【続・仙台ジャズノート#6】難しい?それならスタンダードをどうぞ

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文】身近なライブハウスやジャズカフェを時折のぞいてみると、ジャズミュージシャンやリスナーに長い間親しまれてきた、いわゆる「スタンダード」を聴く機会が案外多いのに気づくはずです。ジャズはなぜか難しいと言われがちですが、音楽に限らずなじみの薄いものが「難しい」「よく分からない」のは当然です。だから、これはと思う演奏家や曲に出合ったら、意識して自分からなじんでしまうしかありません。そのきっかけ=入り口は人によってさまざまで、何か決まったルールがあるわけではないし、誰かに決めてもらえると思ったら多分、それは間違いです。その際に分かりやすくて楽しい「スタンダード」は格好の入り口となるはずです。

ジョニー・ホッジスのUSED TO BE DUKE。写真が裏焼きになっていることで知られている。

NHKの朝ドラ「カムカムエヴリバディ」で取り上げられている「On The Sunny Side Of The Street(明るい表通りで)」をご存じですか?フランク・シナトラやビング・クロスビーなどに曲を提供したジミー・マクヒューが1930年に作曲しました。ドロシー・フィールズの作詞。朝ドラでは「The Sunny Side」を「ひなた」と訳し、ドラマの筋書きにも重要なかかわりを持たせています。もっぱら歌手でトラペット奏者、ルイ・アームストロング(愛称サッチモ)の演奏に焦点が当てられていますが、実はこの曲も「スタンダード」の典型で、多くのミュージシャンが取り上げています。

たとえば自分の手元にはデューク・エリントンの盟友でサックス奏者のJohnny Hodges(ジョニー・ホッジス)がエリントン楽団の仲間とともに1956年に吹き込んだ「Used To Be Duke」があります。「On The Sunny Side Of The Street」はA面(レコードです)の2曲目。このアルバムはいつ聴いても気持ちをゆったりとさせ、多少のフラストレーションなら吹き飛ばしてくれます。

「スタンダード」をおすすめする理由は、ジャズ音楽の本質にかかわるもう一つのポイントがあります。ジャズミュージシャンが小編成のグループでジャズを演奏する場合、イントロ(序奏)とエンディング(後奏)など曲の進行や即興演奏の長さ、演奏する順番など簡単に打ち合わせるだけで本番を迎えるのがむしろ普通です。事前の簡単な打ち合わせで演奏の進め方を共有することを「ヘッドアレンジ」といいます。

「スタンダード」の場合、曲そのものは演奏者の頭に入っているのが普通なので、「スタンダード」を取り上げた演奏は、即興中心のいかにもジャズらしい時間になるはずです。アレンジに力を入れたオリジナル曲を何度もリハーサルを重ねるタイプと比べてどちらがいいかは人によって違うし、聴く状況によっても異なりますが、「スタンダード」の親しみやすいテーマ(メロディ)と刺激的な即興を同時に味わえるなら聴き手にとってこれほどの幸せはありません。

スタンダードの楽譜を満載した通称「黒本」は演奏者にとって必携だ

個人的に参加しているアマチュアの社会人バンドでも最近、「On The Sunny Side Of The Street」が新曲としてラインナップされました。とにかく演奏するのが楽しい。スタンダードを入り口にジャズの世界をたどるのはあながち間違いではないと、あらためて考えています。

ジャズにはさまざまなタイプがあります。とにかく聴いてみましょう。耳や目、足、膝など使えるものはなんでも使ってジャズを全身で感じてみてください。できれば大音量で聴いてほしい。ジャズの場合、同じ楽器でも演奏者によって音色やフレージングに違いがあることが普通です。音列の重なり具合を楽しむには比較的大きな音で聴く方がいいように思えます。とりわけリズムの基本的な流れを形作るベースのラインに他のソロ楽器がどう乗っていくかといった、ジャズ特有の楽しみ方も、音量が低いままでは、魅力半減です。

その結果、「快適だ」「ザワザワする」「格好いい」などと思える曲に巡り合えたら、きっかけとしては十分です。ジャズを楽しめる感覚が備わっていることに感謝しましょう。

筆者の世代(70歳)が音楽を意識しはじめた10代、20代のころ、音楽はほぼ時系列で見えてきたものです。書籍やラジオ・テレビを通して得た情報をもとに、ミュージシャンを追いかけたり、印象に残った曲を起点に時代を遡ったり・・。ジャズを楽しむ順序や尺度、目安のようなものが自然にできていきました。これに対して現代社会では、多種多様なありとあらゆる音楽やそのコピー、サンプルの果てまでが、多極化したテレビ・ラジオやネット空間いっぱいに具体的に体験できる形で広がっています。あらゆる音楽的な要素が時代や傾向を越えて目の前に存在するため、どこから手を付けていいか迷うのは自然なことです。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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