【安藤歩美(仙台市)】新型コロナウイルスの影響で、経済的に困窮した人を対象に食料を無償で提供する「フードバンク」の活動が改めて注目されています。そもそも「フードバンク」ってどんな活動をしているの?現在の支援の現場で目の当たりにしている課題とは?そして、私たち一人ひとりができることは?
今年5月に宮城県仙台市で設立された「フードバンク仙台」代表の小椋亘さんに、フードバンクの支援現場の現状と課題について伺いました。
お話を聞いた方
小椋亘(おぐら・わたる)さん
1982年仙台市生まれ、仙台市育ち。県内初の障がい種別を越えたネットワーク「みやぎアピール大行動」や「被災地障がい者センターみやぎ」、2016年4月施行の仙台市障害者差別禁止条例の制定運動団体「条例の会仙台」の事務局を担当。2017年4月からNPO法人「ふうどばんく東北AGAIN」で活動。2020年5月〜「フードバンク仙台」を設立し代表に就任。
フードバンクってどんな活動?
取材した6月13日も、フードバンクの活動を終えたばかりだった小椋さん。経済的に困っている学生向けに食料を配布し、この日だけで60人分の食料を配布したといいます。
「フードバンク」とは、「家庭や企業の余剰食品を無償で提供していただき、生活に困っている人に無償で提供する活動」(小椋さん)です。5月に設立されたばかりのフードバンク仙台では、毎週月・木・金の週3回の活動で、6月13日時点ですでに仙台市内の述べ188世帯、400人に食料の提供をしています。
活動の現場をよりよく知るために活動中のお写真を提供してもらい、小椋さんに説明していただきました。「こちらはフードバンク仙台の事務所です。フードバンクは無償性の活動のため、応援して下さる有志の方に物件やライフラインを無償で提供していただいています」
「こちらは5月下旬に学生向けに提供するための70人分の食料を準備したものです。学費は上がり続けている一方で親御さんからの仕送りは減っており、生活費を自分たちで稼いでいる学生さんが多い。そんな中、コロナで(学生のアルバイト先である)飲食店が休業した影響は大きいと感じています」
「こちらも学生さん向けに食料配布の準備をしているところです。みやぎ学生緊急アクションのアンケート結果によると、学生の20%が(経済的な問題で)退学を検討している状況ということです」
コロナ以前からある「相対的貧困」問題
新型コロナウイルスの影響による失業や勤め先の休業などの影響で経済的に困窮する人が増える中、フードバンクのニーズは急激に高まっているといいます。2017年から県内の別団体でフードバンクの活動をしてきた小椋さんは「去年の5倍ほどの申し込みがある」とその実感を語ります。従来の支援先に加え、新型コロナウイルスの影響でそれまでフードバンクを利用してこなかった人々からも支援が求められているためです。
「コロナ前に関しては障害や持病があったり、さまざまな理由で働くことが困難でぎりぎりの生活をしていた方がSOSを寄せることが多かった。それに加えてコロナ以降では、『生活設計が崩れてしまった人たち』からも支援が求められています。例えば一月20万円の給料を前提に生活してきた人が、給料が下がって車のローンや保険などが支払えなくなるケースなどです」
小椋さんは後者の支援先については「働く場所が復活すればもとの生活に戻れる人が多い気はしている」と話す一方、フードバンクが求められ続ける背景にある日本の根深い貧困の問題について指摘します。
「コロナが起きる前から、日本では6人に1人が相対的貧困(※1人世帯で、年間の手取り収入が122万円以下で生活している人。世帯人数によって基準は異なる)という状況があります。それに輪をかけるように今回のコロナが起きた。ネットカフェで暮らしながら日雇いで働いてきた人が路上に投げ出されるなど、元々ぎりぎりで生活してきた人の生活がもう限界、とSOSを寄せてきています」
厚生労働省の2019年1月の調査によると、仙台市の路上生活者数は85人。この調査にも参加した小椋さんは「寒い時期の調査ということもあり、実際に路上生活をしている方は100人ほど、ネットカフェ難民と呼ばれる人たちも100人ほどいるのではないかと言われています。今回のコロナでもっと増えているのではないか」と話します。
「相対的貧困とされる人が6人に1人いながらSOSがそこまで出てこないのは、SOSが出しにくい社会だからなのではないか。助けて、困っている、というSOSが受け止められる社会になればどんなにか楽か、と思います。アメリカのリーマンショックやコロナなど、世界中が不況になる出来事が起きる中で、経済的に困窮することが果たして自己責任なのか?というと決してそうではないと思いますし、障害があるなど複雑な事情で経済的困窮に陥る人が多くいるということを知っていただきたいです」
一人ひとりができることは
経済的に困窮している人に対し食料提供という形で支援活動を続けるフードバンク。新型コロナウイルスで多くの人が生活に困窮する中で、一人ひとりができる具体的な行動とは、一体何なのでしょうか。
周りで困っている人に声をかける
「SOSの声をあげにくい社会」を指摘する小椋さんが提案するのは、まず自分の周囲で食べ物がなくて困っている人に声をかけ、フードバンクの存在を紹介することです。「誰もがそうだと思うのですが、人はうれしいことは言えるけど、困っていることや食べるものがないということは声が出にくい。周りにそういった人がいれば、遠慮なく団体を紹介してほしいです」
余っている食料を提供する
フードバンクの支援ニーズが急激に大きくなる中、食料の在庫が不足しているそうです。宮城県ではフードバンク仙台を含め7つのフードバンクがあるといい、基本的に地域ごとに分かれて活動しているとのこと。お住まいの地域や馴染みのある地域で活動している団体を探し、家庭や企業で余っている食料を提供するのがいいかもしれません。宮城県では県南にフードバンクがなく、子ども食堂などが食料支援活動をしている場合があるそうです。
家庭の食料を提供する
フードバンクによって条件に違いはあるそうですが、フードバンク仙台では賞味期限が切れておらず常温保存可能な食料を募集しているとのこと。通常は賞味期限が一カ月以上あるものを募っていますが2020年6月時点では緊急事態ということもあり、賞味期限が切れていなければレトルト食品、お米、調味料など何でも大丈夫とのこと。事務所への持ち込みと郵送で受け付けているそうです。
企業の余剰生産品や備蓄品を提供する
企業の余剰生産品や備蓄品の入れ替えで発生する余剰食品などは量が多いため、ぜひ提供いただきたいとのこと。卸業者や食品関係(農協や漁協なども)の企業と協力を模索しているといい、会社で賞味期限が切れていないのに廃棄する予定の食品などがあれば、フードバンクに問い合わせてみてはいかがでしょうか。
寄付をする
各フードバンクは基本的にボランティアで活動しているため、活動の持続のためには寄付金を贈ることも地域活動の支援につながります。各フードバンクがHPで寄付先の口座や方法を明記しています。
ボランティアに参加する
ボランティアでフードバンクの活動を手伝うというのも支援方法の一つ。フードバンク仙台でもボランティアを募集しているとのことで、小椋さんは「みんなが大変な時期だからこそお互い助け合おうという気持ちで活動していけたら」と呼びかけました。
フードバンク仙台
問い合わせ先:foodbanksendai★gmail.com(★を@に変えて下さい)
※電話が殺到しているため、メールでの連絡をお願いしているそうです。
https://blog.canpan.info/foodbanksendai/
この取材は2020年6月13日夜、TOHOKU360の「公開取材」という形でYouTube生配信されました。約30人が同時視聴し、コメントで質問や意見を寄せました。動画ではより深い話が聞けますので、ぜひ興味のある方は以下からご覧下さい。
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