庭先に自慢の手作り窯 夏の団地でピザパーティー  宮城・名取市

寺島英弥(ローカルジャーナリスト・名取市在住) 】海抜160㍍余りの山の上、名取市ゆりが丘の団地の一角。暑い日差しが続いた夏のひととき、リゾート気分のピザパーティーに参加させてもらった。呼び物は、この家のあるじ自慢の手作り窯。薪を焚き、程よい温度を見計らって、トッピングをした生地を窯の中に…。真っ黒に焦がさないコツを手ほどきしてもらい、筆者も窯のピザ焼きに挑戦。夏の団地で出合った、美味な楽しみをお伝えしたい。 

試行錯誤でピザ窯を完成 

窯の主は本郷力夫さん(68)。発電機メーカーをリタイアし、現在は「名取お助け隊」代表世話人。名刺には、植木職人、便利屋、ウクレレ演奏、支え合いサポートなどの地域活動が並ぶ。肩書の通り「ウクレレ名人」で、初心者向け教室や仲間とのライブも催す。 

ピザ窯を手作りしたのは7年前という。もともとピザを生地から作るのが好きで、家庭菜園で育てる野菜などを具に台所のオーブンで焼いていたが、ある日、奥さんが1冊の本を買ってきた。「それがピザ窯の作り方。新しい挑戦と思って、さっそくやってみた」 

自宅に手作りしたピザ窯と本郷さん=名取市ゆりが丘
自宅に手作りしたピザ窯と本郷さん=名取市ゆりが丘

窯はコンクリートブロックを縦に積み上げて土台にし、目の高さで炉の中の様子、ピザの焼け具合を見られるように耐火レンガで窯を組んだ。煙突を立て、火を入れたが、思わぬ難題にぶつかる。雨が降ると熱いレンガで気化し、温度が上がらなくなった。そこで本郷さんは日曜大工でプラスチックの波板の屋根をかけた。製作費総額は8万円という。ピザパーティーは、地域で出会った友人、仲間を誘って、縁をつなぐ場にしようと始めた。 

赤外線温度計でチェック 

スタート時刻の1時間ほど前、本郷さんは自宅裏にある薪置き場から、この日使う10本ほどを選んだ。薪の蓄えは3年分。「私は植木屋も今の仕事にしていて、作業後に残った木材を捨てず、しっかりと乾かして使っているんです」。還暦で退職し、思い立って通ったのが職業訓練校。そこで半年、植木職人の勉強をし、さらに半年、造園業者の下で修業をし、「地域で役に立つ植木屋」を始めた。その副産物を窯のピザ焼きに生かしている。 

自宅裏に蓄えたピザ窯用の薪
自宅裏に蓄えたピザ窯用の薪

いよいよ窯に火を入れる。キャンプで使う着火道具で薪を燃やし、いったん500度まで上げる。それでピザを焼くわけでなく、手持ちの赤外線温度計でチェックしながら、だんだんと窯の熱を冷ましていく。そして350度まで下がったところで、初めてピザを窯に入れるのだという。「窯を作って最初のころは、ピザを何枚も真っ黒に焦がした。そんな失敗を重ねて、理想の温度を見つけた。まさに研究だったよ」 

窯の中が350度に下がるまで、こまめに温度を計る
窯の中が350度に下がるまで、こまめに温度を計る

ほど良い焼き色、チーズも泡立ち 

午前11時になり、親しい仲間が6人、7人と集まった。筆者の家族は自宅から具材を載せて生地を持参し、本郷さんの庭で採れたバジルを散らす。試し焼きを見せてもらった筆者は、「やってみて!」とピザ焼きに挑戦させられた。薪はもう真っ赤なおきの状態だ。 

ピザの生地に仕上げのバジルを載せ、窯入れを待つ
ピザの生地に仕上げのバジルを載せ、窯入れを待つ

おきを窯の中の片側に寄せて、燃えない材質の紙を皿に敷いて生地を載せ、耐熱グローブを付けて窯に入れる。ここで使う道具が火ばさみ。皿の端をつまんで、蓄熱で満遍なく焼けるようにぐるぐると回してやる。すると、「しっかりと生地の変わり具合を見て」と本郷さん。「ほど良い焼き色が付き、チーズも泡立ってきたら、もう食べごろだよ」。 

ピザ焼きに挑戦した筆者。皿を懸命に回し満遍なく焼く
ピザ焼きに挑戦した筆者。皿を懸命に回し満遍なく焼く

焼き上がったのが写真のピザ。焼き色、いかがでしょう。落とさぬよう大皿に移し、「お待ちどうさま」とテーブルに運ぶと、次々にお味見の手が伸びる。食べてみると、生地の端っこはサクサクとし、中はじんわり溶けたチーズの味が口いっぱいに広がる。窯焼きならではの香ばしさがたまらない。二枚目三枚目のピザ焼きに、あるじは大忙しだ。 

焼き上がったピザ。電子レンジや宅配で味わえぬ醍醐味だ
焼き上がったピザ。電子レンジや宅配で味わえぬ醍醐味だ

団地の人に気軽に利用してもらえたら  

夏の日差しの下、あるじは涼しい工夫も凝らした。以前駐在した中国から取り寄せた噴霧器を水道につなぎ、天幕の中に冷たいミストを拡散させたのだ。そして耳にもウクレレの音色が涼を運ぶ。本郷さんはカーステレオのスピーカーを再利用したPA(音響装置)とミニステージを組み、弾き語りをした。60~70代の参加者のリクエストに応え、懐かしのグループサウンズのヒット曲や昭和歌謡を次々と。参加者もビール片手に声を合わせ、飛び入りの踊りもあり、パーティーはたけなわに…。本郷さんはにこやかにこう語った。 

美味なピザを味わった後は、ウクレレの弾き語り、踊りのライブ
美味なピザを味わった後は、ウクレレの弾き語り、踊りのライブ

「コロナのため実現しなかったが以前、近くにある尚絅学院大の学生たちからパーティーの申し込みがあった。このピザ窯をフル稼働して、活動の仲間だけでなく、団地の人たちにも気軽に利用してもらえる場にしたい。ウクレレでいっぱい盛り上げるよ」 

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