スマホ片手に短編映画撮影 舞台は「駅裏」と呼ばれた仙台駅東口

【渡邊真子通信員=仙台市】知人からのすすめで見たリーフレットの見出しに思わず惹きつけられてしまった。「日常映画化計画!『第一回東口映画セイサク会議』~東口の短編映画を作ろう!~」

東口とは、近年急速に発展しているJR仙台駅の東側地区のことで、今でこそ「東口」という名称が定着したものの、昔は「駅裏」と呼ばれていた。それほど、表側の仙台駅西口と駅裏側の東口の賑わいには雲泥の差があった。それが今ではどうだろう。見違えるような発展ぶりだ。仙台市の北部エリアに生まれ育った私は、東口住人となって約10年になるその間にも、東口は刻々と変貌を遂げてきた。そんな「東口」を舞台にスマホで映画作りなんて、ちょっと面白そう。そんな軽い気持ちで、2月11日土曜日に行われたその『東口映画セイサク会議』に参加してみた。

東口の魅力を「映画」で発信

会場は東北福祉大学東口キャンパスの2階。開始時刻ギリギリに入室したため、誰が参加者で関係者なのかもよくわからないまま、とりあえずすすめられた前のテーブル席についた。同じテーブルには3人の男性がいて、見たところ、女性参加者は自分ひとりのようだった。

仙台市宮城野区のまちづくり推進課では、地域の魅力を発見・発信できるプレイヤーを育てたいという想いで、様々な切り口(テーマ)を掲げ、集まった参加者同士をつなぎ、何らかのプロジェクトを生み出すことを目指す少人数制のサロンを以前より開催してきた。今回は助監督や地域での映画制作ワークショップなど、映像部門で活躍されてきた『映画ラボひとで』主宰の池内絵美さんが講師となった。単なる意見交換だけで終わらせたくないという池内さんの希望もあり、映画制作・上映まで行うワークショップ形式での開催となった。

メインロケ地は島崎藤村ゆかりの地

まずは、東口の榴岡地区町内会連合会会長や、明治創業の酒屋店主らによる地元にまつわる歴史や、島崎藤村と東口との縁についての話を伺った。

バレンタインデー直前ということもあり、東口の「初恋通り」と「藤村広場」周辺がメインロケ地となっていた。「初恋通り」とは、島崎藤村の詩集『若菜集』の中の「まだあげ初めし前髪の~」でお馴染みの詩『初恋』にちなんで名付けられた、複合商業施設BiVi仙台駅東口と仙台駅東口交番の間を通る歩行者専用の小道だ。「藤村広場」は、初恋通り近くの広場で、その中央には『若菜集』の表紙に描かれた蝶の模様が施されている。

初恋通り(渡邊真子撮影)
藤村広場(阿部哲也撮影)

明治29年、藤村は東北学院の英語教師として仙台に赴任してきた。「初恋通り」の塩竃神社・三吉神社の先にある「藤村広場」が、当時の下宿先跡といわれている。金もなく失意の中、柳行李一つで上野から汽車で仙台にやって来た藤村だったが、仙台で暮らした一年間は楽しいものだったようで、数々の名作もここで生まれた。藤村は仙台で暮らし、生まれ変わった。これは東口に関わらず、この逸話を知る仙台市民のちょっとした自慢話かもしれない(私たちの手柄でも何でもないのだが)。

藤村の『初恋』の中に登場する「林檎の花」は、当時この近くにあった梨の花を見て思い付いたのではないかということ、藤村は、梨畑や葡萄畑の散策を好んでいたということ。東口に塩釜市にある塩竃神社と同じ名前の神社が何故あるのかということ、住民が腰を降ろすと災いを招くとされ、恐れ尊ばれてきた「神石」と呼ばれる石が本宮の床下に安置されていて、塩竃神社のご威光で神石の災いが封印されているため、東口は戦禍の難を逃れたと言われていること、今は亡き「X橋」(1920年代初頭に建設された陸橋。Xの文字に形が似ていることからそう呼ばれた)の石材の一部が、「初恋通り」の藤村の詩碑に使われていること、などなど、初めて聞くこの地域にまつわる話の数々は実に面白かった。

「初恋通り」で撮ったラブストーリー

池内先生指導のもと、制作にとりかかる。まず行ったのは、先に伺った東口の歴史や島崎藤村にまつわる話で気になったキーワードなどを、各自ポストイットに書き出し、それをいくつもテーブルの上に貼り出す作業。

制作風景。キーワードを書き出す。(柳沼和宏撮影)

仙台駅東口、初恋、神社、藤村広場…それらを踏まえてざっくりとしたストーリー展開を話し合い、絵コンテを描く。自分ではイラストは得意な方だと思っていたのだが、ひどくラフなものになってしまった。ま、流れが分かれば問題はなかろうと。

制作風景。絵コンテ作業(柳沼和宏撮影)

とにかく時間が限られていたので、その雑な絵コンテとメガホンとスマホを携え表に出る。とりあえず思い付きで名付けられた制作チーム名は「恋する東口」。ネーミングにかける時間もなかった。最新式だった私のスマホが撮影用カメラとなり、扱いに慣れているという理由で必然的にカメラマンとなった。映像制作経験者が監督としてメガホンを握り、主演と助演はほかの2名。女性はひとりしかいないので、私も後半に少しだけ映像に映らねばならない。静止画を切り取る「カメラ女子」は多いのに、動画となるとやや不人気なのは何故だろう?もっと大々的に告知していれば集まったのだろうか?と思ったりもしたが、なんとなく「動画=可愛くないしややこしい」イメージがつきまとうのかもしれないと思った。肩に担ぐあの重そうなカメラ機材のイメージが、もしかしたら払拭されていないのかもと。なんとか1時間で撮り終え、急いで編集、上映となった。

スマホで手軽に撮影・編集

出来上がった作品の上映会(渡邊真子撮影)

おおまかなストーリーは「久しぶりに仙台に戻ってきた男性が、駅ビルの東口通路に降り立ち、初恋通り・藤村広場を散策中に初恋の人とバッタリ再会する」というもの。ベタである。ほとんど台詞なしの無声映画のような静かな画となったが、わずか1時間程度での撮影となるとこれが限界だった。仕上がりがどうであれ、私も含め、参加者はおそらく楽しんで撮影していたと思う。人通りの多い駅通路などで撮影をするのは、少々気恥ずかしいものであるが、何人かで「撮影をやっております」という雰囲気を醸し出せば、意外と行えてしまうものだなと。あちこちで少しずつ撮って移動してを繰り返し、池内さんのPCで若干削って全部つないでと、その作業だけでも単純に面白いものだった。そしてあらためて思った。スマホの録画機能で、なんて手軽にショートムービーが作れるのだろうと。編集ソフトさえあれば、それなりのものが私でも簡単に作れてしまうだろう。

たくさんの一般の方々がカメラ内に収まっているため、今回撮った映像をサイトなどで公開することは難しいが、いつかきちんと公開できるような短編を、もう少し時間をかけてまた撮ってみたいと素直に思った。

「面白そう」が入口でいい

この企画の担当者でもある仙台市宮城野区まちづくり推進課の佐々木祥尚さんは、「参加者のみなさんに“地域の魅力を掘り起こすことの面白さ”や“映画制作の面白さ”を感じでもらい、また映画を撮りたい!次はもっと良い作品を作りたい!という気持ちをもってもらえたら。そしてこのワークショップが、地域に関わるきっかけになれば非常にうれしい」と語る。講師の池内絵美さんも付け加える。

「面白そう!という興味が入口になって、その結果として、自然と地域に関わっていたという状態になればいいですね」