「はにわ」が自分で作れる!郡山の古墳ではにわ作り

古墳から出土する、人や動物などをかたどった「はにわ」。教科書や博物館などで見ることしかできなかった「はにわ」を、なんと自分で作ることができる場所があるという。噂を聞いた記者はさっそく現地に駆けつけ、自分の手による「はにわ」作りに挑戦した。【安藤歩美=福島県郡山市】

「はにわですか?」

 10月30日、はにわ作りが体験できると聞きやってきたのは、福島県郡山市の「大安場史跡公園」。東北最大の前方後円墳「大安場古墳」を擁する、はにわ作りにはうってつけの場所だ。

 期待に胸を膨らませながら同公園のガイダンス施設の入り口に差し掛かると、施設の方に「はにわですか?」と声をかけられた。「はい、はにわです」と返事をすると、笑顔ではにわ作りの材料が準備されている部屋に案内してもらうことができた。

「土偶」と「はにわ」の違いを勉強

はにわ作り体験のため集まった参加者

 その日はにわ作り体験に集まっていたのは、親子連れを中心とした約20人。集まった参加者を前に、施設の担当者が「はにわ」について説明してくれた。「土偶」と「はにわ」の違いは、原則として「はにわ」は中が空洞で、土偶は空洞になっていないこと。「はにわ」は赤土を指す「はに」と、輪っかを指す「わ」が組み合わさった言葉であることなど、ためになる「はにわ知識」を詰め込んでいく。

 はにわの基礎知識を説明してもらったところで、いよいよはにわ作りが始まった。まずは赤土を原料とした粘土をこねていく。赤土の粘土は、小学校の工作などで使う粘土とは違ってとても固く、こねるだけでも力が必要で一苦労だった。

はにわ作りとは「ひたすら輪っかを積み上げていくこと」

赤土を材料とした粘土をこね、棒状に伸ばす

 粘土をこねたところで、粘土の一部を千切り、親指くらいの太さの棒状に粘土を伸ばしていく。そしてその棒状の粘土で、輪っかを作る。施設の担当者は「これがはにわ作りの一番大切な過程なんです」と話す。

 そう、はにわ作りとは、この作業を延々と繰り返していくことだったのだ。こねた粘土を棒状にして、輪っかを作り、その上に輪っかを重ね、その継ぎ目が見えないように表面を滑らかにしていく。これをひたすら繰り返していくことで、形が徐々に出来上がっていく。

棒状にした粘土を輪っかにして積み上げていく。この作業をひたすら繰り返す

 施設の担当者曰く、「このはにわ作り体験では、この輪っかを積み上げていく工程が2時間。顔を作る時間は20分足らずです」。輪っかを積み上げ、継ぎ目をなめらかにしていく。この作業が「いつ終わるのだろう?」と不安になるほど繰り返し続く。固い粘土を扱っていることもあり、意外と腕力と集中力が要る作業で、心が折れそうになりながらも必死に輪っかを積み上げていった。

ひび割れたら「修復作業」までしてくれる

輪っかを2時間ほど延々と積み上げていくと、こんな形に。これにフタをすれば胴体が完成する

 積み上げていく輪っかを徐々に小さなものにしていき、最後に蓋をすれば、ようやくこの工程が終わる。ここまで、やはり2時間もの時間がかかった。このままでは人の形には見えないので、いよいよ腕を足したり、目や口を開けたりと、「人」に見える工夫をしていく。仕上げに、柄や飾りを付ける人もいた。

 約2時間半もの時間をかけ、ようやく「はにわ」らしきものが完成した。ここからは、施設の人が2ヶ月間乾燥させ、天候のいい日に野焼きをしてくれるとのこと。もし途中で「はにわ」がひび割れて壊れた場合、施設の人が「修復作業」まで行ってくれるという至れり尽くせりぶりだ。

中は空洞なので、目や口を簡単に開けることができる

「考古学への易しい入り口に」

 可愛らしく、単純なつくりに見える「はにわ」だが、その工程にはかなりの根気と地味な作業が必要なことが分かった。なぜ大安場史跡公園は、はにわ作り体験の機会を一般の人に提供しているのだろうか。担当者はその意図をこう説明する。

 「まず作ってみないと、(はにわ作りの)大変さや工夫の跡はよく見えてこない。人は追体験することによって、同じ思いだけではなく、同じ苦心、目に見えない先にも考えを至らせることができる。それに、一回作ると自分が基準になるので、自分よりうまい作品、もしかすると自分より下手かな、という作品を各博物館で楽しむことができ、難しいこと抜きに楽しんでいただける。その先に学術的なことを知りたい方がでてくれば、このはにわ作りは誰にでもアプローチしやすい、考古学への一つの入り口になるのではないか」

参加者が作った個性豊かなはにわ

 はにわ作り体験は同公園で毎年1回一般向けに開催されており、材料費280円で参加することができる(要望により、団体向けも年に数回開催)。同公園ではその他、毎月縄文土器の制作や縄文時代の料理体験など、多様なイベントを開催している。古代の人々の文化や生活に思いを馳せ、博物館の展示を一味違った視点から楽しむことができるようになる、貴重なきっかけになりそうだ。

記者が作ったはにわ。焼き上がりが楽しみだ