【続・仙台ジャズノート#12】尺八とジャズピアノ①新しい音づくり

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】仙台中心に演奏活動している尺八奏者、平澤真悟さん(27)とジャズピアニスト、田辺正樹さん(26)が「新しい音楽」を目指して活動しているというのでインタビューしました。和楽器の代表格でもある尺八とジャズピアノの融合。尺八についての知識やリスナー経験がほとんどないため、手探りしながらの取材となりました。

尺八とジャズピアノのデュオ。さまざまなアイデアが支える。写真は平澤真悟さんの提供です。

平澤さんは元銀行員です。「自分が持っているスキルを使って人々を幸せにしたい」と心に決め、銀行を退職。尺八奏者に専念したのが2021年4月のこと。尺八の国際コンクール(2021年11月)で銀賞を受賞したのをきっかけに、和楽器奏者とのグループを組んだほか、田辺さんのジャズピアノとのジョイントでも既に二度のライブを実現しています。平澤さんは東北大学のサークル活動で初めて尺八に触れました。1年後輩で大学のモダンジャズ研究会に所属しながら、学部時代から尺八との共演も行っていたのが田辺さん。高校まではクラシックを学び、弦楽合奏団でヴィオラと指揮を担当しました。

ジャズなど洋楽系の、電気によって拡張された音楽に親しんだ耳で聴くと、尺八はまさに竹管。演奏者の呼吸とともにある楽器であることを実感させられます。「荒城の月」の一節で、すべての力を注ぎこむような一音の後、深い弛緩に入った平澤さんの様子に「倒れるのではないか」と一瞬、感じたのはもちろん考えすぎですが、演奏者の心と体のかたちがそのまま反映する楽器であることは間違いないようです。

呼吸と言えば、ジャズ音楽に使われる数々の管楽器も、呼吸楽器であり、呼吸一つで音に差が出ます。ジャズ音楽には「サブトーン」と称する奏法もあります。ジャジーな(ジャズっぽい)雰囲気を醸し出す、息まじりのサウンドです。尺八の場合は、演奏者の呼吸がより直接的に音色となって流れ出る感じ。「尺八には、指で押さえて音程を決める穴が前面に4つ、後ろに一つしかありません。そのため、穴を半分開けたり、4分の1開けたりしながら音程をコントロールします」(平澤さん)。一つの穴につき3つの音が出る複雑な構造。特定の音を強く鳴らし、残響音を残す技術も意識的に使うそうです。

他の楽器に比べて難しいとされる楽器特性。それを乗り越えて実現するジャズサウンドとしての尺八には明らかに「メロディ力」とでもいうべき魅力を感じます。分かりやすく、ドラマチックな音の連なりが連続する即興演奏の世界。尺八の楽器特性をフルに生かした「メロディ回帰」のジャズ音楽のイメージでしょうか。

平澤さんと田辺さんが尺八とジャズピアノの融合を目指して現在、取り上げているのは「マイ・フェイバリット・シングス」「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」「モーニン」「枯葉」など。ジャズ音楽の場合、何と言っても即興演奏(アドリブ)が重視されます。演奏者にとって即興演奏は大きな壁であり、それを乗り越えた先にそれまでとはまったく違った風景が広がるような、宿命的な課題でもあります。(次回に続く)

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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