「ホヤしゃぶ」という食べ方

【文・写真/若栁誉美通信員=仙台市】その形状から”海のパイナップル”とも呼ばれるホヤ。蒸しホヤ、酢の物、珍味で言えば莫久来 (ばくらい)、と、お酒と合わせて出される、居酒屋メニューのイメージが強い。去年の12月7日、記者は仙台市青葉区の「綴café」で行われた「ほやしゃぶ試食会」に参加した。

各テーブルには、温められた出汁の入った鍋と野菜・豆腐と食材が所狭しと並べられている。開会の前に、ほやしゃぶ会主催の佐藤文行さんから、ほやの生育と現状についての説明があった。

2011年の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故の影響で、2013年9月、韓国当局は福島・宮城・岩手・青森・群馬・栃木・茨城・千葉の8県からの全ての水産物を全面的に輸入禁止とした。震災前、宮城県産の約8割がキムチの原材料として韓国へ輸出されていた。ホヤは種付けしてから出荷できるまで約3年を要する。当時、数年で解除されると見られていた輸入禁止措置は、3年後の2016年にも解除されず。これが何を意味するか。宮城県産のホヤの8割が行き場を失う、ということだ。しかし、陸揚げしないでおけば海洋放棄になり、生態系や水質にも影響がでる。結果、焼却処分にするしかない。この時、確かに焼却処分した、という証明がなければ、東電からの補償金は支払われない。安価で配布すると、補償金の対象にならない。2016年は7600トンが焼却処分された。

今回の試食会を主催する佐藤文行さんは、宮城県塩釜市内で揚げかまぼこ製造会社を経営。ホヤが大量に焼却される現状を憂いて、消費量を増やすために、ほやと魚のすり身を使った「三陸ホヤメンチカツ」「三陸ホヤつみれ」を一昨年から販売、昨年11月には同市内にほや専門店もオープンさせている。

今回の「ほやしゃぶ試食会」では、少しでも国内消費を増やすための新レシピとして、ホヤのしゃぶしゃぶが振舞われた。ホヤは去年7月末に南三陸で収穫され、冷凍されていたもの。一番美味しい「梅雨ホヤ」と呼ばれる時期のもので、熱が入っても身が縮まない特徴がある。さらに卸先の料理店から「一度冷凍したホヤの方が、甘みが増す」という情報もあり・・・しゃぶしゃぶの試食会ではあるが、最初はお刺身でいただく。記者は、大人になってからホヤが食べられるようになったクチ。潮の香り、甘み、苦味・・・人間が感じる5つの味覚全部を備えた食べ物が、ホヤ。その複雑な味わいを噛みしめる。解凍したホヤは、甘みを強く感じた。

そして、ほやしゃぶへ。「ホヤが苦手な人は、まず10回だし汁の中でしゃぶしゃぶするところから。徐々に回数を減らしていくと、お刺身でも食べられるようになりますよ」
と佐藤さんの言葉を耳に入れつつ、水菜とホヤを2回しゃぶしゃぶしていただく。

参加した方の感想は「北海道出身だが、正直ちょと苦手で食べていなかった。今回の(しゃぶしゃぶの)食べ方で、端っこは食べられるようになった」という方から「ほやの殻を噛んでおやつ代わりにしていた」というホヤ好きの方まで様々。佐藤さん曰く「ほや嫌いのリハビリになる」のが、ホヤしゃぶの魅力。「これからも定期的に開催して、”ほやしゃぶの伝道師”を増やしていきたい」と佐藤さんは語る。直近の「ほやしゃぶ試食会」は、1月17日に仙台市内で開催予定(詳細は「ほやしゃぶ愛好会」のFacebookページを参照)。