仙台駅前に現れた「テトラポッド人間」(若栁誉美撮影)

夏休みに入ったばかりの2019年8月4日、日曜。前日の最高気温35度、そこから考えると若干は涼しく、それでも30度は超えていたこの日。昼下がりの仙台駅前ペデストリアンデッキ(歩行者用通路)に突如、「テトラポッド人間」が現れた。段ボールで精密に形作られたテトラポッド(消波ブロック)形状のものを被って歩く人たちがいたのだ。

「やば。テトラポッドじゃん」

写真には3基写っているが、少し離れた場所にも数基。全体で10基ほどだった。周囲には近づいて触れてみる子どもや、「え、やば。テトラポッドじゃん」と遠目から見守る女性3人組の姿が。

このゲリラパフォーマンスに偶然遭遇した記者は思わず写真を撮ったのち、Twitterで検索。するといくつかの投稿で、仙台市内のアーケードを歩く様子や駅構内を闊歩する姿を見ることができた。そしてその夜、この企画を主導した方々を取材することができた。

仙台のアーケード商店街を歩く「テトラポッド人間」(写真提供:岩間智紀さん)

「違和感」から「日常の気づき」へ

お話を伺ったのは、東北大学美術部の森内一生さんと岩渕わか菜さん、同大学に通う石津光さん。始まりは、森内さんが出身地の徳島でテトラポッドを見てインスピレーションを受け「これを作ってみたい」と思ったことだという。森内さんの所属する美術部では、キャンバスだけでなく段ボールに絵を描くこともあり、段ボールでテトラポッドを制作することを思いついた。

展示場所としてまず考えたのが、美術館だった。本来は海にあるテトラポッドを美術館に置いたら、人はどう感じ、どう見てくれるのか。そこに「違和感と、日常への気づきを生み出したかった」と、森内さんは語る。「テトラポッドって本来海にあるよね、と気づくことで、テトラポッドを再認識する。存在することが当たり前になっているものを、別の場所で見ることで再認識するきっかけを作りたかった」

制作したのは、森内さんらが所属する仙台を拠点に活動するアート集団、キラーギロチンのメンバー11人。消波ブロックを製作する企業が開示している設計図を元に、どの大きさが綺麗に見えるか、何度も何度も作っては壊し、を繰り返した。段ボールで作る、という点も困難を極めた。消波ブロックはコンクリート製のため多少丸みを帯びているが、段ボールを組み合わせてその丸みを作るには、何枚もの細かいパーツを組み合わせる必要がある。2カ月後やっとできあがった初号機は2019年3月、宮城県美術館で開催された東北大学美術部の展覧会に展示された。

宮城県美術館に展示されたダンボール製テトラポッド(写真提供:森内一生さん)

1回目の展示を通して気づいたのは「1個では違和感が薄い」ということ。森内さんは、同期で仲のよかった石津さんに相談を持ちかけた。二人の会話の中で「数を増やす」「クレーンで吊るす」「部屋の床をテトラポッドで埋め尽くす」という案が次々に生まれ、第2弾として「大量の段ボール製テトラポッドを海岸に並べる」試みを5月、宮城県東松島市の海岸で実施した。

宮城県東松島市の海岸に並べられたダンボール製テトラポッド(写真提供:森内一生さん)

この頃から「街中にテトラポッドを出現させたい」「テトラポッド人間をやりたい」という話は出ており、ちょうど実行したタイミングに記者が出くわした、ということだった。

「見向きもされないもの」に意識を向けたい

石津さんは以前、仙台に住む子どもたちに何気なく「夏休みは海で遊ぶの?」と聞いたことがあった。するとその親御さんに「震災以降、海で遊ぶことはなくなったんですよ」と言われ、そのことが今でも頭に残っているのだという。

震災後、人目に触れる機会が少なくなってしまったテトラポッド。それを街中に持ってくることで、その存在を改めて意識するきっかけをつくりたかったのだと、制作メンバーたちは語る。「見られることのなくなったテトラポッドの反逆ですかね」と、石津さん。

街中に突如出現したテトラポッドを、人は避けて歩く。まるで海辺のテトラポッドが波をせき止めるように、人波の流れを変える。

「誰からも見られていない何か、を人々の眼前に差し出すことを続けたい」。その意味で森内さんが今気になっているのは「街灯」だという。「あれ、すごいっす。次は街灯に注目させたいですね」

(写真提供:岩間智紀さん)

今回のパフォーマンスの様子を撮影した動画は、9月末に開催される「第8回せんだい21アンデパンダン展」に出展される予定だ。

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