【仙台ジャズノート】回想の中の「キャバレー」(2)南国ムードの「クラウン」小野寺純一さんの世界

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】「『クラウン』」といえば仙台でも高級な店として知られていました。わたしには行くことができないキャバレーでしたが、近所にクラウンのナンバーワンだという人が住んでいました。下着までクリーニングに出すという話が聞こえてきました。ナンバーワンさんが住んでいたアパートの名前は確か『月香荘』だった。作品の中のクラウンは、完全にわたしの思い出の中にあるイメージです」

作品の中で「クラウン」の玄関に黄色いドレスを着て立つ女性を指さしながら小野寺さんは話を続けます。「この人がナンバーワンの人なんです。仮にこの人に今、お会いできるとして『描いたよ』と言ったら『あら、そう』と喜んでもらいたい。わたしは、いつも、わたしの作品を見た誰かが喜んでくれることを願っています」

キャバレー「クラウン」はJR仙台駅から北に徒歩でも15分ぐらいの場所にありました。小野寺さんが描いているように、店の前を仙台市電が走っていました。クラウンの写真が残っていないかと思い、市民アーカイブの専門家佐藤正実さんにも問い合わせましたが見つからず、ある人のブログを通じて小野寺純一さんの作品に出合うことができました。

(小野寺純一さんの作品「キャバレークラウン」)

「わたしは個展しかやらないんです。公募展などに一度も出たことがありません。若いころから、どんなところにでも出かけて、いろいろな人たちと触れ合うことを大事にしてきた。自分で描きたいときに描くだけです。個展は年間4回ぐらいですかね。(伊達政宗の命を受けた慶長遣欧使節船)サンファンバウティスタもやっているし、この前は丸善でもやらせていただいた。わたしの作品はみなさんの生活の中で出会う絵、共感できる絵でありたい。アカデミックな世界とも違うし、公募展で賞を取った作品の価値とも違うものを目指しています。生活の中で見てもらう絵を生み出すために俺は描いているんだ、という気がします」

「キャバレークラウン」について語る小野寺純一さん
(「キャバレークラウン」について語る小野寺純一さん)

個展一本で絵画愛好家たちに向き合おうとする小野寺さんの話を聞いていると、何よりもライブ、臨場感を重視するジャズミュージシャンたちの表情に重なります。小野寺さんが中学生だったころの「憧れ」や「別世界」への強い好奇心は、やがては高度経済成長につながる、同じ時代を生きてきた者に共通する要素かもしれません。

「とにかく作品を見てくださる方が懐かしがってくれるかどうかが一番大事です。統一したテーマを求めるわけではない。強いて言えば、昭和20年代から40年あたりまでの生活風景がテーマです。大げさなものではありません」

自分の作品について、「デッサンがくるっているように見えるかもしれません。これなら自分でも描けると小学生に言われたこともあります」と笑いながら話す。定型にこだわらず、オリジナリティ、直感を何よりも大切にするアーティストの顔。いわゆる学校で習うようなルール通りの造形ではない点に、絵としての厚み、鑑賞のポイントがひそんでいます。この点もジャズ音楽に通じます。音楽理論を忠実になぞっても、人を引き付ける作品にはならない。ジャズの成り立ちからして、多様で挑戦的なサウンドに、理論が後でついてくるような、それでいて、リスナーを置いてけぼりにすることは歓迎されない。

表現者としての小野寺さんのたたずまいはどこまでも優しげですが、ジャズ音楽の魅力の一つであるソロイストの感覚に似ているかもしれません。水を向けてみました。「そうなんです。わたしも、自分のやり方はジャズに近いなあと思ったことがあります」。「回想の中のキャバレー」がつなぐ不思議な縁といっていいでしょう。

【連載】仙台ジャズノート
1.プロローグ
(1)身近なところで
(2)「なぜジャズ?」「なぜ今?」「なぜ仙台?」
(3)ジャズは難しい?

2.「現場を見る」
(1) 子どもたちがスイングする ブライト・キッズ
(2) 超難曲「SPAIN」に挑戦!仙台市立八木山小学校バンドサークル “夢色音楽隊”
(3)リジェンドフレーズに迫る 公開練習会から
(4)若い衆とビバップ 公開練習会より
(5)「古き良き時代」を追うビバップス
(6)「ジャズを身近に」
(7)小さなまちでベイシースタイル ニューポップス
(8)持続する志 あるドラマーの場合
(9)世界を旅するジャズ サックス奏者林宏樹さん
(10)クラシックからの転身 サックス奏者名雪祥代さんの場合
(11)「911」を経て仙台へ トランペット奏者沢野源裕さんに聞く①
(12)英語のリズムで トランペット奏者沢野源裕さんに聞く②
(13)コピーが大事。書き留めるな/トランペット奏者沢野源裕さんに聞く③

3.回想の中の「キャバレー」
(1)仕事場であり、修業の場でもあった
(2)南国ムードの「クラウン」小野寺純一さんの世界

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