度も繰り返して演奏していました。パーカーの有名なメロディをひたすら体に覚えこませようとしているようでした。パーカーは、1940年代、それ以前の「スイングジャズ」に代わって盛んになった「ビバップ(Bebop)」をけん引しました。セロニアス・モンク(ピアノ)、ディジー・ガレスピー(トランペット)らと並ぶモダンジャズの草分けの一人です。素人感覚では、練習会でひたすら流れた演奏は最初からしっかりした演奏に聴こえるレベルでしたが、パーカーの音源(実際の演奏を録音したもの)に合わせて、全員で同じメロディに没頭する様子は、見ているうちに次第に息苦しくなってくるほどでした。

「何度も何度も繰り返して音源と一緒に演奏していると、パーカーほどの演奏でも、ほんの少しづつニュアンスの違いが分かるようになるんです」

ピント外れになるかもしれませんが、「ビバップ」という、ジャズ潮流が醸し出した空気を後世のミュージシャンが自分のものにするには、知識や理論の蓄積もさることながら、パーカーが録音という形で残した音列をひたすら追いかけ、演奏者としての息遣いや体力、独特なメロディやリズム感を実感できて初めて見えてくる世界もあるのでしょう。 

ソルフェージュに没頭するジャズミュージシャンたち

練習会では、ベースギターが弾く和音の進行をピアノでなぞりながら、耳で聴き取り、声に出して歌う練習に時間をかけていました。西洋音楽の基礎訓練の一つで、音楽理論を実際の音に結びつける力を養う「ソルフェージュ」。楽器を触る前に行う基礎練習として知られています。ジャズ演奏、特にビバップ以降のモダンジャズの場合、ピアニストやベーシストなどが自分の即興演奏に合わせて全く同じ音列を歌いながら弾くシーンを見ることができます。「ソルフェージュ」を身に着けて初めて可能になる演奏です。 自分の頭(?)に音列(メロディー)が自然に浮かび、その音の並びに沿って自在に楽器を操ることができれば、楽しいだろうなあ。

ジャズの世界では、楽譜を読めなかった有名ミュージシャンのことが時々話題になります。「あんなに有名なジャズマンが譜面を読めなかったのか」。読譜修業中の身からすると、不思議としか言いようのないエピソードですが、若手ミュージシャンが目の前で「ソルフェージュ」に懸命になっているのを見ているうちに「あの巨人たちは、譜面を読めないのではなく、もともと必要としなかったのだ」と突然、思い当たるのでした。

今村陽太郎さんに聞く

ジャムセッションを前にインタビューに答える今村さん

-練習会ではパーカーの「Confirmation」のメロディ(テーマ)を全員で何度も繰り返して演奏したり、クラシックでは基本とされる「ソルフェージュ」を導入していましたね。練習会を始めた理由は何ですか? 

今村:もともとは、よく一緒に演奏しているヒロミ君=廣海大地さん(サックス)が東京で受けて来たレッスンの内容がとてもよかったので、仙台でも仲間内でレッスン内容をシェアする場を作りたいというところから話は始まりました。

僕も、ミュージシャン同士が気軽に情報交換できる場があればいいなと考えていたので、是非やろうということになったのですが、他のプレイヤーがどれくらい興味を持ってくれるか分からないし、サックスとドラムの二人でやっていても限界はあるので、最初からいろいろなプレイヤーに呼び掛け、オープンな場として取り組もうということになりました。

基礎練習やコピーはもちろん個人でもやるわけですが、例えばこの練習会でやっているリズムの基礎打ちを数人でやるうちに、1人では分からない、アンサンブルとして大切なことが見えてきます。ソルフェージュに関しても、楽器を触る前に耳を鍛える、リズム感を鍛えるなど、楽器に関係なく必要な基礎の1つなので、そういった基礎の底上げを僕自身、この練習会を通して取り組んでいきたいと考えてやっています。

-練習会は今後も続けますか?

今村:できる限り続けたい。今の段階ではとりあえず僕の方から「こういうのをやろうよ」と提案することが多いですが、いずれは、それぞれ課題曲や、理論的な悩みなども持ち寄って、自分ひとりでやっていても分からないとか、うまくいかないことを一緒に考えたり、それぞれのアイデアを試したりできる場になっていけたらいいなと思います。

-練習会に来ている人の中では、今村さんが年齢が上だし、リーダー格ですね。「鬼」でも「仏」でもいいので、引っ張ってくれる人がいる方がいいですね。

 今村:本音をいうと僕よりちょっと上の世代の方々にそれを期待しているんです(笑) 僕は、古川の佐藤栄寿さん(ドラム)や片倉加寿子さん(ピアノ)のようなジャズの先輩方に多くのことを教えていただいています。そういった先輩方に見守られているのは強く感じるのですが、半面、仙台という土地柄なのか、よく一緒に演奏する仲間や先輩ほど、演奏の根幹の部分について話したり練習したりする機会は少ないように感じます。自分自身、今も沢山の悩みがありますが、自分より若いプレイヤーについて言えば、僕が先輩方から教えてもらったアドバイスを彼らに伝えて、一緒に追いつけ追い越せと頑張っていければいいなと。

 ―あらためて仙台圏を見渡すと、プロだけではなく、数多くのアマチュアが活動しています。プロとアマチュアの違いをどこに見出しますか?

今村:自分の出す音に生活がかかっているかどうか、という点が一番大きな違いだと思います。仙台のような、地方のジャズシーンでプロで食べていこうとするのは、これから更に難しくなっていくと思います。経済的、商業的な意味においてですが、そういう部分で戦ってくれているミュージシャンがプロの世界にはいて、ジャズが仕事に結びつく場面を作ってくれています。ですが、そうした事柄はプロにとっては重要な問題ですが、アマチュアの人たちからすると、さほど重要ではないんですよね。

だからと言ってプロじゃない人が真剣にやってないか?といったらそうじゃないと思います。それぞれの生活の中で音楽と向き合ってるんだと思います。実際、仙台にもアマチュアで、プロ顔負けの素晴らしいプレイヤーの方々は沢山いらっしゃいます。一番大事なのはプロかアマチュアかではなく、今の自分よりよくなりたいとか、いい音楽を演奏したいと思う気持ちだと思います。楽器をやっている以上、もっとよくなりたいという情熱は誰でも持っていると思います。僕は、プロアマの垣根なく、そういった人たちと繋がっていたいんです。上手いかどうかという事よりも、どういう気持ちで音楽をやっているかを大切にしたいんです。

そういう気持ちは絶対に音に出るので、この練習会のようにジャズビジネス、ミュージックビジネスといった事を抜きにして、純粋にジャズが好きなプレイヤー同士が研鑽できる場所がある事、そこに集まってくれる人がいる事が何より嬉しいんです。

-ビジネスとは切り離したところでも、ジャズをやりたいという熱量の高い人たちをもっと見出したい?

 今村:そこまで大げさではないんですが、そういう気持ちのある人たちと、一緒に僕も成長していきたい。そういう意味では(プロもアマチュアも)みんな仲間なんです。週1回、練習会とは別にジャムセッション(詳しい曲決めなどをせずに、現場で即興的に演奏する場)を主催しているのですが、セッションをやっても、音楽的なコミュニケーションにはなかなかならないような気がします。それぞれがやりたい事をやって終わり、になりがちです。あるいは、音を出したいからセッションに行くといった、セッション自体が練習の場となってる場合もあります。

ですが、様々なレベルの人達が集まるセッションで、演奏に関する議論を交わすのは難しいですし、その必要性を言い出したところでなかなか話はかみ合いません。この練習会に参加してくれているたちはそういったセッションではスルーされがちな部分を掘り下げたくてやってきている人たちなので、お互いに言いたい放題です(笑 )一緒の課題に取り組んでいる時に、他のプレイヤーの演奏から、なるほど、と気づかされることもあって、それに関して質問したりもします。そういった時間が大切なんだと思います。そうやって仲間と何かを共有する時間はプレイヤーにとって財産となると思います。ただそれが演奏として形になっていくには時間がかかるので、練習会は可能な限り続けていきたいです。

-最後にジャズに携わる人たちにメッセージを。

今村:仙台でも、様々な立場の人たちが、それぞれにジャズという音楽に携わっていますけど、大切なのは、立場じゃなく、ジャズが好きかどうか、音楽を楽しめているかどうかだと思います。僕も皆さんに楽しんでもらえる演奏ができるようにがんばりますので、今後ともよろしくお願いします。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

【連載】仙台ジャズノート
1.プロローグ
(1)身近なところで
(2)「なぜジャズ?」「なぜ今?」「なぜ仙台?」
(3)ジャズは難しい?

2.「現場を見る」
(1) 子どもたちがスイングする ブライト・キッズ
(2) 超難曲「SPAIN」に挑戦!仙台市立八木山小学校バンドサークル “夢色音楽隊”
(3)リジェンドフレーズに迫る 公開練習会から
(4)若い衆とビバップ 公開練習会より

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