【佐々木佳】岩手県奥州市胆沢若柳(いさわわかやなぎ)の国道397号線沿いにあるドライブイン「食の駅あたご」は2021年夏、「円筒分水工(えんとうぶんすいこう)カレー」の提供を始めた。円筒分水工は、川から引き入れた水を複数の水路に公平に分けるための施設。水にまつわる土木施設と言えば、各地で「ダムカレー」が人気を集めているが、円筒分水工をモチーフにしたものは全国的にも珍しいとみられる。
胆沢のシンボルを大皿いっぱいに再現
モチーフになっているのは、胆沢川から2つの流路に水を分配し、下流の約7400ヘクタールの農地を潤す国内最大級の円筒分水工。地域を二分して数百年に渡り続いた水争いを解決しようと、1957年に完成した。現在は「徳水園」として整備され、憩いの場にもなっている胆沢のシンボル的な施設を大皿いっぱいに再現した。
ご飯をドーナツ状に盛り付け、周囲をカレーで満たして立体感を表現。地元で採れた野菜で彩りを添えている。どうやってご飯を崩していくかは食べる人次第で、ダムカレーと共通した楽しみがある。カレーや卵を水の流れに見立てつつ味わうのがおすすめだ。
地域を盛り上げるひと皿に
考案したのは地元出身で、店を営む阿部正幸さん(70)。自ら栽培する特産の「菊芋」を使った料理などを提供してきたが、コロナ禍が長引く中、地域を盛り上げられるような新メニューを知人と相談していた際にひらめいた。「ダムカレーだと他と同じになってしまうな、と思っていたら、地元に良いものがあった。灯台もと暗しだったよ」と、すぐに開発に取り掛かった。
円筒分水工は全国各地にあるが、筆者の調べでは、2021年9月時点で円筒分水工をモチーフにしたカレーを提供しているのは同店の他に見当たらない。愛好家が自作してSNSに写真を投稿している例はあるものの、全国的にかなり珍しいメニューと言える。ダムカレーブームに新風を吹き込むか、愛好家からの注目が高まりそうだ。
小さな「駅」は郷土愛の集大成
食の駅あたごで楽しめるのは、円筒分水工カレーなどの食事だけではない。阿部さんは、店内には地元ゆかりの画家や木工作家の作品を所狭しと展示し、店の外には「無人販売」のスペースまで設けている。「俺には何もできないんだけどさ、ただ、ものすごい才能を持った人たちが地域にこんなにいるんだよ!ということを皆に知ってほしいんだ」と微笑む。店は阿部さんのあふれる郷土愛の集大成だ。
店は同市から焼石岳の山裾を越えて秋田県横手市に至る国道沿いにある。本物の円筒分水工や山麓の風景とともに、阿部さんの愛が詰まった小さな「駅」を訪ねてみることをおすすめしたい。
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