男子新体操を世界へ!「スポーツ・エンターテイナー」白A・祝陽平の挑戦

齋藤巧(仙台大学スポーツ情報マスメディア学科)】宮城県を拠点に活動しているパフォーマンス集団「合同会社白A」に所属する祝陽平氏は「スポーツ×エンターテインメント」と銘打って様々なイベントを企画し実行に移してきた。その原動力は技術の探求心と世界への野望から生まれたものだった。

インターハイ優勝と、19歳の船出

祝陽平氏は宮城県白石市出身の「スポーツ・エンターテイナー」。物心がついた頃の夢はパン屋さんというスポーツにもエンターテインメントにも縁のない子どもだった。ところが「いつの間にか始めた」と新体操に熱中する。「やればやるほど技術が上がると同時にやる気も次第に上がってきた」という。

ここで一人の”アスリート”としての祝陽平が誕生した。高校時代には朝6時から夜の9時まで部活動に打ち込むなどその熱意は折り紙付きだった。その甲斐もあってかインターハイ優勝という輝かしい成績を収める。ただし、それほど熱意を持って取り組んだ新体操も高校生で辞めてしまう。理由は大きく二つあった。

「スポーツ・エンターテイナー」として活躍する祝陽平さん

一つ目の理由は競技としての男子新体操に限界を感じたことだった。日本新体操協会の2022年の登録人口によると、新体操選手の男女比は女子が90%、男子が10%と男子の競技人口がとりわけ少ない。そもそも男子新体操は日本発祥の競技であり、競技そのものが主に日本で行われる上、世界では競技が普及していない。大学でも男子新体操部がある学校は少なく、インターハイ=世界大会のような位置付けなのだ。先を見据えた上で「競技に先は無いなと思った」「自分の競技人生のマックスはここ」と感じたという。

もう一つの理由はエンターテイメントの世界に興味を持ったことだ。転機となったのは高校2年生。新体操部がダンスイベントに関わりを持ちはじめ、初めて芸能の世界に触れた。その後様々な繋がりから芸能事務所アミューズに所属。競技への関心はエンタメへ移った。そのとき「これは運命だなと思った」とは祝氏は振り返る。

このとき19歳。元アスリートの祝陽平は”エンターテイナー”としての新たな船出を果たす。

スポーツとエンターテイメントの邂逅

上京してからは主に金銭面で苦心しながらもアミューズで活動。自分の武器を磨くことができなければ消えていく世界で、下積み時代には想定外の事態に備え、先のことを考える重要性を痛感したという。そんな中、同じく事務所に所属していた「白A」(宮城広瀬高校が母体のパフォーマンス集団)から「アクロバットのできるやつが必要」と、パフォーマーとしての依頼が。「同じ宮城県出身ということに縁を感じた」と、白Aに所属することにした。スポーツとエンターテイメントが出会った瞬間だ。

数年間の白Aでの活動でエンターテイメントの世界の経験を積んだ。活動の中心でもある海外公演を通じて成功も失敗も経験した。なかでも2015年にアメリカの人気オーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」で日本人として初めて「ゴールデンブザー」(準々決勝進出が確定するボタン)を獲得したことは「世界に認められた」「スローに見えた」と語るほど感無量だったという。海外ツアーの最終日にウィーンで劇場の予約が取れず強制的にツアーが終了してしまうなど苦い経験もしたが、「厳しい世界だからこそ、考え続けて苦労したから今がある」と振り返る。

2015年のアメリカズ・ゴット・タレントで白Aがゴールデンブザーを獲得した瞬間

開拓者、挑戦者として。「人は目標と理由で強くなる」

「他のパフォーマンスがしたい」と、挑戦者の心で白Aを一時退社した際は収入がゼロになり苦労もしたが、下積み時代の経験を活かして乗り越えた。アルゼンチンのパフォーマンス集団「フエルサブルータ」での活動やミュージカルでの経験を経て、紆余曲折を経て生まれ変わった「合同会社白A」と再び合流し再始動をした矢先にコロナ禍に突入。それでも「活動をし続けることが重要だ」とエンタメを諦めず、オンライン公演を続けることで食い下がった。

そして現在では、一度は袂を分かった新体操の活動を始めた。新体操の選手の活躍の場をつくる意味も込めて、仙台89RSにて公式プロチーム初の男子チアチーム「はっくるず」を創設。仙台うみの杜水族館ではナイトイベント「SEATOPIA」の活動を開始した。

仙台うみの杜水族館で開催しているパフォーマンスショー「SEATOPIA」

またコロナ禍で活動の場を失った男子新体操選手を集めた「ONEGYMNASTICS FESTA」というエンターテイメントショーを開催。アニメ「バクテン」とコラボし成功を収める。祝氏は「新体操は僕を育ててくれた競技。日本で終わってしまうのは勿体ない、世界に広めたい。世界に広めるためにエンタメ活動で発信して、ゆくゆくは食べていける競技にするのが目標であり、使命」と、これらエンタメ活動の原動力となる熱き想いを語った。

祝氏は、挑戦と開拓の日々を送ってきた。祝氏は「人は目標と理由で強くなる」と語る。祝氏は白Aの活動でテクノロジーARの技術を独学で学び、今ではパフォーマーとしての引退へ向けて振り付けを手がける演出家として、その時その時で新たな武器を作ることを意識して行動してきた。取材の最後に、「時間は沢山あるわけじゃない、動けるうちに活動して、卒業後の未来を視ることが大事」と我々学生へ挑戦する心の大事さを改めて説いてくれた。

【この記事について】仙台大学スポーツ情報マスメディア学科の学生たちが、地域で活躍するアスリートや指導者らを取材!学生たちが記者となり執筆した中から、3本のスポーツ記事を連載で掲載します。

【今回の記事は…】
取材:仙台大学スポーツ情報マスメディア学科「インタビュー論」受講生のみなさん
執筆:齋藤巧(同学科3年)
写真:祝陽平さん提供
編集:安藤歩美(同大学講師)

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