【続・仙台ジャズノート#114】今なお悩ましい「ロスト癖」

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文】アルトサックスでジャズアドリブを、と突然、思い立ってからほぼ10年、手探りを続けています。学生時代に出合ったジャズ音楽を楽しむ道筋が一つ増えた感じです。今なお厄介なのが、アドリブしているうちに、自分が曲のどこを演奏しているのか分からなくなる「ロスト」の問題です。

筆者の場合、どこかに致命的な原因があるらしく、入門直後からロストしまくりでした。幸いなことに落ち着いて演奏すれば滅多にロストしなくなりましたが、自分の演奏を常に追いかけていないと安心できません。複雑なコード進行の曲では曲の流れをたどるだけで精一杯なので、ロストチェックのために神経を使うこと自体、とても重荷です。自分のアドリブを聴き、よりいいものに向かわせる神経も働きようがなくなります。「ロスト不安症」とでも言えばいいでしょうか。打開策の決定版を何とか見つける必要があります。

この連載では「60代半ばからのジャズ志願」を掲げ、筆者自身のジャズサックスへの取り組みの様子を事、細かに報告しています。個人的な努力で乗り越えるべき基本的な習得過程をあえて記事にし、公開するのは、ジャズ志願中の大勢のみなさんとの間に共通の話題を設定したいためです。ジャズ音楽を少しずつ習得する段階で、理論、技術ともに非常に多くの課題が見えてきます。

ジャズ音楽を実際にメロディ楽器で演奏する側を目指して初めて分かったのは、ジャズ志願中の人たちは大勢いるのに、共通の課題について話したり、自分の課題・悩み、進捗状況について語ったりする場は、案外少ないことでした。この連載は筆者自身の状況をありのままに報告することを通じて、ジャズが共通の話題になる場を生み出すことを狙っています。

手持ちのレコードをもっと活用したい。アイデアを練るのもまた楽しい。(記事本文とは関係ありません)

我が事を一方的に、時には露悪的に語るだけでは何も生まれませんが、ジャズ志願者に共通する課題や解決に向けた模索の様子を伝えるきっかけにはなるのではないかと考えています。ジャズ音楽を円滑にレベル高く演奏できるみなさんにとっては「今さら何を言うか」的な退屈な話の連続になっているかもしれません。

筆者には人前で演奏する経験が圧倒的に不足しているので、まだまだ机上の空論に近いとはいえ、どんなときにロストしがちなのかはだいぶ分かってきました。演奏中に気持ちが妙に上ずって余計な音が入ってしまったとき、特にその音がどう考えても異音に聴こえるような場合、気持ちが乱れてロストするきっかけになりがちです。ちょっとした手違いや勘違いのため、イメージしていたリズムやフレーズの割り振りと違った音が出てしまうような場合も危険です。慌てて微調整をかけようとしてリズムが揺れたり、詰まったりしてロストにつながりかねません。初心者のころからの癖のようなものです。

コード進行が比較的単純なブルースで、アドリブのための大まかな設計図もなしに、演奏を始めたりすると危ない。ロストしても、図々しくひと休みして回りの演奏を聴いて元に戻ることも、それなりにできるようになっていますが、合奏中に自分ひとりが破綻の原因になっているのは、本当に気持ちが悪いものです。

サックス教室でのレッスンや他の演奏者の演奏事例を通して、ロストしないためのこつを幾つも教えてもらいました。最近、あるミュージシャンのYouTubeチャンネルで「アドリブするときも、その曲のテーマを歌うようにすればロストしない」と強調しているのを知りました。

アドリブしながら同時に頭の中でテーマを追う-って誰でもできるワザなんでしょうか?自分にはとても無理なようです。曲のテーマを頭で追いながら自分のアドリブを繰り出すには指先にもう一つの脳がほしいような気さえします。

現実に自分に可能なのは小節を数え間違えないよう「1、2、3、4」と数えながらフレーズらしきものを繰り出すことぐらいです。一流どころのダイナミックで伸び伸びとした演奏を聴いていると、アドリブするのに、いちいち拍を数えているとは思えません。

*この連載が本になりました

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