【吉田由香】仙台市青葉区のマンションの一室に、抗がん剤治療の副作用や病気のため脱毛した女性に対してかつらの貸し出しを行なっている「春風の家」はあります。わたし自身抗がん剤治療を受けて脱毛した時に利用して、このサービスがあることと、この場所に癒されたひとりです。この活動のきっかけでもある「ホスピス設置を願う会」活動発足から30年余り。現在の活動と、これまでのお話をうかがいました。
「春風の家」のかつら貸し出し
「春風の家」では、毎週火曜日10時から15時まで(第五週火曜日はお休み)、かつらの貸し出しを行なっています。 場所は普通のマンションの一室。堅苦しくなく優しく迎えられることで、治療や告知でめまぐるしく疲れている心がちょっとホッとします。
そして、たくさんのかつらを置いてあるお部屋に通されます。かつらの種類は現在70個弱。購入したのは今まで2個。あとはすべて寄贈とのことです。「やはり高価なものですし、捨てられないのでしょうね」と代表の小野敬子さん。他に活動メンバーは3人、順番に当番で回しています。
箱に貼ってあるかつらの写真から、使ってみたいかつらを選び、フィッティングをします。大抵の方はかつらを使用したことがないので、着用方法も教えてもらえます。わたしもはじめてのことでとても助かりました。一回の借用期間は半年で、その後必要ならまた貸し出しを受けることになります。
費用は、利用料が1500円、かつらを固定するためのネットは個人で購入となるのでそれが2200円で合計3700円。専用のブラシ付きで、かつらスタンドも貸していただくことができます。
所要時間ですが、かつらを選んでフィッティングする時間と、利用申込書を記載する時間が必要です。やはりとても悩んで、お時間をかける方も多いそうです。一緒にいらした配偶者の方に意見を聞く方もいるそう。中には一回目の試着で気に入って借りられる方もいたそうです。それはわたしでしたけれど。
大抵の方はお電話をしてくるとのことで、あまり混んで待たされることはないそうです。いらっしゃる方は、既に脱毛が始まっている方も治療開始前の方もいるとのこと。かつらを購入する前に、どんなものかまず使ってみよう、という利用をされる方もいるそうです。
お仕事で毎日使う方もいれば、卒業式や結婚式などで使いたい方も。普段はケア帽子で過ごしていても、手元にひとつあると安心になるものです。かつらは高価なもので、しかもがんの治療はどうしてもお金がかかることも多いので、安価で貸し出しをしていただくのは大変助かることでした。
活動メンバーは、代表の小野さんの同窓の方、近所の方、小野さんのご主人のお仕事をかつて手伝った方。驚いたことに小野さんをはじめスタッフの皆さんの中にがん患者の当事者はいません。「少し寂しげな方が、かつらをつけることで表情が明るく変わるのを見るのが好き」とおっしゃる方、「いろんな方との出会いがあり、そもそもこの場所がとても居心地がいい」とおっしゃる方。この活動で、お金で得られる以上のものを得ているというメンバーさんたちは、毎月この活動を最優先にしているので欠席もないとのことです。わたしが利用した時に、意外でかつ驚いたのは、あまり何も聞かれないことでした。「お話はなんでも聞きます。けれども聞き出しはしませんよ。」活動の中で培われた姿勢なのかもしれません。
「春風の家」に至る道
代表の小野さんは、長く「ホスピス設置を願う会」の活動を行なってきました。1990年代、宮城県にはホスピスがありませんでした。小野さんがたまたま参加された「ターミナルケアを考える会」で、「ホスピスを作りたい」との提案を聞き、東京の聖ヨハネ病院のようなホスピスができないか、と光ケ丘スペルマン病院に相談を持ちかけたことから状況は動き出しました。
市民活動などしたことのなかった小野さん。一からビラを作り署名活動をし、写真展を行い、寄付金を集め、マスコミに訴え、世論を作っていきました。とうとうスペルマン病院は県や日本財団に補助金を申請し、1998年に待望のホスピスがスペルマン病院に誕生しました。しかし、「できたね、よかったね」で終わらせてはならないと小野さんは「ガンバレ!ホスピス」という催しを2005年まで年一回開催し続け、寄付を募りながら理解を広めていきました。2000年にはがん患者さん同士の集まり「リュックサッククラブ」がスタート、2005年からかつらの貸し出し活動を始めたのです。
「こんな活動をしていると、いろんな患者さんから相談を受けることも多いんです。患者会も、かつらの貸し出しも、患者さんの声から始まったんですよ」と小野さん。がん患者同士で話せる場があったらいいな、という声から「リュックサッククラブ」が、その集まりの中ででた脱毛の話からかつら貸し出し活動が生まれました。どの活動を取っても簡単なことではないはずですが、「患者さんが必要なことを全部教えてくれたんです。それを行なっていくため、自分の中に”大丈夫”と背中を押してくれる声があったような気がします」と小野さんはおっしゃいます。
活動は終了しても
2024年6月。河北新報に「春風の家、来年3月で活動終了」の記事が掲載されました。活動メンバーも年齢を重ね、元気なうちに区切りをつけたいとのことでした。この素晴らしい活動がなくなってしまう・・・というわけではなく、その後の継続は模索中とのことで胸を撫でおろしました。
しかし、長年たくさんの方への理解と支援の輪を広げてきた「ガンバレ!ホスピス」は、最終章と銘打って、最後の会を開催することとなりました。2024年12月14日、カトリック東仙台教会にて、スペルマン病院のホスピス、緩和ケア医長の亀岡祐一先生のご講演と、ボーカルグループ「the voice of LOVE」のコンサートが行われます。ぜひ足をお運びください!
がんは、ともすると患者として孤独を感じることが少なくない病気です。わたし自身がん患者としてともすると心の波風を感じています。そんな中でがん患者を支えてくださる皆様の活動、ことに顔の見える宮城県内での活動があることに本当に心強さを感じています。そんながん患者を支える人々のことをもっと皆様にお伝えしていきたいと考えています。
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