【中野宏一=仙台市青葉区】2020年の東京オリンピックで競技に復活する、野球。アジア各国の野球連盟がオリンピックを見据えて代表選手の強化を急ぐ中、アジア6位の香港代表監督を、宮城県仙台市出身の色川冬馬さん(27)が務めている。今年3月には香港のチーム強化のため、宮城県の国際大会に参加した色川監督。香港代表監督としての奮闘を追った。
故郷で開かれた国際大会
3月24日夜、仙台市青葉区のイベント会場で、香港代表のウェルカムパーティーが開かれていた。21名の香港代表団は、この日、仙台空港に来たばかり。選手紹介や伝統芸能の披露、地元の人々との交流を、リラックスしたようすで楽しむ姿があった。
香港の選手たちが来日した理由は、色川監督自らが企画した国際大会「FUKAMATSU国際カップ2017」への参戦だ。5日間の滞在中、東北大学や七十七銀行など、宮城県の大学や社会人チームと対戦。石巻市の沿岸部を訪れ、被災地のようすを視察する日も設けた。大会の会長を務める建設会社・深松組の深松努社長は「(東日本大震災の起きた)6年前は、香港からたくさんの支援をもらった。今回このような大会を通じて、仙台と香港の交流が深まるのは嬉しい」と話す。
「ここからが勝負」
色川監督が香港代表チームの監督を務めることになったのは、今年2月。「FUKAMATSU国際カップ」は、今年9月に開かれる「アジア選手権」のための強化試合として位置づけられ、経験が乏しい香港の選手に国際経験を積ませることを目的としていた。
今大会で宮城県の大学生や社会人チームと戦った結果は、1勝2敗。結果だけ見れば振るわないが、色川監督は「野球経験の未熟さは仕方がなく、この結果を活かせるか、ここからが勝負。移動、食事、ミーティング、試合。日本で学んだことすべてが、これからの練習になくてはならない経験になる」と語る。
精神面の弱さ課題
アメリカやメキシコなどのマイナーリーグでの選手経験を経て、23歳で指導者に転じた色川監督。指導者として色川監督は、2014年イラン代表監督、2015年パキスタン代表監督と、アジアの野球代表監督を歴任。世界各国の野球文化や選手の特性を見てきた色川監督は、香港のチームについてこう指摘する。
「野球の技術があるが、パキスタンやイランと違い、恵まれた環境で育った選手が多いためか精神的に脆いところがあり、それが勝負の甘えとなって出てしまうことがある。他国での指導経験が香港代表の指導にも活きている。香港の選手にはまず、精神的な強さを教えることを重視している」
色川監督の指導の熱は、選手たちにもしっかりと伝わっている。香港代表チームのキャプテン、YUNG Tsuan Waiさん(24)は「今までさまざまな国籍の人が監督となったが、色川監督はその中で最も情熱的だ。困った時やつまづいた時、色川監督の過去の経験に即して、アドバイスをくれるところが素晴らしい」と評価する。東京オリンピックに向けて強化予算を付け、強化に一層力を入れる香港。色川監督の香港代表監督としての挑戦は、始まったばかりだ。