【続・仙台ジャズノート#117】ジャズ喫茶「キジトラ」店主がこだわる “音の場づくり”

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文】ネコと音楽を愛するオヤジ、伊藤誠さん(63)が仙台市青葉区一番町4丁目に喫茶店「キジトラ」を開いて早くも10年が過ぎました。50代初め、地元新聞社の記者からの転身でした。かつて全国各地にあった、日本特有の「ジャズ喫茶」をモデルに、趣味で集めた大量のレコードやCD、オーディオを思い切ってつぎ込みました。近年、インターネット経由で音楽を聴くスタイルが急速に普及し、シニア世代には補聴器としか見えないイヤホンとスマートフォンの組み合わせで音楽を楽しむ暮らしが世代を超えて広がっています。「ちょっと待って。スピーカーから出る音が空気を震わすような環境で音楽を楽しんでみませんか?」。学生時代、ジャズ喫茶のアルバイトで習い覚えたスタイルそのままに、「キジトラ」店主の音の場づくりは進んでいます。

「かつて映画館の近くには喫茶店があり、映画を見終えた人たちが映画について話し合ったものです。キジトラでは、空気が震えるような大音量で音楽を聴くことができ、顔見知りが音楽について語らう場になってほしかった」

伊藤さんは、近年の音楽環境について「過度のパーソナル化が気になる」と話しています。音楽は本来、地域や国境を越えてさまざまな考えの人々を結びつける力をもっています。だからこそ『キジトラ』のような店に対するニーズもあるはずだと伊藤さんは考えたそうです。「実際に始めてみると、考えたようにはいきませんでした。営業的には結構な苦戦を強いられましたが、自分がこれは、と注目した音楽に対する客の反応は楽しみです。いい音楽を聴いた後は誰かと語り合いたくなるもの。希望があればいくらでも説明できるので、どんどん声をかけてほしい」

70年代ジャズ喫茶の雰囲気たっぷりにコーヒーをいれるキジトラ店主、伊藤さん

伊藤さんが最近「これは、と思った」事例で、客の質問があったのは「すずめのティアーズ」(佐藤みゆき&あがさ)という日本人の女性デュオグループ。YouTubeでは「江州音頭」を取り上げ、日本の民謡を基調に独特のリズムとハーモニーを披露しています。

「キジトラ」の「売り」は2000枚とも3000枚ともいわれるレコードやCDの『在庫パワー』だけではありません。20年ほどの間のインターネットの発達ともに、伊藤さんは英語読解や会話力を生かした調査・分析に努めてきました。レコードやCD、ネット系音楽データの掘り起こしなど、ネットを活用した音楽媒体の収集家としての関心がジャンルを超えて広がっています。

その結果、アメリカンフットボールやバスケットボール、ショーヘイ・オオタニよりはるか以前の大リーグに加え、あらゆる音楽ジャンルへの関心や理解をますます深めています。

音響装置の調整に余念がない伊藤さん

以下、持ち前の調査力を生かす形で伊藤さんが講師を引き受けている河北カルチャーセンターの講座、米国のジャズレーベル「リバーサイド」からの引用です。

リバーサイドは二人のコロンビア大学同級生、ビル・グラウアーとオリン・キープニュースによって1952年に設立されました。ハードバップ全盛時代でありこれからジャズはさらなる変革を遂げていく、そんな時代でした。しかし、1939年創業のブルーノートや40年代から動いていたプレスティッジに比べれば後発メーカーです。じゃあ、新し物好きの薄っぺらい今風レーベルなのかというと、そうじゃない。(中略)リバーサイド社のモダンジャズ・カタログ筆頭はピアニストのランディ・ウェストンでした。コール・ポーター作品集。ランディ・ウェストンはアフリカの目を向けた最初のジャズマンの一人です。独特のタッチでニューヨーク社交界の花形BGMであるところのコール・ポーターを全く別物の音楽に変えてしまっています。ちょっと調律の怪しいところが聞こえるのもご愛敬でしょうか。(中略)70年代はモロッコに移住。北米とアフリカとのミュージシャンの交流をアシストしました。本日は「I Get a Kick Out of you」と「I Love You」を。ちょっと普通のビバップのピアニストと違うでしょ?(以下、略)

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