メジャーリーグ挑戦から、世界に選手を送る指導者に。色川冬馬の “異色”の野球人生

佐藤壮(仙台大学スポーツ情報マスメディア学科)】宮城県柴田町にある仙台大学在籍中に単身渡米し、野球の最高峰の舞台・メジャーリーグを目指した色川冬馬氏。プレイヤーを引退後は指導者としてイランやパキスタンなど様々な国での代表監督を務めた。野球を通して16ヶ国を渡り歩いた色川氏は現在、日本の選手を海外に送りだす活動をしている。異色の経歴を持った色川氏は今、何を思うのか。

野球部を辞め、メジャーリーグへ挑戦

色川冬馬氏の野球人生は、普通の人が経験できないようなことばかりだ。小学校1年生のころ兄の影響で野球を始め、高校は宮城県の聖和学園に進学。当時の色川氏は「他のチームと同じことをやって甲子園に行っても面白くない」という考えで野球に取り組んでいた。高校野球では今になってやっと坊主以外の髪型が許される風潮になっているが、色川氏らはその時から「坊主強制」に疑問を持ち、実際に坊主ではない髪型で世間の声とも戦った。

そんな高校野球生活を過ごした色川氏は2008年に仙台大学に進学した。そこでもまた大きな決断をした。「野球をするために野球部を辞める選択をしよう」。当時、1年生は雑用や部活のルールを学ぶため、プロを目指す上で1番大事な時期に練習ができないと感じた。「大学4年の中で野球ができるのは3年。3年間頑張ったとして、最後に幸せか…」。理想と現実の狭間で大きく揺れ、1年生の夏に野球部を辞める選択をした。そして色川氏は同年の冬にまた大きな決断をした。それはアメリカ、メジャーリーグへの挑戦だ。

母校・仙台大学で学生たちの取材に応じた色川冬馬さん(2022年5月、安藤歩美撮影)

色川氏は1人でアメリカに渡った。アメリカに渡る際には自分も不安があったが周りの方が不安だったという。アメリカに行って色々な衝撃を受けたという色川氏。「野球ではなく、ベースボール。部活ではなく、スポーツ」という体験。この体験は日本とアメリカの文化の違いを色川氏に実感させた。「色々な選択肢があっていいんだ」という気付き。「野球って楽しくていいんだ」という学び。このことを20歳で知ることができたのはとても大きかったと語る。この経験から、他の人にも自分と同じ体験をして欲しいと考え始めた。

異国の壁も「それぞれの国に合わせた指導を」

プレイヤーとして米国独立リーグやプエルトリコ・メキシコなどプロ・アマ合わせて5カ国でプレーをした色川氏。現役を引退した次のステージは指導者の道を歩み始める。イランを皮切りにパキスタン、香港で代表監督を務めた。その代表監督になった経緯もまた、普通の人が経験できないものだった。

パキスタン代表監督として選手を指導する色川さん

イランの監督のオファーはFacebookを通じてきたという。イランでは2014年にチームを西アジア2位へと導き、続くパキスタンでは連盟の会長からの直接オファーで代表監督になった。そこでは2015年にチームをアジア5位に導き、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック、世界野球ソフトボール連盟公認の野球の世界一決定戦)予選の切符を手にした。そして香港では2017年に香港野球史上初の中国全国大会7位という成績を残した。

色川氏は代表監督を務めるうえで大変だったことをこのように語った。「相手を知ること。文化だったり、生い立ちだったり」。例えば、「イランでは宗教上の理由で男性と女性の距離が離れている。高校まで男女別学で恋愛経験をしたことがない人がほとんど」。我々日本人がイメージする姿と実際の彼らの姿は違う。実際に関わってみないとわからないのである。

色川氏は国によって違いがあり、そこも面白い点であると語っていた。パキスタンの代表選手には警察官や軍人が多く、忠誠心が高く、組織が強いという考えだった。「それぞれの国に合わせた指導をしなければならない」。このような経験を重ねた色川氏が言うからこそ、説得力が生まれる言葉だ。

「一歩踏み出すには、勇気と覚悟が必要」

現在、色川氏はアジアンブリーズという会社を設立し、日本の選手を海外に送りだす活動をしている。この活動はアメリカ野球界に挑戦する道となっていて、実際にアメリカのチームと契約した選手が何人もいる。またプロ野球独立リーグ球団茨城アストロプラネッツのGM(ゼネラルマネージャー)としても活動し、こちらでもNPB(日本野球機構、セ・パ合わせて12球団がある)に入る選手を輩出。世界で最高峰のプロ野球リーグ・MLB(メジャーリーグベースボール)の名門ロサンゼルス・ドジャースとマイナー契約をした選手も生まれた。これは色川氏が語っていた「色々な選択肢」だろう。

選手たちを指導する色川さん

若くして海外に渡り、様々な国で様々な経験をした。「他の人にも自分と同じ体験をして欲しい」と考えた結果、現在の様々な活動に結びついている。色川氏は最後に「泣いても笑っても今は今しかない。今やらなかったら後悔することの方が多い。新しいことに挑戦するのも今。失敗するのも今。やりたいと思ったらやる。ただ1歩踏み出すには勇気と覚悟が必要。思い立ったら直ぐに動く」という言葉を、我々大学生に残してくれた。何事も否定から入らず、行動することが成功の秘訣なのかもしれない。

【この記事について】仙台大学スポーツ情報マスメディア学科の学生たちが、地域で活躍するアスリートや指導者らを取材!学生たちが記者となり執筆した中から、3本のスポーツ記事を連載で掲載します。

【今回の記事は…】
取材:仙台大学スポーツ情報マスメディア学科「インタビュー論」受講生のみなさん
執筆:佐藤壮(同学科3年)
写真:色川冬馬さん提供
編集:安藤歩美(同大学講師)

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