新譜「inspired」に使った音源は欧州で採録した。その模様について語る勝部さん

【仙台ジャズノート】若い衆とビバップ 公開練習会より

佐藤和文=メディアプロジェクト仙台】公開練習会に参加していたサックス奏者勝部彰太さん(32)は仙台市生まれ。「キチ」がつくほどのジャズファンの父親が、ジャズテナーのスター的な存在であるウェイン・ショーターにちなんで名前をつけたそうです。

仙台でブラスバンドを始め、東京の大学でサックス奏者として活動しました。仙台に戻ってからもさまざまなミュージシャンと共演しています。古いジャズファンとしても今後に注目したい一人ですが、実際にインタビューすると、「お前はジャズプレイヤーかと聞かれたら、そうではないと答えるしかありません」「職業として、ジャズでずっとやっていけるかといえば、おそらく厳しい」という答えが返ってきます。

というのも、勝部さんの音楽の志向性は東京時代からサックスによるジャズの演奏に留まらず、ポピュラーミュージック全般の演奏や編曲、電子音楽の作曲の分野にも渡っているからです。

新譜「inspired」に使った音源は欧州で採録した。その模様について語る勝部さん
新譜「inspired」に使った音源は欧州で採録した。その模様について語る勝部さん(左端)

ジャズだけでプロとして暮らしていけるかどうかは古くて新しい問題です。当然のことながら、その昔からそんなに楽な環境ではありませんでした。ミュージシャン自身の覚悟と工夫の問題でもあり、一人のミュージシャンをあえてジャズに限定する必要もないでしょう。自分の好きなミュージシャンがさまざまな分野で優れた感性と技を発揮するのは、聴き手にとっても楽しみです。

では、20代、30代の若いミュージシャンにとってモダンジャズの古典ともいえるビバップはどんな意味を持つのでしょうか。公開練習会の空気やサウンドに触れ、邪魔しない程度のインタビューを試みているうちに、そんな疑問が沸き上がってきました。

公開練習に参加する勝部さん(右端)
公開練習に参加する勝部さん(右端)

その疑問に対する答えはおそらくミュージシャン一人ひとりで異なるはずですが、勝部さん自身がフェイスブックで紹介していた新譜「inspired」の「Venetian Bell」を聴いているうちに一つのことに思い当たりました。「inspired」は「感化された」「刺激されて」の意味。「Venetian Bell」は「ベネチア(ベニス)の鐘」です。以下のURLからサンプルを聴くことができます。関心のある方はどうぞ。

https://shotakatsube-sendai.bandcamp.com/album/inspired

ここで聴くことができるサウンドをどう表現すればいいかは、かなり難しいのですが、デジタル処理されたフレーズが繰り返し放出され、予測できないタイミングで交差しては離れていきます。あえて言うならば、テクノミュージック、環境音楽のような要素を感じます。

勝部さんの作品「inspired」は「昨年(2019年)10月のヨーロッパ旅行中に録った”面白い”音にインスパイアされて製作されたもの」だそうです。「Venetian Bell」は「ベネチアでジェラートを食べながらボーッとしていた時に聴こえた教会の鐘の音が原点」。電子的なサウンドの洪水(と感じるだけでもう鑑賞する資格なし?)の中で神経を張り詰めていると「教会の鐘」が、言葉で表現できないほどリアルに鳴り響きます。ああ、これは「ビバップ」がリアルで人間くさい音列に満ちているのと、どこかでつながっているとさえ思いました。現代のテクノミュージックの音列の中に顔を出す「ビバップ」。何と強固なことでしょう。勘違いかもしれませんが、テクノ系を主戦場とする勝部さんと「ビバップ」の関係を、あえて類推するとそんな感じになります。

勝部彰太さんに聞く

-ご自身の音楽的な経歴を教えてください。

勝部:中学、高校のときに仙台でサックス奏者一戸祐三郎さんの指導を受けました。東京から仙台へ戻ってきてからも、もう一度ビバップの基礎を習いたくて指導を受けた時期がありました。世代ということもありますが、あの時代の曲をあの熱意のまま演奏するという点では、たぶん僕は一生かないません。チャーリー・パーカーやソニー・スティットの演奏を一戸先生がコピーした楽譜を、ジャズサックスのボキャブラリーを学ぶのに見せてもらいました。

ある演奏者のプレイを耳コピー(耳で聴いて音を楽譜に書いていくこと)する際に、僕らなら、データ化して(専用アプリを使って)スロー再生するとかできるじゃないですか。一戸先生の時代はそうではなくて、高価だったレコードを3枚買ってきて、聴く用、保存用、コピー用とした。そこまでして必死になってとった音を、僕はありがたく演奏するわけです。同じフレーズを演奏するにしても、一生かなわないだろうと思う理由です。たとえば、僕が変に年寄りぶって、古いジャズスタンダードだけ演奏するとしても、たぶんその同じ土俵では、表現できるものの深みが違うでしょう。

テナーサックスを吹く勝部さん
テナーサックスを吹く勝部さん

-我々の時代は、レコードが高価だったのでジャズ喫茶に通いました。ラジオのジャズ番組などもよく聴いた。ジャズを学ぼうとしたら、古いものから始めて新しい録音を追いかける、その逆にさらに古い時代に遡るなど、時系列で考えるしかありませんでした。インターネットが発達した現代ではすべての音楽、作品が横並びで存在します。特にYouTubeにはいろんなデータが存在します。自分の好き嫌いもすぐ分かる。すごい時代です。

勝部:だからこそ僕は自分に今できること、今だからやらなければならないことをやる必要があると感じます。逆にいろんなものを当たり前のように聴いている世代だからこそ、できる音楽を。先生たちの世代とは違うものを目指さなければならない。

-若い世代の目の前にさまざまなスタイルの音楽が存在し、それらの音楽データを理解するだけの力もある。仮にジャズミュージシャンであろうと思っても、さらにその先を目指したくなるきっかけや、手掛かりも多数存在する社会です。

勝部:今、既存のイメージの「ジャズミュージシャン」であろうとするなら、ジャズの古典をずっと演奏するようなスタイルを磨く必要があるような気がしますし、リスナーの方からもそう在るように期待されがちに感じます。しかし50年代のジャズでさえも、その当時あった様々な音楽から影響を受けている。南米やカリブの音楽に影響された時期もある。実はどこを基準に古典と定義すべきかは、厳密には非常に難しい。こういったバックグランドがある中で、その時面白いと感じる何かを取り入れたり、先人が生み出した物の「その先」を追い求めてもがき続ける音楽家こそ、本当は「ジャズミュージシャン」なのではないか。

-音楽を仕事にしたいと考えるようになったのはいつですか?

勝部:楽器を始めた初期のころからそういう気持ちはありました。

-なぜテナーサックス?

勝部:最初はアルトサックスで、24、5歳ごろまではアルトでファンクやポップな曲を演奏していました。ストレートアヘッドなジャズの曲を聴いているうちに、いつの間にかアルトよりもテナーを聴いている自分に気が付き、テナーに変えることにしました。アルトとテナーではキーが違うし、奏法的にも一時的にはマイナスになるかもしれないが、しっくりくるのはテナーじゃないかと思ったんです。今でも、フュージョンやポップな曲を演奏するときは、アルトをメーンに吹くことがあります。仙台の友人たちと作っているレーベル「KOKUBU」のアルバムではメーンはほとんどアルトです。作曲家の彼が、そっちの方が好みだったということもあって。

-ジャズの古典といえばどんなものを思い浮かべますか?

勝部:40年代、50年代ですかね。チャーリー・パーカー、ソニー・スティットなど。ビバップからレスター・ヤングなどのスイング時代の奏者も含めて、僕にとっては古典です。必ず通るべき時代、どこを掘り下げても、必ずそこに行き着くと個人的には思っています。

-作曲はどこで学びました?

勝部:たとえば、この音楽(ジャズ)をやっていると、アドリブをとらなければならないことがあって、アドリブというのは、ほぼほぼ作曲の理論だったりするんです。一戸先生に習った時期がそうだったし、大学に行ってから東京で習った先生にも教わった。作曲というよりは、演奏の理論を裏付けするために自分で曲を作ってみた、というのに近いと思います。あとはスタンダードの曲を真似て自分でつくってみることもやった。

-大学は音楽大学?

勝部:いえ、普通の大学です。ジャズ研に入っていた。しかし、やっているうちに学校の外で演奏することが多くなっていきました。

-今回の取材では、いわゆるジャズ音楽の前途を厳しく受け止める声が多く聞かれました。20年でなくなるという声さえありました。仙台では博物館のような形で一つは残る感じですか?

勝部:インターネットのせいで、一個も残らない可能性もありますよね。もしかしたらVR(バーチャルリアリティー)等での世界のジャズクラブの配信が始まったら、そっちを見た方が面白いかもしれませんね。

-自分の体験で言うと、プロでなくとも、ジャズ音楽を演奏できる場を残した方がいいと思っています。リスナーでもプロでもない、アマチュアにとってのジャズ音楽の価値を育てていくことも大事です。プロとアマの違いは?どこで線引きしますか?

勝部:どんな場合でも、自分が演奏する場にチャージをとっている場合は「プロ」と名乗らないと駄目ですね。これだけで生活できているからプロだというのではなく、人から時間をいただき、お金をもらって演奏を提供する場合はプロとしてしっかりやる必要があります。

正直なところ、仙台で多いのは、チャージをとるライブに出ていながら、自分はアマチュアだからとか、これ以上頑張れないよ、練習できないよねという声を聴くことが多い。今の世の中、多くのサービスや娯楽や芸術がしのぎをけずって頑張っている中で、さすがにそれはまずいんじゃないか。誰も見ていないスタジオを用意して自分の楽しみの為に演奏する選択肢だってありますからね。

その積み重ねが、結局は芸術にあまりお金をかけない傾向、芸術にあまり価値を感じない意識につながっていくんじゃないでしょうか。でも、残念ながら音楽というのは解釈に多様性があるもので、聴いている側が「必ず楽しめる」という保証があるものではありません。だからこそ音楽を提供するミュージシャンの側の自負として、日頃からベストを尽くす風土が大事だと思っています。現時点で上手か下手かというのは、あまり関係なくて、そういう気持ちを持っているかどうかが大切です。

たとえば、演奏で何か間違ったとして、次、演奏するときは頑張ろうと、練習しようとか、そういうところにつながらなければなりません。初めから天才的なミュージシャンは確かにいますが、そこまで才能がない人でも、すごくうまくなる人はいる。そういう人は、失敗して反省するという積み重ねをしっかりやれていて、それがきいているんだと思うんです。

【連載】仙台ジャズノート
1.プロローグ
(1)身近なところで
(2)「なぜジャズ?」「なぜ今?」「なぜ仙台?」
(3)ジャズは難しい?

2.「現場を見る」
(1) 子どもたちがスイングする ブライト・キッズ
(2) 超難曲「SPAIN」に挑戦!仙台市立八木山小学校バンドサークル “夢色音楽隊”
(3)リジェンドフレーズに迫る 公開練習会から
(4)若い衆とビバップ 公開練習会より
(5)「古き良き時代」を追うビバップス

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