家でも学校でも職場でもない、女性がひと息つける場所を。仙台「まちなか保健室」

柴田あきね】学校にあった保健室。ケガしたときはもちろん、なんだかだるい、教室にいたくない、クラスメイト以外と話したいときにも駆け込めた場所。そんな場所が、もし街の中にあったなら……。女性がホッとひと息つける、仙台市青葉区の「まちなか保健室」を取材しました。

10代20代女性のための“保健室”

仙台駅からほど近い、青葉区中央市民センターの調理実習室に筆者が初めて伺ったのは、今年4月のこと。16時から始まる「まちなか保健室」のため、運営のみなさんは和気あいあいと準備を進めていました。無料で提供される食事の下ごしらえで、鍋からいいにおいも漂っていました。これまでに提供されたメニューは、親子丼、カレー、なす味噌いため、野菜たっぷりミネストローネなど、栄養もおいしさも考えられた内容です。

みんなで食事をするだけではなく、さまざまな種類のヨーガ、テーマを決めてお話するくじびきトーク、クッキングプログラム、サバイバーのお話会、社会福祉士とのハンドバス、本やマンガを楽しめるまちなかライブラリーなどといったプログラムも用意されています。

提供した食事の一例

もりだくさんな内容ながら、この場所のいちばんの特徴は“自分で決める”という点。対象は10代・20代の女性、食事をした食器は洗う、ここで見聞きしたことは外に出さない……といった最低限の約束事はありますが、ごはんを食べるも食べないも、誰かと話すも話さないも、ためしに来て「私には合わないかな」と思ったらすぐに帰るのもOK。すべてにおいて参加者の意思が尊重されます。

「人生は“決断”の連続で、まちなか保健室での選択もその積み重ねのひとつ。“自分がどうしたいか、何を選びたいか”という気持ちと向き合うにきっかけにしてもらえれば」と運営団体「Sendai_RIGHTS」共同代表の佐久間博子さんは言います。

「まちなか保健室」が生まれた理由

「Sendai_RIGHTS」は2022年9月、生きづらさを抱えたあらゆる女性に寄り添いたいという思いから発足した、サバイバーと有資格者による支援団体。佐久間さんは、女性のメンタルヘルスとジェンダーに関して、日本にはたくさんの課題があると考えています。

「日本は生きづらさについてオープンに語りづらい社会であると同時に、男尊女卑が根深い環境のなかで、特に女性が苦しみを抱えやすい社会だと感じてきました。さらに、10代や20代の若い世代は、ほかの人や家庭の環境を見聞きすることが少なく、自分の生きづらさそのものに気づいていない人たちも多いと思います。そんな女性たちがふらりと立ち寄れる場所があれば、その場にいて話をするうち、心のモヤモヤに気づくきっかけになるかもしれないと考え、若い世代を対象にした『まちなか保健室」を始めました」

女性たちがさまざまな束縛から解放され、自由に生きてほしいという願いは、『Sendai_RIGHTS』のロゴマークにも込められています。テーマーカラーのターコイズには“自分のペースを取り戻す、大事にする”という意味があるそう。『Sendai_RIGHTS』の活動に賛同し、デザインを担当された畠山誠さんは“人とのつながり”をリボンに、“その先に見える色づいた景色”を虹に表現しました。

「Sendai_RIGHTS」ロゴマーク(デザイン=畠山誠さん)

「『まちなか保健室』に足を運んでくれた方には、ひとりぼっちじゃないし、ひとりで抱え込まなくてもいいんだよと伝えたい。何回も来てもらって、居場所のひとつにしてもらえたら嬉しいです」
そんな佐久間さんの言葉を聞きながら、若いころの筆者にもこういった場所があったなら……と思いを馳せてしまいました。

まちなか保健室」という第三の場所

“家でも学校でも職場でもない、第三の場所(サードプレイス)”という言葉を、筆者は最近よく耳にします。アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグが生み出した呼び方で、コロナ禍で移動が制限されるなか、ファーストプレイス(家)やセカンドプレイス(学校・職場)の役割を逃れて、“ただの自分”でいられる場所を確保する重要性がふたたび注目を集めるようになりました。

オルデンバーグが提唱するサードプレイスの条件を一部抜粋します。

・中立な場所であること →特定の組織や思想に属していない
・平等であること →個人の社会的立場に重きをおかない
・安心できる、ぬくもりのある雰囲気

参考書籍=『サードプレイス――コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』みすず書房

「まちなか保健室」のコンセプトはこういった考え方にも合致しており、今後ますます必要とされていく場所になるだろうと感じました。

活動を支援したい方ができること

2022年10月から月1回のペースで開催されている『まちなか保健室』は、ボランティアと寄付のみで運営されています。
物価高のなか、運営の方々は工夫をこらして食事の無料提供などを行っていますが、「まちなか保健室」を応援したいと感じた方には、以下のような方法があります。

・寄付金
・献品(食品) →長く保存できるお米、調味料、お菓子など
・プログラム実施のボランティア参加 →体操、小物作り、ネイルなどを教えられる女性(事前に個別面談)
・「まちなか保健室」の周知 →友人知人への紹介、SNSでの紹介

寄付金は「まちなか保健室」当日に持参するか、難しければ以下の連絡先に相談をするかたちとなります。献品は、保存場所の確保など準備が必要ですので、こちらも事前に連絡していただけると助かりますとのことでした。メールアドレスは、sendai_rights@yahoo.co.jp

次回の「まちなか保健室」は……

次回は2023年8月25日(金)16時から、青葉区中央市民センターの和室で行われます。基本的には毎月一回の開催予定ですが、詳細はSNSやウェブサイトでご確認ください。

・Instagram→ユーザーID: sendai_rights
・X(旧Twitter )→@sendai92943407
・ウェブサイト→https://sendairights.officialblog.jp/

『まちなか保健室』の取り組みがたくさんの方に知ってもらえるよう、一回でも多く開催できるよう、筆者も応援していきたいと思います。

*TOHOKU360で東北のニュースをフォローしよう
X(twitter)instagramfacebook