【東北大発】夜空に「人工の流れ星」を降らせる宇宙ベンチャー ALE

【安藤歩美】夜空に「人工の流れ星」を降らせる。そんな夢のようなミッションを掲げるスタートアップがある。株式会社ALEは夜空をキャンバスに見立て、独自に設計・開発した人工衛星で宇宙から「人工の流れ星」を降らせる、壮大なエンターテイメント事業に挑んでいる。

「流れ星は、作れるかもしれない」

東京大学大学院理学研究科で天文学の博士号を取得している岡島礼奈代表。「人工の流れ星を流す」という発想が生まれたきっかけは、2001年のしし座流星群だったという。「流星群が、すごく美しくて。天文学者の間では、流れ星は作れるかもしれない、という話もありました。もしちゃんと流れ星が作れたのならエンタメにできるし、データの少ない大気の中間圏の情報も集められるかもしれない。基礎科学の発展に貢献したい気持ちが強かったので、科学を発展させられるようなビジネスに挑戦してみたい、という思いでした」

岡島代表は2011年に株式会社ALEを立ち上げ、東京都立大学や日本大学、神奈川工科大学の研究者らとともに「人工流れ星」の研究をスタート。どんな装置なら作れるのか、どうすれば明るく光るのかなどの要素技術を研究する日々が続いた。投資を受け、流れ星を発生させるための人工衛星を作る段階まで来たとき、超小型人工衛星の設計・運用に実績のある東北大学大学院工学研究科の桒原聡文准教授にその構想を相談した。

桒原准教授はそのときの印象について、「最初は無理だと思いました」と微笑む。「人工衛星は普通、分離するものが一切出ないように作るのですが、ALEの人工衛星はものを放出させなければならず、これまでとは全く別の安全性が求められるからです。でも直接岡島さんにお会いしたときに、夢を持って、みんなを巻き込んでいくその求心力がすごいな、と」。岡島代表の熱量に胸を打たれ、桒原准教授は2017年に同社CTOに就任。人工流れ星を降らせるための小型人工衛星の設計・開発をともに進めていくことになった。

「人工流れ星」のプロジェクトは2017年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「革新的衛星技術実証プログラム」に採択された。そこからわずか1年半の開発期間で、東北大・桒原研究室とALEは共同で人工流れ星を発生させるための小型人工衛星を開発。通常は300〜400kgという衛星を70kgまで小型化し、JAXAから求められる厳格な安全審査を何度もクリアした。そしてALEの小型人工衛星「ALE-1」は2019年1月、JAXAの打ち上げる小型ロケット・イプシロンに搭載されて宇宙へと飛び立った。

2019年12月には2号機を打ち上げ、初号機は2019年12月から高度を降下させるミッションを開始している。同社は2020年中に2号機での人工流れ星の実現を目指していたが、動作不良のため断念。現在開発中の3号機で、2023年の実現を目指す計画だ。

「人工流れ星」から、宇宙産業を広げていく

ALEの「人工流れ星」は実現すれば200km圏内の地上や洋上から眺めることができるという。流星の素になる1cmほどの粒は完全に燃え尽きるため宇宙ごみにもならず、宇宙空間を飛行する他の人工物にも当たらないよう設計されている。

人工衛星から流れ星を放出するイメージ図。ALE社HPより

同社の計画する「Sky Canvas」は、夜空をキャンバスに見立て、流星群をエンターテイメントとして楽しめるようにする事業だ。想定している顧客は国を中心に企業、個人と幅広く、観光地の夜を盛り上げるキャンペーンとしての長期間の導入や、企業の商品PR、個人へのプレゼントなど用途には「余白が多く、使い方を顧客側が考えることができるのもおもしろさの一つ」という。

同社は「人工流れ星」の衛星を用いて、大気の中間圏のデータを取得・分析する事業も進めていく計画だ。岡島代表は「中間圏の大気の分析は、気候変動のメカニズムの解明や異常気象の予測に役立ちます。気候変動のメカニズムが分かれば取るべきアクションもわかってきますし、異常気象の予測精度の向上は防災や避難行動にも役立つはず」とその意義を語る。

ALEは、人工衛星がデブリ(宇宙ごみ)にならないための独自の宇宙デブリ拡散防止装置も開発している。例え人工衛星が壊れたとしても独立して機能するしくみで、岡島代表はこの装置を今後製造される人工衛星のために量産化していく事業も視野に入れている。

東北大学桒原研究室で開発された小型人工衛星の内部

東北を宇宙産業の集積地に

同社は2019年にシリーズAラウンドにおいて総額約12億円の資金調達を完了。2021年2月にはシリーズA追加ラウンドとして第三者割当増資を実施し、2022年4月までに総額約22億円の調達を完了する予定だ。累計調達金額は総額約49億円となり、「人工流れ星」の夢の実現に、加速度的に近づいてきている。

工学研究科の吉田和哉教授が取締役を務めるispaceや、桒原准教授がCTOに就任したElevationSpaceなど、近年、東北大学の宇宙工学の技術を生かしたスタートアップも次々立ち上がりつつある。岡島代表は「そうした動きはうれしい。宇宙産業はいま黎明期で、これからちゃんとした産業に育てていかなければいけない時期。東北はその集積地として、宇宙開発の拠点になれるのではないかと思っています」と、東北大学を中心とした宇宙産業の盛り上がりに期待を込める。

ALEの掲げるミッションは「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」こと。人をわくわくさせるようなビジネスの力で科学の発展に貢献することが、岡島代表の目指す目標だ。「将来は、太陽系の外に行きたい。そのくらいの規模でやりたいですね」と、岡島代表。桒原准教授は「『宇宙を文化圏に』とはいい言葉で、月や火星に人類が出ていこうとしている、おもしろい時代に生きているなと思っています。流れ星を流すことができれば、ALEは加速度的にどんどん進んでいくはず。すごいことになると思いますよ」と語った。

東北大学スタートアップガレージコラボ企画:東北大発!イノベーション】2020年、世界大学ランキング日本版の一位になった東北大学。世界最先端の研究が進む東北大では今、その技術力を生かして学生や教職員が起業し、研究とビジネスの両輪で世界の課題解決に挑む動きが盛んになっています。地球温暖化、エネルギー問題、災害、紛争、少子高齢化社会…そんな地球規模の問題を解決すべく生まれた「東北大学発のイノベーション」と、大学に芽生えつつある起業文化を取材します。

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