【ひとりあるき】岩沼市「金蛇水神社」で、新緑の巫女舞とグッドデザイン賞に出会う

黒田あすみ】記者は好奇心の赴くままに”ひとりあるき”するのが好きです。面白い発見をしたり、嬉しい出会いがあったり。些細な疑問から、芋づる式に増えていく知識もたのしい。たまの遠出はもちろん、日常のそこかしこにも心満ちるひとときは散らばっている、そんな暮らしの記録をお届けします。

今回の舞台は宮城県岩沼市三色吉に鎮座する「金蛇水神社(かなへびすいじんじゃ)」です。

水と巳にまつわる由緒ある霊場

“ひとりあるき”のスタートは、金蛇水神社外苑 参道+休憩処「Sando Terrace(サンドーテラス)」から。この日は15:00より催される巫女舞を拝覧しにやってきました。

駐車場から直結しているのがありがたい

その社名は境内を流れる金蛇沢が由来。山間にある水源の七ツ堤から平野に流れ出る位置に本殿が鎮座することから、長く水の神として信仰されています。

ときは平安時代。京都三条の小鍛冶は、天皇の御佩刀を鍛えよとの勅命を受け、名水を求めて諸国を遍歴してこの地に至り、水神宮のほとりを流れる水の清らかさに心を打たれた。早速、水神宮に祈願をし炉を構えて刀を鍛えはじめたが、カエルの鳴き声で精神統一ができず、よい刀が打てずにいた。

そこで宗近は神の啓示にしたがって巳のお姿をつくり田に放ったところ、カエルはピタリと鳴き止んだ。無事にすばらしい刀を鍛え上げることができた宗近は、神への感謝のために巳のお姿を献納し都に帰った。以来、水神宮ではこれを御神体と崇め、社名も金蛇水神社と称するようになったと言う。

参考:金蛇水神社HP「金蛇水神社縁起」

蛇のうねりとも水流とも感じる円弧状の参道は人工木、玉砂利、石が素材。やや上り勾配の地面を奥へ奥へとすすんでいく歩みに、まるで自身の穢れを削ぎ落としているような感覚を抱かされました。

建物は牡丹棟と休憩棟に分かれ、土産処や休憩・食事処、カフェテラスが配されている

ぱぁっと視界が抜けた先には風雅な広場が。自然と調和する神楽舞台は、2022年5月の花まつりと時期を合わせて竣工されたもの。その建造を日下建築設計室(宮城県柴田郡柴田町)と株式会社吉田建設(宮城県岩沼市)が手掛け、こけら落とし公演として巫女舞が技芸奉納されたのです。

平成から令和への御代替記念事業の一環として新設された

木材を組む工法には、接手(つぎて)や仕口(しくち)など、1000年を超えて受け継がれている伝統技術が用いられたとのこと。神楽舞台の凛とした佇まいに、日本のものづくりへのこだわりが映し出されていました。

平和を願う「巫女雅楽・浦安の舞」

荘厳な歌声にのせて巫女舞がはじまりました。参道を往来していた方たちも、ぞくぞくと神楽舞台に集まってきます。

この日奉納された「浦安の舞(うらやすのまい)」は1940(昭和15)年の創始。皇居外苑を会場とする皇紀二千六百年年奉祝会の開催に際して全国で奉祝臨時祭が行われるにあたり、奉奏するための雅楽舞としてつくられました。

同年11月10日には全国の村社以上の神社で一斉に浦安の舞を奉納し、国の平穏無事と皇室の発展をお祈りしたといわれています。

日本の古語で「浦安」は心のなかの平穏をあらわす言葉。浦は心、安は安らぎを意味することから、浦安の舞は永久につづく平和を願うためにつくられた雅楽なのです。

約10分間で、前半は美しい槍の舞扇がつかわれる「扇舞」、後半は鈴がつかわれる「鈴舞」という2つのパートに分かれていました。

「幾つかの種類がある中でも、近年の神事で奉納している巫女舞の多くは浦安の舞なんですよ」と、高橋以都紀宮司。1000年余もの歴史をかさねて祈る想いを受けとめてきた金蛇水神社の、地域へ寄せる願いが、たおやかな舞へ投影されています。

まるで1枚の絵画のよう

つつじ山の新登頂ルートで竹林とあでやかな花を愛でる

晴天を浴びて冷たいものが欲しくなってしまった記者。食事処「IKoMiKi(イコミキ)」でひと目で惹かれた季節の飲み物「白蛇クリームソーダ・サファイア」を片手にふぃ~っと一息。ひんやりラムネソーダとなめらかソフトクリームを交互に口へはこぶ、止まらないループが最高すぎました。

透けるようなコバルトブルーが涼しげ

神楽舞台の裏手から延びる山道。クリームソーダを飲み終え、リフレッシュできたところで足を伸ばしてみました。

左の屋根は神楽舞台のもの

この山の名称は「つつじ山」。斜面のあちらこちらに色あでやかなつつじの花が咲き誇っていて、なるほど納得です。

白や濃ピンク、薄紫など色彩豊か。これは記者がもっとも惹かれた赤

歩みを進めると、木々のあいだから見えてきたのは外苑の全景。参道・庭園・広場・山・神社を結ぶSando Terraceも、令和御代替記念事業の一環として2020年4月に完成しています。

左:Sando Terraceの牡丹棟と休憩棟 / 右:花まつり開催中の牡丹園
赤字部分が、令和御代替記念事業で新たに手がけられた場所(金蛇水神社より画像提供)

実のところ記者は5年前の1997年にもつつじ山を登っていて、眼下の景色の変わりように思わず「おぉー」と声がもれました。

1997年5月当時の牡丹園。左に出入り口の門があった(記者撮影)

既存の山道も修繕されて、以前よりも歩きやすくなっていました。さらに竹林を抜ける登頂コースが新設されていたので、記者はそちらを選択。筍が竹になる段階をちゃんと目にしたのは初めてのことで、なんだか嬉しくなって竹林へ駆け寄ってしまいました。

つい体育座りをしてじっくりと観察

くわえて、2022年中に「つつじ山見晴台 山の社(やしろ)」も建立予定とのこと。近年失われていた仙台平野から遠くは牡鹿半島の島影、岩沼市内を阿武隈川まで見晴らせる眺望が回復し、また、山頂には境内社である「山神社」がご遷座されるそうです。

せっかくなのでどんどん登って、既存の展望広場も超えて、てっぺんを目指しました。

2022年5月時点の山頂辺りからの眺望

ようやく辿りついた山の社の建立予定地らしき区域には幾つもの花株が植えられていて、「四季の花あふれるお社になるのかなぁ」と、完成が楽しみになりました。

短い時間だったけれど、仙台空港からの飛行機が何便も飛び立っていった

いよいよ夕暮れの陽射しになってきたので、足早に下山して本殿へといそぎます。

山道からは本殿の遠景も見渡すことができる

壮大な九龍の藤の向こうには風格あふれる本殿が

白蛇のように純白の正面鳥居をくぐった先は、視界いっぱいにひろがる壮大な藤棚。樹齢300年を誇る1本の株から9本の枝に分かれているので「九龍の藤」と称されています。

藤棚の広さは約100㎡にもおよぶ
夕焼けに淡い若紫色が映える

藤棚の迫力の美に圧倒されながら、ようやく本殿へ。あふれる風格に心身がキリッと引き締まります。以前に拝殿でご祈祷いただき、このタイミングでお札を返納したので御礼を伝えました。

金運円満・商売繁盛・厄除開運などのパワースポットとしても名高い
参拝者の方々も帰路に着かれた様子

「そう!」と社務所へ立ち寄って、交通安全のお守りを購入。記者は自宅近くに住むご夫妻にとても良くしていただいていて、なんとタイヤ交換までおじいちゃんのご厚意に甘えてしまったので、御礼として渡すことにしました。

いつもビッカビカに磨かれているシルバーグレーの愛車に合いそうな白を

日が沈みかけていましたが、帰りしなの神楽舞台の神秘さに惹かれてベンチで眺めさせてもらうことに。透明な素材により中まで見えるようになっていて、閉まっていても、その澄んだ造りが伝わってきました。

金蛇水神社は24時間365日を通して参拝できる

グッドデザイン賞、今後さらに地元に愛される神社へ

満ち足りたところで改めて参道を歩きはじめると、柱面に記念パネルが。行きでは気付けなかったそのパネルには「GOOD DESIGN AWARD」の文字。

「希求と交動(よりよい社会に対する願いや希望を皆の行動によって実現していくこと)」が2021年度の審査テーマ

外苑全体のディレクションを手掛けた株式会社齋藤和哉建築設計事務所(仙台市青葉区)ほかを受賞企業に、金蛇水神社は2021年度のグッドデザイン賞を受賞しているのです。

【審査委員の評価】
境内南側の敷地を新たに取得し、駐車場と境内を結ぶ円弧状の建築によって参道を新設したことで、車通りのある市道を通らずに参拝できるようになったことは、高齢者やこどもたちにとって安全性向上に繋がる優れたアイデアだと思います。

境内に向かって緩やかに登っていく円弧状の参道では、併設された物販・休憩スペースを抜けながら、牡丹園や山並みが次々と展開する空間となっており、俗世から聖域へ向かうシークエンスを意識したデザインとなっている。物販商品を地元企業と共同開発する取り組みによって、今後さらに地元に愛される神社となっていくことを期待します。

参考:グッドデザイン賞HP
駐車場から市道を通らないと境内にたどり着けなかった、かつての導線も改善された(金蛇水神社より画像提供)

最後に深くゆっくりと深呼吸。いつもの日常へと戻っていきます。地域への優しさが表された神聖な空間を堪能する”ひとりあるき”となりました。

これからもつづく空間の変化を体感していきたい

金蛇水神社
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金蛇水神社外苑 Sando Terrace
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