【文・写真/渡邉貴裕通信員=宮城県仙台市】仙台市宮城野区五輪の閑静な住宅街にギャラリー「チフリグリ」があります。一見、二階建ての住宅兼店舗の中にあり、アーティストでもある井上佳代子さん(38)が運営しています。この建物にはギャラリーのほか、駄菓子屋や雑貨店、古布・古民具店なども入居。井上さんの家族がそれぞれの店の店長を務めています。お互い、異業種だけれども、何かにつけて協力し合い、地域の人たちにとって欠かせない「複合施設」となっています。
駄菓子屋や古民具店と同居するギャラリー「チフリグリ」
「チフリグリ」というギャラリーの名称は、「愉快に、快活に」という意味の英語「cheerfully(チアフリイ)」と、「笑う」という意味の「grin(グリン)」をつないだものです。
東日本大震災から7年たった2018年3月11日にギャラリーを訪ねました。井上さんが制作した作品「落としてもいい。戻してもいい」が迎えてくれました。井上さんによれば「普段、無意識に行動する操作を意識して体験する装置。見ていると何でもないが、やってみるとそこはかとなく感じる何かを知るもの」だそうです。
井上さんは、ワークショップや企画展を作家さんたちの要望に応じて不定期で開いているほか、デザイン、ウェブ、名刺、フライヤー、チラシなどの制作も手掛けています。高校から15年間は東京に住んでいました。事務、イラスト、アシスタント的な仕事を経験してから生まれ故郷である仙台に戻り、2010年8月にギャラリーを開設しました。被災した地域住民にとって必要不可欠の場所に
東日本大震災の際、ギャラリーは避難所同様になりました。住宅が倒壊した人、帰宅が困難になった人など20、30人が滞在しました。ほとんどが井上さんの知人でした。駄菓子屋で販売されていた食料品が、被災した人々のお腹を満たしました。ギャラリーと駄菓子屋が円滑に協力できたのも、家族による運営ならではのことだったかもしれません。震災直後、情報が錯綜する中、被災した人たち同士の情報交換の場としても機能しました。
突然の事態に井上さん自身も戸惑い、心境は複雑でしたが、2週間ほどすると、被災者を元気づけるために音楽ライブが開かれました。誰かがリードしたわけでもないのに、いつの間にか井上さんのギャラリーは被災者にとって必要不可欠な場所となっていました。多くの人たちがかかわった数々の取り組みは現在も引き継がれています。
「作家さんたちが交流できるような場所づくりを」
「チフリグリ」は多様な作品の発表の場としてだけでなく、趣向を凝らしたワークショップ、音楽や演劇などのライブイベントにも利用できます。家族が協力して運営する雑貨店、駄菓子屋、古布・古民具店などと隣り合っているため、企画次第でさまざまな出会いにつながります。井上さんは「作家さんたちが交流できるような場所づくりを目指したい。来場者から『来てよかった』と言われ、わたし自身も『また来てもらいたい』と言えるような場所にしたい。そのためには、心からのおもてなしを大切にしなければ」と話しています。