【いまさら聞けない仙台市長選④】どんな人が市長になるの?選挙にかけられるお金はいくら?

※この記事は、2017年の仙台市長選の際に執筆・掲載された連載です。

そもそも、市長の役割って?普段どんな仕事をしているの?今さら聞けないそんな疑問点について、政治学が専門で塾講師の池亨さんが、分かりやすく解説します。

第一回第二回第三回

市長になるために必要な「三バン」

第1回で、仙台市長になるためには、満25歳以上の日本国籍を持つ人という以外の特別な資格はいらないというお話をしました。けれども、例えば普通のサラリーマンが、いきなり思い立って市長に立候補することは難しそうです。実際に市長の座を射止めるためは、いくつかの条件が必要になります。

政治家になるには、地盤・看板・カバンの「三バン」が必要だ、としばしば言われます。それぞれ、地盤は「後援会」や「政党」のような支持者組織、看板は「知名度」、カバンはお金、つまり選挙資金のことを指します。

これらの「三バン」を得るには、立候補するそれまでに、周りの人や団体から候補者として推されるような、何らかの行政能力を持つとみなされる「キャリア」を積むことがそれなりに必要になりそうです。それでは、仙台市のような政令指定都市の市長になるには、どのようなキャリアを経てきた人が立候補し、当選して市長になっているのでしょうか。

過去の仙台市長はどのような経歴の持ち主?

仙台市の奥山恵美子市長は、もともと市役所の職員(前職は教育長)でした。ずっと「行政ウーマン」として活躍してきたわけです。その前の梅原克彦市長は、仙台一高出身の元・経済産業省キャリア官僚でしたね。役人出身者が多いように思えます。

第2次世界大戦以降、住民から直接選挙で選ばれるようになってからの、歴代仙台市長の職歴と学歴を一覧にしてみました。


こうしてみると、行政出身者が多いですね。行政学者の田村秀さんの研究によると、近年は、政令市にとどまらない市長の経歴を調べる限り「市職員出身者」と「市議出身者」が、それぞれ3割近くを占め、大都市になるほど職員出身者が多くなるそうです。[田村:2003] また県知事はこれまで中央省庁出身者が多いといわれてきました。国会議員からの転身も目立ちます。

県に匹敵する、政令指定都市の市長さんの経歴もまとめてみました。上記の仙台市長をのぞく、現在の各市長さんたちは以下の通り。

 

(各市ウェブサイトならびに[北村:2013])

分類して円グラフにすると……

こうしてみると政令市では政治家と「役人」が多くを占めます。県知事のキャリアに近くなるでしょうか。

行政の大組織を率いるには、やはり、そのしくみや内情をよく知っている人を、ということでしょうか。弁護士も含まれています。法律家、医者や学者といった専門家が首長につくこともこれまでに見られます。これも専門的な能力が評価されてということもあるでしょう。マス・メディア出身や民間出身の人もいますね。マス・メディアの人は「知名度」が当選に有利に働きます、また話術やイメージも武器です。民間出身でも大企業のトップを勤めるなど、「組織を動かす経験」がある人です。

学歴も圧倒的に大卒以上。専攻の学部も法・政治・経済など社会科学系を学んだ人がほとんどで、理工系出身者はいませんでした。現在選挙が行われている横浜市の林文子市長だけが高卒で大企業経営者という「たたき上げ」として一人気を吐いています。

もちろん、まわりから「担がれねば」なりませんから、こうした人々が政治家・政党や支持団体との関わりができ、見い出されて、初めて立候補者としてクローズアップされてくるというわけです。

 選挙にかけられるお金はいくら?

さて「有能そうだ」、あるいは「知名度がありそうだ」とみなされて、本人もその気になって、立候補した場合、選挙運動をするために、一体いくらのお金が必要なでしょうか。

公職選挙法という法律で、しっかりと選挙の費用の上限は決められています。でないと、お金持ちに有利になってしまいますので。仙台市のような政令指定都市の場合、こういう計算式になります。

選挙の始まった日の有権者の数×7+1450万円

およそざっと計算してみると、仙台市の有権者数は平成29年7月8日現在で89万4066人なので、約2076万円まで自前の選挙費用を使うことができますこのうち選挙カー、ポスター、ビラは一定の限度内で公費から負担になりますので、それ以外の事務所を借りたり、運動員を雇ったりするお金などですね。

それからもうひとつは「供託金」です。売名目的の立候補や候補者乱立を防ぐためにできた制度ですが、国政選挙では諸外国に比べて高いことが指摘されています。政令指定都市の市長は240万円。すべての有効投票の10分の1をとらないと没収されてしまいます

こうした数々のことを乗り越えて候補者たちは最後の決戦を目指すわけです。立候補はなかなか重い決断です。みなさんはこうしたことをふまえて、どう各候補者の声に耳を傾けますか?

[参考文献]

田村秀『市長の履歴書―誰が市長に選ばれるのか』ぎょうせい、2003年。
北村亘『政令指定都市』中公新書、2013年。

池亨(いけ・とおる)

1977年岩手県一関市生まれ。埼玉県で育つ。宇都宮大学教育学部社会専修(法学・政治学分野)、東北大学大学院情報科学研究科博士前期課程(政治情報学)を経て、東北大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学(政治学史・現代英国政治思想専攻)。修士(情報科学)。宮城県市町村研修所講師(非常勤)、東北工業大学講師(非常勤)、(株)ワオ・コーポレーション能開センター講師等を経て、現在、(株)日本微生物研究所勤務。NPO法人メディアージ顧問。

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