津波を泳いで逃げた馬たちとともに。震災から7年を経て再開した仙台市海岸公園馬術場、復興への道のり

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2011年3月、東北地方を中心に未曾有の被害を引き起こした東日本大震災。多数の犠牲者が出た仙台市若林区荒浜地区にほど近く、太平洋に面している仙台市海岸公園馬術場もまた、甚大な被害を受けた場所のひとつだ。

当時、同馬術場には55頭の馬がいた。その頃から所長を務める木幡良彦(こわた・よしひこ)さんは、人が被災する中で動物を救助・ケアすることの難しさを振り返る。一度は閉業したものの、7年の時を経て再開に至った馬術場。その被災の記憶と、今後の希望とは。

海岸から1km未満の馬術場に響いた、大津波警報

震災発生時、仙台市海岸公園馬術場(以下、馬術場)では乗馬レッスンの最中だった。参加していた会員は20名ほど、上級者15名は屋外の練習場に、残りの初心者は屋根付きの厩舎(きゅうしゃ)に居たという。

「揺れは2分以上続き、立っていられないほどでした。外にいた上級者の方々は自分で馬から降りて、なんとか馬を厩舎に入れていましたが、屋内にいた初心者の方々は馬に乗ったまましがみついた状態で耐えていましたね。柱もミシミシ鳴り、屋根が落ちてくるほど大きな揺れでした」

揺れが収まってもゆっくりしてはいられない。馬術場は海岸から1㎞も離れておらず、すでに大津波警報が鳴り響いていた。一瞬の判断が求められる緊迫した場面。「馬はとりあえず厩舎に入れて、会員の皆さんやスタッフの避難誘導を行いました。まずは最寄りの避難所へ避難するなり自宅へ帰るなりして、後で連絡を取ろう、とその場を離れたんです」

海にごく近い立地ながら、懸命な誘導により、人的被害を出さずに済んだ。

震災翌日から馬たちを捜索

不安な夜が明け、木幡さんは馬術場へと向かった。高速道路は通行できなくなっており、仙台市沿岸部を南北に縦断する仙台東部道路から接近を試みたそうだ。

「テレビで仙台空港が浸水した様子を見ていましたから、相当の水位で津波が来ただろうと覚悟していました。高速道路が使えず、途中で車を止めて歩いて仙台東部道路へ向かいました。海水がすぐ下までたまっていたので、2m以上残っていたと思います。その時は馬術場に到達することはできませんでした」

そんな中、木幡さんの目に一頭の馬の姿が飛び込んできた。2003年生まれのキャンディだ。

「ほとんど怪我もなく、落ち着いた状態で道路に立っていました。おそらく最初の波に流されて、東部道路下ががれきに埋まってしまう前に向こう側に抜けたんでしょう。そこから自力で泳いで来たのだと思います」

馬は泳ぎが達者だ、と語る木幡さん。その日見つかったのはキャンディだけだったが、55頭いた馬たちのうち、最終的に36頭が助かった。馬術場は水没してしまっていたが、厩舎にとどまることができた馬は数日間津波に浸かりながらも、命に別状はなかったという。強靭な生命力を象徴するような出来事だ。

一筋縄ではいかなかった馬の救助、全国からの支援

キャンディ以外の馬の捜索は水が引いてから行うことになる。馬を無事見つけ、かつ万が一にも暴れるなどして二次被害が出ないよう、自ら消防隊の捜索に加わった。

「塀や流されてきた木なんかに挟まった状態で、何頭も馬を見つけることができたんです。しかし残念ながら、津波で流されている間に物にぶつかって、怪我をしたり死んでしまったりした馬もいます」

「倒壊した建物を一軒一軒ぐるりと見て回ったので、捜索は一筋縄ではいきませんでした。(人の)ご遺体を見つけることもありましたし、『馬なんかを探している場合か』と言われることもありました。誰もが被災した非常事態で、理解を得るのが難しかったと感じます」

一方で、全国からの支援も届き始めた。馬術場が属する全国33か所の乗馬クラブ「クレイン」の社員たちが、トラック10台分の救援物資を引っさげ応援に駆けつけた。

「食料や日用品など、本当に助かりました。物資と一緒に総勢130名くらいの応援隊も来てくれたので、炊き出し担当や馬を探す担当など役割分担をして、一丸となって作業しました。まずは怪我をした馬の応急処置をしてから、すべての馬を泉パークタウンへ運びました。怪我のひどい馬は泉パークタウンでしばらく療養させて、元気な馬は全国のクレインへと移動していきました」

被災により、仙台市海岸公園馬術場の事業は白紙状態に。馬たちは全国の乗馬クラブへ移されていき、木幡さん自身も、泉パークタウン、栃木県の乗馬クラブへの転勤を余儀なくされた。

震災を経験した馬とともに、7年の時を経て再開へ

スタッフも、馬たちも別々の場所で震災後の年月を過ごすこと6年。仙台で再開の光が見えた。

「仙台市が施設をつくったり道路を整備したりと復興事業を進めて。2017年に再び指定管理者を募集する運びとなり、こうしてまた我々がここに戻ることになりました。再開するにあたり、震災後に県外へ行っていたキャンディ、フォレスト、パコの3頭が帰ってきたんですよ」

復興の工事により、道路は7mほどかさ上げされた。防風林がなくなったため風が強く、「体が大きい割に臆病」な馬たちのために、新しい厩舎は馬から道路が見えないよう配置を工夫した。

「馬は現在26頭、会員は350人ほどです。徐々に増えていますが、震災前と比べると半分以下ですね。再開したことを知らない元会員の方も少なくないようです」

「ここでは年に数回、馬術競技会を開催しています。今シーズンはコロナ禍の影響で中止となりましたが、来シーズンは縮小開催などの方法を模索しています。もっとたくさんの方に乗馬や馬との触れ合いを楽しんでもらいたい、これが目標であり、震災から10年経った今も、私たちが抱き続けている夢です」

(文・写真:岩崎尚美/編集・構成:山口史津)

再開した仙台市海岸公園馬術場では、初心者でも気軽に乗馬を楽しんでもらえる取り組みを進めています。地域のより多くの方に親しんでもらうため、この記事を読んでくれた方には、体験乗馬の予約時に「TOHOKU360を見た」と伝えていただくと「乗馬レッスン」通常30分5,710円(税込)のところを20分1,860円(税込)にしてくれるとのこと(※お一人様一回限り、小学生〜75歳まで。未成年の方は親権者同伴となります)。体験乗馬は https://www.kaigankoen-bajyutsu.jp/contactssl2.html のフォームから申し込みができます。

*この記事はTOHOKU360の地域パートナーである仙台市海岸公園馬術場とのコラボ企画記事です。