【齋藤敦子(映画評論家・字幕翻訳家)=東京】11月3日にクロージング・セレモニーがあり、以下の賞が発表になりました。

●コンペティション部門
東京グランプリ:『グレイン』監督セミフ・カプランオール(トルコ)
審査委員特別賞:『ナポリ、輝きの陰で』監督シルヴィア・ルーツィ、ルカ・ベッリーノ(イタリア)
最優秀監督賞:エドモンド・ヨウ『アケラット-ロヒンギャの祈り』(マレーシア)
最優秀女優賞:アデリーヌ・デルミー『マリリンヌ』監督ギヨーム・ガリエンヌ(フランス)
最優秀男優賞:ドアン・イーホン『迫り来る嵐』監督ドン・ユエ(中国)
最優秀芸術貢献賞:『迫り来る嵐』 最優秀脚本賞:『ペット安楽死請負人』監督テーム・ニッキ(フィンランド)
観客賞:『勝手にふるえてろ』監督 大九明子(日本)

今年はアジアの未来部門に集中したため、コンペティション部門は数本しか見られませんでしたが、特に欧米の作品に顕著なのですが、作品のレベルに問題があるように思いました。プレミア作品を優先する限り、作品の質が犠牲になるという東京の課題は、このまま解消されないでしょう。

今年の審査員はトミー・リー・ジョーンズを長とし、イランの監督レザ・ミルキャリミ、フランスの映画監督マルタン・プロヴォ、中国の女優ヴィッキー・チャオ、俳優の永瀬正敏の5人。受賞作を見ると、作品として整ったものが好まれたように思いました。


ミャンマーのロヒンギャ難民が主人公の『アケラット-ロヒンギャの祈り』

東京グランプリの『グレイン』を撮ったトルコのセミフ・カプランオール監督は、『卵』、『ミルク』、『蜂蜜』という三部作が有名で、特に『蜂蜜』は2010年にベルリン映画祭で金熊賞を受賞しており、この作品は未見ですが、完成度が高かったものと思われます。

私が見た中で印象に残ったのは、カザフスタンのジャンナ・イサバエヴァ監督の『スヴェタ』と、マレーシアのエドモンド・ヨウ監督の『アケラット-ロヒンギャの祈り』でした。

『アケラット-ロヒンギャの祈り』に主演したダフネ・ローさんとエドモンド・ヨウ監督

ロヒンギャというのはミャンマーのラカイン州に住むイスラム教徒で、仏教徒が9割のミャンマーでは少数民族。過激化した仏教徒の弾圧で、2012年からの5年間で17万人が難民として国外に逃れている、という状況は日本でも報道されました。今年のカンヌで見たバルベ・シュローデル監督の『尊師W』という作品が、過激派仏教徒を扇動し、ロヒンギャを迫害させている急先鋒アシン・ウィラトゥ師を主人公にしたドキュメンタリーで、ロヒンギャ迫害には彼らが住む土地で発見された油田の利権が絡んでいるため、政府高官が見過ごしているという裏事情も明かされていました。

『アケラット-ロヒンギャの祈り』は、留学資金を盗まれたために、ロヒンギャ難民で人身売買をするマレーシア人ギャングに手を貸すことになる娘を主人公にした作品で、題名の“アケラット”とはロヒンギャの言葉で来世のこと。詩情豊かな作品でしたが、娘の視点で間接的に描かれているため、『尊師W』の後で見ると、いかにももどかしく、踏み込み足りない気がしました。ある意味、ロヒンギャ問題に対するマレーシアやタイ、日本を含めたアジア諸国の立ち位置の曖昧さがよく捉えられていたと言えるかもしれません。

ロヒンギャ問題を取り上げたバルベ・シュローデル監督の「尊師W」。今年のカンヌで注目を集めた。

マレーシアと日本の関係が次第に浮き上がってくるドキュメンタリー『ヤスミンさん』

エドモンド・ヨウ監督にはもう1本、クロスカット・アジア部門で上映された『ヤスミンさん』というドキュメンタリーがあり、私にはこちらの方がより面白く思えました。

『ヤスミンさん』は、昨年の<アジア三面鏡>の1編、行定勲監督の『鳩』のメイキングとして撮り始められたものの、主人公のヤスミンを演じたシャリファ・アマニにインタビューするうちに、シャリファが映画に出るきっかけを作った故ヤスミン・アフマド監督との思い出に横滑りしていく、というもの。『鳩』の行定監督や出演者の津川雅彦、永瀬正敏らの話や、ヤスミン・アフマド監督が亡くなる直前に準備していた『ワスレナグサ』がアフマド監督の日本人の祖母を描く作品になる予定だったことなど、様々な要素を混在させていて、その中からマレーシアと日本の関係が次第に浮き上がってくる、歴史的かつ距離的な近さ(遠さ)を考えさせられる映像エッセーでした。

会場のTOHOシネマズ六本木ヒルズ

 




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