【続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!)
【佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】米国バークリー音楽大学を卒業した作・編曲家でピアニスト、秩父英里さん=仙台出身=のデビューアルバム(CD)「『Crossing Reality』Eri Chichibu」(2022年9月7日発売)が手元に届きました。在米中にコロナ禍に遭い、一時帰国した後、地元のミュージシャンとのコラボにも積極的に取り組んできた秩父さんの充実ぶりがうかがえるような内容でした。CDを聴いていろんな思いにとらわれ、コロナ禍が吹き飛ぶようにも感じたので急きょ紹介します。
「『Crossing Reality』Eri Chichibu」は全6曲がすべて秩父さんのオリジナル。録音には地元の音楽仲間のほか、秩父さんが米国で出会ったミュージシャンも参加しています。タイトルナンバー「Crossing Reality」は「現実と空想」「事実と夢」が交錯する世界を表現したかったそうです。タイトルからはやや抽象的な印象を受けるかもしれませんが、実際の曲調は分かりやすさとダイナミズムがほどよく顔を出します。疲れません。特に冒頭のドラムソロとピアノのバッキングが驚くほどかっこいい。ジャズ音楽はいろいろな切り口で語られますが、安定かつスリリングなリズム以上の推進力はないのだと、あらためて思います。
「The Sea – Seven Years Voyage -」は2011年3月11日の東日本大震災の経験から始まった秩父さん自身の「旅」を現在に至るまでトレースしてみせています。「7年間に及ぶ航海」の始まりとなった「あのとき」を実際に経験した人なら気付くと思われる編曲上の工夫が凝らしてあります。実際に聴いてみてください。
2年前、秩父さんが米国時代に製作したインターネットのビデオ作品で「The Sea – Seven Years Voyage -」初めて聴いたときは、正直、心穏やかではいられませんでした。今回はどうかと自分をはかる気分でしたが、この仕掛けは6分を越える曲の前後半をつなぐ重要なブリッジの役割を果たしているのではないか。あらためて聴くと、このブリッジは被災から少しずつ新しい世界に向かって歩み出すエネルギーが放たれる回廊になっているような印象です。作品としてより安定した魅力を感じます。
以前から個人的に好きなのは「Kaeru 2022(カエル2022)」。オシャレなピアノトリオの作品に仕上がっています。スモールコンボでもよく映えるはずです。「The Preconscious」は「人間の意識」に挑んだ大きな構えの作品。「dreams of the wind」は秩父さんが学んだボストンの風や色彩がテーマ。バイオリン、チェロを生かしたきらびやかなアレンジが印象的です。
「『Crossing Reality』Eri Chichibu」(メンバー表記はCrossing Realityのみ)
1. Crossing Reality
トランペット:菊田邦裕
アルトサックス、フルート:デイビッド・ネグレテ
テナーサックス:西口明宏
トロンボーン:駒野逸美
バリトンサックス:佐々木はるか
ギター:苗代尚寛
ピアノ、作曲:秩父英里
エレクトリックベース:マーティ・ホロベック
ドラム:石若駿
2. The Sea – Seven Years Voyage –
3. Kaeru 2022
4. Blackberry Winter
5. The Preconscious
6. dreams of the wind
7. green and winds [bonus track]
【この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。
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