【渡邊真子通信員=仙台市青葉区】弓道部に所属していた高校生の頃は、新年に大崎八幡宮の境内で行われていた弓道大会に毎年参加していた。今となっては、その行事の正式名称もよくわからないが、寒い中、袴姿で凍えていた記憶がある。そんな、自分にとってもかなり馴染みのある大崎八幡宮を中心とした、四ツ谷用水や近所の隠れたスポットなどを訪ねる街歩きイベントがあるというので、参加してみた。
伊達政宗の「庶民ファースト」
今回のイベント「マップをもってまちあるき」の主催は、仙台市八幡町商店街ファンコミュニティ。参加者は関係者を含めて約40人で、3月20日春分の日、大崎八幡宮の一ノ鳥居前に集合した。大まかな街歩きのコースは、大崎八幡宮を出発し、四ッ谷用水沿いを歩き、途中にある商店なども訪れるというものだ。
この街歩きを紹介するにはどうしても、仙台の上水・排水の起源としても知られる「四ツ谷用水」に触れる必要がある。約400年前、伊達政宗が城下町を仙台に開いたとき、高い崖の下を流れている広瀬川の水を何とか利用したいと知恵を絞った。上流の郷六地内に取水堰を造り、広瀬川の水を取り入れ、土地の高低差を利用した自然流下で城下にくまなく流したのが「四ツ谷用水」だ。
元来、仙台城下は地形的な理由で、水の利に恵まれなかった。仙台に暮らしの水を約束した点で、伊達政宗の「庶民ファースト」感覚を感じる。「『四ツ谷の水を街並みに!』市民の会」の人たちが、四ッ谷用水の上にかかる太鼓橋付近で、まずはその重要性を訴えていた。
タモリさんが「セクシー」と呼んだカーブを堪能
大崎八幡宮からほど近い急な坂道の途中に『手打ち蕎麦 OTAFUKU』があった。民家がそのまま店舗になった蕎麦店。客席は1階と2階に分かれていて、なんともいえない木造の懐かしい趣である。古民家と呼ぶにはまだ新しい気もするが、やはりもうオールドファッションな民家なのだろう。2階から眺める景色もなかなか。ふすま障子の格子も可愛い。これは絶対にお蕎麦を食べに来なくてはと、参加者全員に思わせるような佇まいだった。
そこから、四ッ谷用水に沿ってあぜ道を抜け、途中の「江戸町」と彫られた石碑の前で河岸段丘についての説明を聞く。そこから坂道を見下ろすと、なるほど、河岸段丘の高低差を感じることができた。
そして、テレビの「ブラタモリ仙台編」でタモリさんが「セクシー」と言っていたカーブの縁(へり)を歩く。なるほど、これがセクシーカーブか。
その先には「四ツ谷用水本流跡」がある。木造の標柱の説明には、伊達政宗が、城下町に必要な水を広瀬川上流の郷六からこの高台にひき、町中に分流した知恵と技術は素晴らしいということが書かれていた。まさにその通りだと思う。この偉業を知ってから、明らかに自分の政宗ラブ度が増したように思う。
国道48号(作並街道)に向かう前に「佐藤商店」のレトロなたたずまいをしっかり楽しんだ。一見何の変哲もない昔ながらの食料品店なのだが、店の奥には立派なワインセラーが設えてあった。フェアトレードのチョコレートも扱っているあたり、さすがにここは現代なのだった。
四ツ谷用水ファン垂涎の「暗渠の立体交差」へ
佐藤商店から「赤道(あかみち)」と呼ばれる道を歩く。赤道とは、道路法が適用されない法定外道路のこと。昔から農作業などで自然発生的に生まれた道路のうち、重要なものは、その後、市町村道として認定されたが、取り残されたものが赤道ということのようだ。ちなみに「青道(あおみち)」というものも公図では存在しているが、河川や水路のことを指すとのこと。なるほど、勉強になる。
たこの遊具のある通称「たこ公園」の横を通り過ぎ、「暗渠(あんきょ)の立体交差点」へ。ここは北の上流から南へと下るへくり沢と、東西に流れる四ツ谷用水の水路が交差する地点で、四ッ谷用水ファンならば絶対に外せない場所である。この立体交差地点で、足下をザーッと流れる水流の音にしばし耳を傾ける。
そこから四ツ谷用水「洗い場」跡へ向かう。水辺までの階段のようすがひと目でわかる塀を見ながら、ここで炊事や洗濯などをした女性たちの姿を思い描いた。
春日神社にも立ち寄った後、「石切橋」と呼ばれる一角へ。目の前には石材店が一軒あるが、昔この辺りにはもっと多くの石屋が集まっていたらしい。現在の石切橋の下には川は流れておらず、橋だけが残っているようだ。
へくり沢の流れ(道筋)とともに国道48号線へと出て、高低差20mもある崖の一部を下る。この旧澱橋の付近は、車で上を通過したことはあったが、その道の下にも住宅があるなんて、実際に歩いてみるまで意識したことはなかった。これが「スリバチ」と呼ばれる地形らしい。なんだか不思議で、新しい風景だ。
そこからまた、大崎八幡宮方面に向かって国道48号線をぞろぞろと歩く。地元で人気のクリーニング店や、ちょっと気になるカフェやバール、花屋さんなどもあった。
特別にご開帳された龍寶寺の釈迦堂
最後は、龍寶寺(りゅうほうじ)を訪れる。この日のために、特別に釈迦堂をご開帳していただいた。そこにお寺があることは、大崎八幡宮へ向かう途中の案内看板で知ってはいたが、実際に足を運ぶのは初めて。伊達朝宗が建立した多寶塔(たほうとう)と呼ばれる二重の塔が庭にある美しいお寺だ。釈迦堂の中には、釈迦如来像のほかに、牙が6本もある象の上にお釈迦様の姿があった。毎年4月に行われる花まつりの時には、この象が大活躍するらしい。この寺では、毎年8月16日には「ぼんと祭」という行事もあるとのこと。境内でお盆のお供え物や古い仏具などを焚きあげ、夏のどんと祭と言われているようだ。花まつりにぼんと祭、またいずれ、それらの行事を観てみたい。
幼い頃から何度も訪れ、勝手に「マイ神社」と思い続けていた大崎八幡宮だが、その周辺のことはほとんど知らず、今回初めて歩いた道ばかりであった。
「もっとたくさんの人に八幡の裏道やお店などにも足を運んでいただきたいですね。またこういった街歩きなども開催していく予定です」とは、今回の街歩きの主催者であり、ガイドを務めていただいた八幡町商店街ファンコミュニティ副会長の星聡さん。
地元商店街の方たちの「わが街の良いところをもっと広めたい。もっと知ってもらいたい」という思いは、確かに参加者に届いていると思うし、またあらためてゆっくり個人で訪れたいと思ったのは、私ひとりだけではないはずだ。
街歩きなど、今後のイベントの開催予定は八幡町商店街ファンコミュニティの公式Facebookページで更新されている。