【いまさら聞けない仙台市長選②】市長はいつもどんな仕事をしているの?

※この記事は、2017年の仙台市長選の際に執筆・掲載された連載です。

そもそも仙台市長の役割って?普段どんな仕事をしているの?今さら聞けないそんな疑問点について、政治学が専門で塾講師の池亨さんが、分かりやすく解説します。

第一回はこちら

さて、あなたがもし仙台市長に当選したら、一体どんな仕事が待ち受けているのでしょうか?市長を含む自治体のトップ(首長〈くびちょう〉と呼びます)の役割は地方自治法という法律によって、簡単にまとめるとこんなふうに定められています。

①首長は地方自治体を統括し、代表する。
②地方自治体の事務を「自らの判断と責任において誠実に」管理し執行する。

これだけでは、ちょっとぼんやりしていますね。②の中身から先に説明しましょう。

内部調整し「方針」を決める、組織のトップとしての市長

法律や制度の見かけの上では、市長は市の行政をひとりですべて背負って立つ「しくみ」です。とはいえ、市役所のこなすありとあらゆる仕事――例えば、税金を取り立てたり、道路の図面を引いたり、市バスの運行計画を立てたり、予算から業者に支払いをしたり、福祉の相談に乗ったり、証明書を市民に発行したり、など――をすべて市長の手でできるわけではありませんから、市長を助けるために、3人の副市長をはじめ一般の職員たちが後ろについて、市役所組織、つまり事務所として実際の仕事を行っています。

そこで、市長は市役所の中の仕事を調整し、どのように行うかの方針を広く決定することに主にかかわります。一方で、決定に基づいて市民に一定の行動を強いたり、公共サービスを提供したりするのが、ふつうの現場の公務員の仕事になるわけです。また市政の方針(一般的に、予算案や条例案、幹部人事などの形で現れます)について議会に説明し、正式な決定とするための議決や同意を得ることも必要になります。地方自治体は、「首長」と「議会」の2つの代表から運営されているからです。

災害時には昼夜問わず駆けつけて指揮、全市民の命と生活に責任

そうなると、市長は市役所のなかでさまざまな会議に出て話し合いをしたり、電子メールであがってくる報告を読んだり、仕事の指示を出したり、部下から上がってくる案件を決済するのに書類を読んでぺたぺたハンコを押したりしているわけです。またかなりの時間、市議会に出席して市議会議員にさまざまな説明をしたり、質問に答えたりしています。こういう仕事はなかなか目に付きにくく、その中身が専門的で一般の市民にわかりにくいことは否めません。しかし欠くことのできない必要な仕事です。

また、東日本大震災のときのことを思い出しましょう。各地の首長を見ていると分かるように、災害が起こりそうなとき、あるいは起こってしまえば昼夜を問わず駆けつけて指揮をとらねばなりません。住民に避難するよう指示を出す判断をしたり、避難所の開設や物資の調達などを職員に指示して行わせたり、国や県に要求を出したりします。全市民のいのちと生活に責任をもつわけですから、気の休まらない重い仕事であることは間違いないでしょう。

市の「シンボル」「顔」として、休日返上で飛び回る市長

さらには①にあるように、市長は全市民の代表です。国で例えてみると「元首」であり、政治的なリーダーでもあるわけですから、さまざまなイベントや会合に出て、挨拶をしたり、スピーチを求められることも多くあります。こうした市の「シンボル」としてふるまう仕事からも市長は逃れられません。仙台市のウェブサイトには「市長行動記録」がありますが、ここに出ているのはこの「代表」「シンボル」として住民に対応する、目につきやすい仕事です。こちらも土日の休日や祝祭日を返上してあちこち飛び回ることが多いようです。

市長の仕事は、民間の会社に例えてみると、対外的対内的に会社を代表して人々にメッセージを伝えまとめあげる「会長」としての「顔役」としての仕事(①)と、会社のなかのいろいろな業務に目を配り会社を動かしていく「経営者」「管理・監督者」としての社長の仕事(②)、これらの両方を兼ねているといっていいでしょう。

「実務」と「顔役」、どちらが大事?市によって比重は異なる

このどちらの要素が多くの割合を占めるかは、その市が置かれた状況によってことなります。仙台市は詳細な市長のスケジュールを公表していないのでわかりません。少し古い2012年7月のデータですが、同じ政令指定都市の広島市と大阪市の公務件数の例(執務時間の割合でないことに注意してください)をとってみると以下のようになります[北村:2013]。

広島市の例をみると、市政の規模が大きく安定しているところは、仕事を部下にまかせて「会長」的な仕事が多くなるといえます。仙台市をはじめほとんどの政令指定都市の市長はこちらの傾向が強そうです。一方、大阪市の橋下徹前市長のように、多くの課題を持っていて制度や組織の中身を変えようとしている個性的な市長は、住民対応を部下に任せ「社長」としての市役所の中の仕事が多くなる傾向があるのかもしれません。

池亨(いけ・とおる)

1977年岩手県一関市生まれ。埼玉県で育つ。宇都宮大学教育学部社会専修(法学・政治学分野)、東北大学大学院情報科学研究科博士前期課程(政治情報学)を経て、東北大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学(政治学史・現代英国政治思想専攻)。修士(情報科学)。宮城県市町村研修所講師(非常勤)、東北工業大学講師(非常勤)、(株)ワオ・コーポレーション能開センター講師等を経て、現在、(株)日本微生物研究所勤務。NPO法人メディアージ顧問。

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