【続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!)

【佐藤和文】メロディ楽器を扱うようになり、あらためて意識するようになった言葉の一つに「耳コピー」というものがあります。英語では「transcription(トランスクリプション)」。直訳すると「転写」「採録」でしょうか。ジャズの大御所たちの音源を聴き、聴こえてきたフレーズを楽譜におこすことを意味します。楽譜におこすだけでなく、実際に演奏できるように練習することを含みます。
ジャズリジェンドたちの演奏を追いかけることによって、ジャズ的な語り口やニュアンスを把握し、自分の演奏に取り入れるのが目標です。いわゆる「ジャズ言語」を身に着け、ジャズ的な演奏に少しでも近づくには「耳コピー」しかないとまで言われる重要な課題ですが、依然としてたどたどしいアドリブ志願者にとっては、とても難しい作業です。
耳コピー」するには時間もかかるので、実際は好きなミュージシャンの音源を聴きながら印象的なフレーズをつまみ食い的にコピーし、何度も演奏してみるぐらいのことしかできません。それでも、小さな積み重ねの中で、見えてくるもの、感じることが必ずあるはずです。
筆者の場合、学生時代以来、ドラムという楽器を通じてリズムの世界になじんできました。大御所たちジャズフレーズを完成度高く「耳コピー」することは難しいとしても、ジャズ特有のリズム面で、彼らがどんな演奏事例を見せてくれるのかを意識するだけでも、何かにつながるような気がします。
そんなことを考えながら迎えた年末年始。数多く聴いたアルバムの中からピアニスト、ビル・エバンスの名盤「ポートレイト・イン・ジャズPORTRAIT IN JAZZ」について紹介しておきます。このアルバムは言わずと知れた名盤中の名盤。学生時代に巡り合って以来、のめりこんだ1枚です。いずれも名演ぞろいなので、今さら冷静に評価できるかどうか自信はないのですが、今回は手元にあるレコードのA面6曲目「Peri’s Scope」についてメモを残しておきます。

「Peri’s Scope」はビル・エバンスのオリジナルです。「耳コピー」つながりで言えば、エバンス流のジャズ的ニュアンスをしっかり聴き取ることができる作品です。アルバムに含まれている他の曲がトピック先行的に注目されたのに比べると「Peri’s Scope」はやや地味。正直に言えば当時、どれだけこの曲に注目したかは少し怪しい。
ビル・エバンスの魅力を筆者が知ったのは60年代後半から70年代初頭のことです。当時からエバンスを「知的」だとか「リリシズム」だとか言って持ち上げる見方があった一方で、「スイングしない」「つまらない」といった評価も聞こえてきたものです。筆者の周辺ではたとえば、絶対的な人気を誇っていたオスカー・ピーターソンとの比較で「退屈だ」と受け止める空気がありましたが、ジャズ音楽を聴き始めたばかりの筆者は『エバンス退屈論』にうまく反論できませんでした。スコット・ラ・ファロのベースとの絡み、『インタープレイ』のすごさに夢中になっていたものの、エバンスのピアノの、どのへんがジャズ的魅力に富んでいるのかを掘り下げて指摘することはできませんでした。
リスナーとしての経験が乏しかったのはあきらかです。そして今なら「Peri’s Scope」でのリズム処理に耳を傾けるだけで恐らく十分。スリリングで、趣味のいいスイングをとにかく聴いてみてください。多くのジャズリジェンドたちが備えていたジャズセンスの一端を垣間見ることができるはずです。趣味のこととはいえ、当時だいぶ刺激を受けた、あの先輩にこの曲の魅力を強調しきれなかったのが返す返すも残念です。
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