【阿部哲也通信員=仙台市青葉区】白黒ネコの伊太(いた)ちゃんは白内障で右目がほとんど見えない。車が近づいても気づかず逃げないでいることもあるという。不安になった飼い主の今井のりこさんは、運転者に配慮をお願いするため、2~3年前に警戒看板を手作りして道路脇に設置したという。今井さんに話を聞いてみた。
縦横80センチ 黄色いひし形看板
看板は仙台市青葉区の住宅街にあり、中央に眼帯をしたネコのイラストが描かれている。見方によってはイヌにもウナギにも見えるが、ドライバーの注意を引くには十分だ。その下には「目の悪いネコ注意」の文字があり、すぐにネコと判る。
「目が悪くても、ネコは普通の生活をしています。木にも登るし、興味がある方へ散歩にも行きます。だけど、思うように動いた後、身動きがとれなくなったこともありました」
伊太ちゃんは首に電話番号を記したプレートをつけている。動けなくて困っている伊太ちゃんを見つけた人から連絡をいただいたこともあるという。
「近くで工事をしていた時はちらしを配って、工事関係者の方に注意していただけるようお願いしていました。しかし、ちらしを見ていない人もいるかもしれない・・・・・・ある時、看板を作ることを思いついたんです」
警戒標識といえば、ドライバーに道路上にある警戒すべきことや危険を知らせ、注意深い運転を促すためのものだ。踏切があることを示す電車のマークや学校が近くにあることを示す学童が歩くマークを見たことはないだろうか。行き先を案内する標識や道路通行上の規制を示す標識が青地に白文字または白地に青文字であるのに対して、警戒標識は黄色地に黒文字。今井さんの警戒看板も警戒標識同様、黄色地に黒で文字やイラストを描いている。
最近、はがれかけていた塗装を塗り替え、金枠で補強した。これでしばらくは安心だ。
あえて目の悪い猫を家族に
今井さんが仙台市動物管理センター(現アニパル仙台)で伊太ちゃんを引き取ったのは6年前。きっかけは飼っていたネコが行方不明になったからだ。今井さんはネコの行動を制限しない。去勢した上で自由に散歩させている。イヌに比べてネコは気分屋と思われがちだが、時間が経てば必ず戻ってくる。戻らないのは特別な事情があるからだ。30年間ネコを飼い続け、ネコの習性を肌で感じてきた今井さんは別れを覚悟した。
人により自分だけの一匹を選ぶポイントは様々だ。血統や顔立ち、模様や種別など。ペットショップから購入するのが一般的かと思われるが、里親募集のちらしや保健所の譲渡会から我が家に迎える人もいる。今井さんもそのひとりだ。今井さんにとって大切なのはネコと暮らすこと。血統や種類は重視していない。
今井さんは購入にお金をかけようとは思わないとはっきり答えた。「ネコは家族の一員。一緒に暮らしていくのが楽しい。お金では得られない幸せを与えてくれます。外に出すから汚れてくることもあるし、病気の心配もしなくちゃいけません。目が見えないということは普通のネコより手がかかるけど、世話をするのが楽しいのです」
伊太ちゃんは以前に飼っていたネコと柄が似ているから親しみが湧いた。伊太丸という名前だったという。目が見えないのはわかっていたが、処分されるネコが一匹でも減ってほしいと思い引き受けた。元気な子は他の家で幸せに暮らせるはずだと信じて。
ネコもイヌも、他のペットも生きている。生きている限り、無病息災ということはありえない。交通事故の危険性とかケンカのリスクもあるから、責任をもって一生付き合うのは大変だ。
「生き物を飼うのって大変なんです。エサだけやっていればいいってもんじゃないんです。最初はかわいいといって買う人もいるかもしれませんが、買ったときの気持ちを忘れずに最後まで付き合ってほしいと思います」
ユーモラスに見える手作りの警戒標識には、小さな命を思いやる今井さんの温かな思いが込められていた。