【東京国際映画祭2021】”アジアの映画祭”としての変革 市山尚三プログラミング・ディレクターに聞く②

カンヌ国際映画祭をはじめ世界の主要映画祭の現場を取材し、TOHOKU360にも各国の映画祭のリポートを寄せてくれている映画評論家・字幕翻訳家の齋藤敦子さん。2021年に東京フィルメックスから東京国際映画祭のプログラミング・ディレクターへと転身した市山尚三プログラミング・ディレクターに、今年の東京国際映画祭の舞台裏についてインタビューしました。

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「アジア映画がむちゃくちゃ面白い」

齋藤敦子(映画評論家・字幕翻訳家)】――今年のコンペティションのセレクションについて。

市山:もともと、こんなにアジア映画をたくさんやるつもりではなかった。あと2本くらいは欧米の映画をやらなくちゃいけないと思ってたんですが、アジア映画の方がむちゃくちゃ面白いし、どこにも出てないワールドプレミアの映画が結構あるんです。おそらくヴェネツィアにアジア映画が入らなくなっているからでしょう。

――最近はアメリカ映画が中心になってきてますね。

市山:「バードマン」以降、ヴェネツィアに出すとアカデミーを獲るみたいな評判が生まれて、圧倒的にアメリカ映画が増えたんです。今年もフィリピンの映画が1本入ってただけで、全然アジア映画がなかった。もちろんヨーロッパからの応募作品にもやればワールドプレミアになるそれなりの出来の作品があったんだけど、今ひとつ面白くないんで、これならアジア映画をやった方がいいと。2枠くらいアジア映画が増えて、こんな結果になりました。

日比谷ステップ広場の屋外上映会場

――コンペティションにアジア映画が多く、アジアの未来が復活し、フィルメックスもあると、アジア映画ばっかりだなという印象なんですが。

市山:でも、アジア映画に関しては今年はプサンより強力だと思います。コンペのワールドプレミア作品はプサンに出てないし、プサンに出ているアジア映画は結構フィルメックスに入っている。なので東京の方がクオリティの高いアジア映画が沢山見られる。安藤チェアマンがフィルメックスを一緒にやりませんかと言った最大の理由がそこです。“この時期に東京に行くとアジアの映画が沢山見られる”というのが1つの目的でもあったんで、それは今年は叶っていると思います。

――つまり、日本の観客は置いといて、国際的な映画祭の常連みたいな人達に、東京に来るとアジア映画のいい作品を沢山見られるよ、という風にしたい?

市山:今までのTIFFは内向きというと変だけど、日本の観客に向いていた。逆に、安藤チェアマンは海外から東京をどういう風に見られたいか考えた。海外の人に聞くと、アジアの映画祭といえばプサンでしょう、という風に言われるのはなぜなのか。そこから改革案が始まっている気がします。

欧米ファンからの不満も?

――1年でこんなにドラスティックに変えてしまって、観客はついてこられます?

市山:ついてこられないかもしれません。不満な人はいるかもしれない。特に欧米映画のファンの人達で、TIFFで期待していたものが来ないということはあるかもしれないですね。

――そういう人達は置いていく?

市山:それは来年以降に。今年は去年よりも本数が20本くらい少ないんです。それは会場が少ないせいですが、本数が増えれば欧米の映画も増やします。ただし、コンペのクオリティを下げるのでなく。今年はワールド・フォーカスが7本しかない。コンペの本数をキープしたんで、そのしわ寄せがワールド・フォーカスに行った。そこが復活すれば、欧米の映画ももっと出来ると思います。

――コンペはプレミア重視なんですか?

市山:今回はワールドプレミアとアジアプレミアだけなので、プレミアを重視しているように見えるんですが、プレミア限定という規約はないんです。例えば、どうしてもやりたい作品があって、それがプサンに出ていたとしても上映できるように規約を変えました。

市山尚三プログラミング・ディレクター

アジア市場で競おう

――日本映画スプラッシュをなくした理由は何ですか?

市山:日本映画の部門だけで賞をとって盛り上がってていいのか、いい映画ならアジアの監督と競うべきである、と。日本映画のいい作品はアジアで争えばいい、それがスプラッシュの中にいるのはもったいない、と主張して、石坂さんも同じ考えで、ではアジアの未来で日本映画を2,3本やりましょうと。

――今年は日本映画が2本入ってますね。コンペティティヴな日本映画スプラッシュをなくし、Nippon Cinema Nowという部門を作った。

市山:そこで日本映画の新作のパノラマをやります。賞はなく、2021年製作の作品で、上海やプサンに出ているワールドプレミアでない作品もありますが、これから海外に紹介したい日本映画です。

――コンペにアジア映画が多いこと以外の傾向は?

市山:女性が主人公の映画が多いです。

――女性映画じゃなく?

市山:ある種の女性映画とは言えると思います。監督が男性のものもありますが、主人公が女性の映画が多い。それは狙いじゃなくて結果論で、選んでみて数えてみたらそうなっていた。MeToo問題とか、女性が男性社会の中で戦っていかなきゃいけないという風潮が映画監督を刺激しているんじゃないでしょうか。狙って選んだわけじゃないですが、女性が主人公のものが多くなりました。

有楽町駅前も映画祭ムード

――コロナ問題が作品に反映されたとか?

市山:応募作品にはありましたが、結果的に選んだ映画の中には、露骨にコロナをやりましたというような作品は残っていません。ただ、コロナ禍の前に撮っている可能性はあります。あるいは去年カンヌが中止になったので、スキップした映画も沢山あると思うんで、応募作品は増えているし、クオリティも高かったです。コロナの影響で作品が細っているという感じは全然しませんでした。

――他に気になった傾向は?

市山:例えば、「市民」という作品はメキシコの映画なんですが、監督のテオドラ・アナ・ミハイはルーマニア人で、プロデューサーがクリスティアン・ムンジウとダルデンヌ兄弟なんです。監督がベルギーの映画学校を出た人で、今ベルギーに住んでいるらしいんですが、メキシコで撮っていて、見た目はメキシコ映画なんです。どういう経緯でこういう映画を撮ったのか聞いてみたいです。「ヴェラは海の夢を見る」のカルトリナ・クラスニチはコソボの監督で、デビュー作なんです。コソボは今年ロッテルダムのタイガーアワードを獲ったり、カンヌの監督週間にもコソボの女性監督の映画が出ていました。

――コソボは市山さんが教えに行ったところ?

市山:あれはサラエボで、ボスニアです。コソボはアルバニア人が住んでいるところで言語がアルバニア語なんです。今年はコソボ出身の女性監督が何人も映画祭に出てきていて、ニューウェーブが起こっているのかどうなのか。

アジア映画の質に注目

――もちろん来年はもっと本数が増えて、今年欠けていた欧米系の映画が増えていくだろうとは思っているんですが。

市山:アジア映画専門の映画祭にしたいというようなことは全然ないんです。ヨーロッパの映画で強いものがあればやる、それは年によると思います。ただ、アジアの良質な映画をやってるということが明らかになれば、来年以降、海外から見に来る人達も増えるだろうし、見に来なくても、TIFFでやっているということで興味を持ってリンクをもらって自分の映画祭に選定したり、ということが増えると思います。それは打ち出していきたい方向性の1つではあります。

これは安藤チェアマンの考えていることと一緒なんですが、海外のキーパーソンのような人をもっと招待すべきだということ。コンペのゲストは別として、作品に関係ない人を呼ぶということを全然やっていなかった。実はこれはプサンがやっていることなんです。プサンが急成長したのは最初にキーパーソンを大量に招待した。今、海外のエージェントが言うのは、プサンに行けばキーバーソンに会える、TIFFに行っても上映している作品の関係者はいるかもしれないが、他の人達がいない、と。

――私の印象では、TIFFは最初の頃はお金があって、海外のゲストをすごく招待していたけど、的外れな人ばっかり呼んでいた(笑)

市山:呼ぶならちゃんとした人を呼ばないといけない。そのうち予算がなくなって呼べなくなり、そこにプサンが登場してキーパーソンを呼ぶようになったので、向こうに集まるようになった。

迷走したTIFF

――これから巻き返し?

市山:今まで強化できていなかったところは強化すべきだろうし、TIFFの利点は、いろんな映画祭が終わっている時期なので、みんな比較的時間があること。

――ワールド・シネマ・カンファレンスの4人のゲスト(ベルリン映画祭ディレクター、トライベッカ映画祭ディレクターなど錚々たる顔ぶれ)は全員来るんですか?

市山:来ます。

――こういうことこそ本当に最初からやっておくべきでしたね。TIFFは映画祭を知らない人が立ち上げたから、本当に迷走しました。

市山:プサンはキム・ドンホさんやキム・ジソクさんがいろんな映画祭を準備期間に回ってリサーチして、全部を把握してから始めたから強かったんです。幸いワークショップ(タレンツ・トーキョー)はフィルメックスが先行して行っており、TIFFと同時開催になったことで、来年以降、タレンツ・トーキョーの若者たちがTIFFのゲストやTIFFCOMのバイヤーに会う機会が出てくると全然違うと思う。

――狙い通りじゃないですか。

市山:フィルメックスは人脈はあるがお金がないんで、講師に例えばフランスのMK2の映画部長を呼んだりしてたんですが、1年に2,3人しか呼べない。TIFFだったらある程度予算があるんで、アジアの監督たちをピックアップしそうな人達を集められる。向こうも自費でまで行こうとは思わないけど、呼んでくれるなら喜んでという人が多いと思う。

――ただ、一言言わせていただくと、これだけのアジア映画をいっぺんにやられると、絶対に見に行けない映画が出てきます。見逃した映画が賞を獲ったりすると、超がっかりするんで(笑)、ベルリンや山形がやっているように、賞を獲った作品を授賞式の翌日リピートで見られたりすると便利なんですが。では、最後に抱負を一言。

市山:みんなが心配しているのは、映画館に人が戻ってくるのかどうかということです。映画館が再開しても観客が戻ってこないんじゃないかと懸念している。よく映画祭なんてなくてもいいと言う人がいます。家で配信で見ればいい、わざわざ出掛けていって見ることはない、コロナだって心配だ。と。でも、やっぱり映画館でみんなで一緒に映画を見るのはどこか違うと思うんです。ぜひこの機会に映画祭に映画を見にきてください。これは抱負でなくて、お願いですが。

( 10月13日 、東銀座の東京国際映画祭事務局にて)

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