【続・仙台ジャズノート#26】記憶する力は変わらない 「高齢社会」とジャズあれこれ

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】アルトサックスに触るようになってすぐに「これはもう自己流では何ともならない」と思いました。クラリネットでの苦戦を、「音を出すだけでも難しい楽器だ」などと、もっぱら楽器のせいにしたのは明らかに間違いでした。何よりも記憶力が衰え、根気も続かないことの方がよほど深刻でした。楽器をマスターするための手順や練習方法を知らないので、市販の教科書を買い、ネットに転がっている情報を手当たり次第に参考にするしかありません。効率が悪いし、入手できた情報と練習の質や量のバランスも限りなく悪い。あまりに多くの疑問点やら解決法やらの前に、自分が一体、今、何をしようとしているのか、何をしたいのか、当面の目標は何なのかが次第に分からなくなりました。

演奏する機会を増やさないとお話にならない。夜間を除きいつでも使える専用の移動式練習場です。

楽器に限らず一般論として、60になる前の1年と、60過ぎてからの1年では、心身の具合がかなり異なります。若いころは当たり前にできたことがいつの間にかできなくなっている。いわゆる集中力を維持しようとすると、頭痛、肩こり・・など、何かと「異変」が生じるので、ややこしい。

「加齢」という現象は単に「記憶力が衰える」といった「引き算」の世界ではありません。年をとるにつれて若いころは考えもしなかった出来事が身の回りに起きるようになります。新たに起きる出来事はたいていの場合、病気や人間関係など、自分の身辺にかかわる諸事雑事にすぎませんが、それらを乗り越えるとなると、過去の経験を生かしても、まだ足りない事柄であることが多いので、何をするにしても、それなりに時間と気力を要します。定年を迎えて会社を卒業すれば、晴れて趣味や道楽にかかりきりになれるかというと、そう簡単ではありません。

よくよく自分の胸に手を当ててみれば、単に記憶力が衰えるだけではないようなのです。記憶力自体はそう変わらない。ただ、記憶容量が小さくなり、新しい荷物が倉庫に入りきれないような感じにはなります。たとえばジャズ音楽やアドリブ(即興)を学ぶには、「ドレミファソラシド」-いわゆる音階(スケール)を覚える必要があります。しかも、一つのスケールをマスターするには、始まりの音の高さによって12種類の音の並びを覚える必要があります。

というだけで超初心者には目が回りますが、一つのスケールを覚えること自体は、そんなに難しくありません。でも、時間がたつとすぐに忘れてしまう問題はあるので、何度も何度も記憶し、思い出しながら少しずつ身に着ける以外にありません。ジャズの演奏技法には、この種のことがやまとあります。仕方がないので、とにかく「継続は力なり」的な覚悟を持ち出すことになりますが、「自己流」だけでは何ともならないなあ、とため息が出ます。

【ディスクメモ】Benny Carter in Hollywood 1944-46

レジェンド中のレジェンド、ベニー・カーター(サックス)さんのビッグバンド。

I Can’t Get Started
Love For Sale
Sweet Georgia Brown

などのスタンダードをたっぷり。ベイシーともエリントンとも違うサウンドをゆったりと楽しんでください。甘すぎず、辛すぎず、カーターさんのようなアルトの音色がいいなあ、と一時は思い込んでいたけれど、あらためて聞き直したら。ちょっと違う。もっとさびれたサウンド、枯れた音に近づけたい。と思うものの、どうすればいいか、まだ分からない初心者です。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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