【シニアネット仙台】高齢社会の自立をデザイン(3)

【連載】シニアネット仙台2016-高齢社会の自立をデザインする(3)

 仙台市の代表的な繁華街「一番町」のサンモール一番町商店街にNPO法人「シニアのための市民ネットワーク仙台(通称シニアネット仙台)」(丹野惠子理事長)の「一番町サロン」があります。20年ほど前、シニア世代がNPOを立ち上げ、多様な活動の拠点となるサロン的な場所づくりを自力で目指してきました。多くの高齢者たちがボランティアでサロンの維持運営にかかわっています。

 一方、財政難を背景とする介護保険法の改正に伴い、比較的軽度な要支援者を地域の介護力にまかせる流れが強まっています。「一番町サロン」のような、高齢者を地域全体でサポートする取り組みにも関心が高まっています。シニアネット仙台の20年の歩みを振り返り、自立型のサロンの意義や現状について報告します。【佐藤和文:メディアプロジェクト仙台】

連載・シニアネット仙台<第一回第二回

(3)互助こそ社会貢献

「社会貢献」について語る田村淳二さん。緩やかでリラックスした語り口から伝わってくるものは多い。2016年7月7日、シニアネット仙台のサロン一番町で。(佐藤和文撮影)
「社会貢献」について語る田村淳二さん。緩やかでリラックスした語り口から伝わってくるものは多い。2016年7月7日、シニアネット仙台のサロン一番町で。(佐藤和文撮影)

「シニアネット仙台が互助会だと言われるとしたら、かえってうれしいですね。シニア世代はそれまでの人生でいろいろ大変な思いをして、ここに集まってきます。かつて『企業戦士』だった人なら、ほとんどボロボロになってたどり着く場所でもあるわけです。自分たちの会費でそうした場所を自力で運営し、それぞれに役割を見つけて、まだまだ長い人生を送っていく。いずれは社会のお世話になるにしても、元気なうちは、まず自分がしっかりすることこそ、最大の社会貢献ではないでしょうか」

田村淳二さん(68)。金融機関を退職し、第2の職場に6年勤めた後、週に1回、「一番町サロン」に通い、シニアネット仙台の事務局を担当しています。会計担当の理事でもあり、シニアネット仙台の経営状況に最も詳しい一人です。NPO会計のソフトを一部、改修して誰でも使えるようにしたほか、2016年度に始まったウェブサイトのリニューアルでも、委員らの議論のたたき台になるようなサイトを作るなど、ITに強いところを見せました。

シニアネット仙台の会員の平均年齢は74歳。いわゆる「団塊の世代」でもある田村さんの68歳という年齢は、田村さん自身の言葉を借りれば「60代は、いわば使いっぱしり」です。

シニアネット仙台が20年前に誕生した直後、高齢者も、やがてはパソコンを軽々と使いこなすようになる、と希望的観測を抱いたものです。シニアネット仙台の発足にかかわった一人である筆者としては、当時、漠然と考えていたシニア像を田村さんに見出せるような気がして、何やら安堵感を覚えます。

シニアネット仙台を旗揚げしてから1年ほど過ぎたころ、シニア世代のパソコン活用を全米各地で支援していたNPO「SeniorNet」と交流したことがあります。サンフランシスコの隣町オークランドでリーダーの一人にインタビューした際、「わたしたちの事業は10年後には意味を失います。今でこそ、高齢者はITにどう接するかで苦労していますが、10年たたないうちに、シニアがパソコンを使いこなすのは当たり前になるからです」と話していたのを思い出します。NPOとしての中心事業を障害者支援にシフトする準備に入っているとのことでした。

田村さんの話を続けます。「最初はNPOには特別な関心はなく、趣味の会にでも入ろうと思っていたんです。誘われて66歳でシニアネット仙台をたずねてみると、まず、事務局にいろいろな人がいるのが印象的でした。女性も男性も、社会的な役割を終えてやっと自由になって、ふらふらとここに来る。サロン一番町には、そうした人々を受け入れる土壌があるし、実際の活動も多様です。存在意義をつくづく感じました。

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シニアネット仙台設立直後から続いているパソコン教室。ITがすっかり普及したとはいえ、支援を必要とするシニアはまだまだいる。2016年7月27日、シニアネット仙台のサロン一番町で。(佐藤和文撮影)

NPO分野の活動が日本でも注目されたのは1995年1月15日に起きた阪神・淡路大震災でした。シニアネット仙台が誕生する前の年です。その後、新潟県中越地震(2004年)を経て、2011年3月11日の東日本大震災、熊本地震(2016年4月)と、自然災害が頻発してきました。その度にボランティア活動、非営利団体による支援活動が大規模に行われてきました。

一方、自然災害という、いわば有事の社会貢献とは別に、平時の、ある意味、あまり目立たない社会貢献の分野があることをシニアネット仙台の現場は、いつも思い出させてくれます。田村さんの言葉を借りれば、それは「特別に肩ひじを張らなくていい社会貢献」ということになりそうです。

「わたしたちが誰かのために何かをすることだけが社会貢献ではないと思います。特別に肩ひじを張らなくていい。わたしたちがシニアネット仙台に集まること自体が社会貢献になるはず。シニアネット仙台の一番町サロンに来る人たちは皆さん、主に公共交通機関を使って、自分の足で歩いてきます。家に閉じこもってばかりいては、心の問題にとらわれるかもしれません。シニアネット仙台に顔を出すことで自分の問題をまず解決するわけです。こんなにいいことはないですよね。われわれのようなシニア世代が存在すること自体が社会貢献だと思っています」

「行く所がある、会う人がいる、することがある」−。シニアネット仙台の「サロン一番町」がスタートした当時、大勢のリーダーたちが考え抜いて作ったサロンのキャッチフレーズです。
【連載・シニアネット仙台】第一回第二回

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