【鈴村加菜通信員=仙台市青葉区】「猫と暮らしたい」と思っても、賃貸住まいの人にとって、「ペット可」そして「猫OK」の条件は部屋探しのハードルを高くしてしまいがち。そんな中、2016年に仙台市青葉区赤坂、2017年には同区北山で、仙台で初めて、猫との暮らしに特化した「猫専用アパート」が誕生した。2つのアパートを企画、設計した合同会社NecoNectの代表・千葉裕二さんは、様々な苦労の末、大家さんにとっても、入居者・入居猫にとっても安心の、猫と暮らすための理想の賃貸を完成させた。「ペット可」ではなくなぜ猫専用なのか。そこに込められた「小さな命を救いたい」という願い、人と猫の暮らしへの思いを聞いた。
賃貸で猫を飼うのは難しい
最近の猫ブームもあって、猫を飼う人、飼いたい人は増えている。ところが、千葉さんによると今でも多くの大家さんたちの間には、「猫がいると壁がシミだらけになったりボロボロになったりするので退去後の対応が大変だ」という認識が根強くあるという。また、鳴き声などが原因の近隣トラブルの懸念もあり、ペット可でも猫NGとなっている物件は多いのだそう。
猫専用アパートで「猫と人をつなぐ」
千葉さんは、賃貸住まいの人にも、大家さんたちにも「賃貸でも猫と暮らせるんだ、と思って欲しい」との思いから、猫専用共生型賃貸住宅の企画、設計を始めた。きっかけは、たまたま目にした仙台市の猫の殺処分数のデータ。減少傾向にあるとは言え、子猫を中心に多くの命が失われている現実があった。「1年でこんなに多くの数が処分されているのかとショックを受けました」という。「そこから、殺処分を減らすために自分にできることはないかなと考えているときに、猫と暮らせる賃貸住宅が少ないことに気づきました。『猫と暮らしたい』と思っていても、賃貸だからと諦めてしまう人が多いなら、猫と暮らせる賃貸の供給をつくり、動物管理センターなどに持ち込まれた猫の受け皿となれる人を増やそうと考えました」。
自身も2匹の保護猫と暮らす千葉さんは、これから猫を飼い始める猫専用アパートの入居者に対して、「里親」を検討するよう呼びかけたり、猫を保護している動物病院やシェルターの紹介を行なっている。
猫ワールドが育むコミュニティ
現在、千葉さんが企画・設計した猫共生アパートは仙台市内に2つ。2016年1月に第1号となる青葉区赤坂の「シャノワール」、2017年6月には北山に2棟目「シャノワール北山」が完成。
約4年前、千葉さんが猫共生型賃貸住宅をつくろうと決めたときは、猫専用共生型賃貸住宅の前例や実績がないため、家賃の相場や本当に入居者が決まるかなど、不安定な要素が多かったという。「そこから2年ほどの時間をかけて完成した『シャノワール』、二棟目の『シャノワール北山』はおかげさまで満室となり、わたしが思い描いていた『猫ワールド』ができました」
千葉さんの建てた猫専用アパートは、例えば耐久性のある強い壁紙など、大家さんにとっても入居者にとっても退去時の負担が少なくなるような工夫がされている。また、トイレ設備スペースやキャットウォーク、脱走防止のための玄関ホールの扉など、「猫専用」の設備が充実。「猫専用となっているのにも、理由があるんです」千葉さんは話す。「わたしは、アパートなどの集合住宅は一種のコミュニティ、生活共同体だと考えています。猫専用とすることで猫好きな人たちが集まれば、トラブルを避けるだけでなく、隣人同士のコミュニケーションも弾むようになります」
猫という共通の存在があることでお互いを理解でき、安心感が生まれる。以前入居していた方に「住んでみたら本当に良かった」と手紙をもらったことがとても嬉しかったそう。
仙台から東北へ広めたい
千葉さんは猫専用アパートの設計のほかにも、猫専用共生型賃貸住宅に興味や理解のある大家さんに設計のアドバイスを行う事業も行っている。
飼い主を待つ猫と、猫と暮らしたいと願う人をつなげる場所を増やしたいという千葉さん。猫専用共生型賃貸住宅は、首都圏では増えつつあるものの、東北ではまだまだ認識されていないという。千葉さんは話す。「私が1人でつくるだけでは数に限界があるので、賃貸でも設備の工夫次第で猫を飼うことが可能なんだという認識を、まず仙台全体の大家さんたちに広めたい。そして仙台から東北各地に広がったらと思っています。今後も入居者の方と猫が心地よく暮らせる住まいを増やしていきたいです」