【続・仙台ジャズノート#2】地域由来のオリジナル曲を楽しむ

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】この連載のキャッチコピーとして「東京でもNYでもない仙台のジャズ」を採用しています。TOHOKU360編集長安藤歩美さんの「推し」です。もちろん「東京やNYのジャズ」を敬遠しているわけではありません。ただ、これまでどちらかと言えばおろそかになってきた地域のミュージシャンならではのオリジナル作品の世界にあらためて注目したいと思うのです。それこそが「仙台のジャズ」をより面白くするかぎの一つになるはずです。

身近なミュージシャンが自分の身の回りにテーマを見出した作品を聴いたことはありますか?この数年間にたまたま巡り合った、地域要素と結びつくオリジナル作品を2回に分けて紹介します。

「Samba de Hitomebore」を聴こう!ヒロ・菊地さんの「Scrambled Eggs」

「Samba de “Hitomebore”(ひとめぼれのサンバ)」は宮城県大崎市在住のサックス奏者、ヒロ・菊地さんの作品。宮城県を代表するコメ「ひとめぼれ」をうたった軽快なサンバです。【注】日本語訳は筆者がつけたものです。

菊地さんのデビューアルバム「Scrambled Eggs」(1999年10月、大崎市岩出山スコーレハウスでの録音)にも入っています。金崎裕行さんの楽しさ満開のサンバピアノを導入部に菊地さんのアルトサックスが気持ちよさそうに飛ばします。

ひとめぼれを育んだ大崎地方の実りの田園風景を知っている人なら菊地さんのサンバうたをどう重ねて聴くかが大きな楽しみとなるでしょうか。菊地さんには、古川の著名な千手寺(せんじゅうじ)幼稚園の夏祭りの光景を切り取った「Samba De Playmate」もあり、郷土の子どもたちを見やる視線に優しさを感じさせます。

「Route45」を収載した安田さんのアルバム「TOMOHIKO YASUDA 60th」

「Route45」はプロとして40年以上活動してきたは仙台在住のサックス奏者、安田智彦さん(64)が2011年3月11日の東日本大震災の年に書いたオリジナルです。インタビューの際にいただいたCD「TOMOHIKO YASUDA 60 th Vol.5」には、ベーシストの坂井紅介さんとのデュオ(2人での演奏)が収録されています。

ライナーノーツで安田さんは「気仙沼、南三陸町でのボランティア演奏をした帰り道、最初に見えた石巻の灯を見た時の気持ちをメロディーにたくした」と書いています。Route45は仙台市から太平洋沿岸を経て、青森市に至る一般国道のこと。安田さんは決して技巧に走りません。歌心に富むフレーズを繰り出し、聴く者が心落ち着く演奏に終始しています。被災地で感じた、安田さん自身の心の揺れを自ら鎮めようとするかのようです。南三陸町志津川湾の美しさを、多くの人々の記憶の底から抽出し、編み直したような「La Mer」もおすすめです。

残念なことに地域要素に由来する地元のミュージシャンならではのオリジナル作品が多くの人に知られているとは言えません。しかし、ジャズ音楽の聴き手の一人としては、コンサートやライブでたまたま巡り合ったサウンドの魅力に気付いたときの喜びは格別です。「ひょっとしたら自分だけが知っている?」。ひそかな楽しみを味わうことができたら、なおさら愛着がわこうというものです。

地域に題材を求めたオリジナル作品を集めて保存し、関心を持ってもらうための環境づくりはできないものか、と思います。たとえばミュージシャンの共同サイト「オリジナル曲集(仮称)」をYouTubeにつくって蓄積、いつでも参照鑑賞できるようにする。演奏する人たちなら、気に入った曲を耳コピして楽しむようなことができてもいいと思いませんか?地元のミュージシャンが生み出した作品にもっと出番を!たとえば心ある(?)YouTuberがミュージシャンと協働することで可能になるような気がします。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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