【続・仙台ジャズノート#136】体験記が少しでも楽しくなりますように

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

【佐藤和文】この連載「続・仙台ジャズノート」では体験記の形をとり、60代半ば近くに始まったジャズ志願の様子をありのままに報告しています。ジャズ理論や技術の数々は、独特の歴史や音楽的な理念を背景に持つこともあり、ときには非常にややこしく、途方にくれます。「体験記」のスタイルで、ジャズ音楽の楽しさを優先的に報告できればいいのですが、ちょっと油断すると、ジャズ志願者の悩みだけを強調することになるようで、連載を読んだ読者からは「ジャズ音楽をもっと楽しんではどうか」という声が届いています。なぜ「体験記」なのか?これまでも必要に応じて触れてきましたが、あらためて経過報告してみます。

この連載のための取材を始めたのは2020年秋。初回の記事を書き始めたころから、それまで予想もしなかった「コロナ禍」が深刻になりました。一人、二人とインタビューを重ねたものの、身近なジャズの現場は、貴重な演奏の機会を失っていきました。当初、希望していた、演奏者・グループに対する取材だけでは連載プランを維持するのが難しく、急きょ、筆者が60代半ばで始めたアルトサックスの体験記を盛り込むことにしました。

そのときどきに見えるテーマを体験に即して書きながら、後戻りできないように自分を叱咤するのが目的でした。記事として書いてしまったら必要な練習をしなければなりません。何か記事を書きたいのなら、それに即した理論と練習の実務に身を入れる必要もあります。やや開き直りにも近い心境でした。

インタビューに応じてくれる演奏家にはあらかじめ自分の書いた記事を見てもらいました。一方通行のように取材し、記事を仕上げるのではなく、いわば共同作業のようなスタイルを模索してきました。新聞社の記者時代には、むしろ禁じ手とみなされた手法をあえてとった点でも新機軸と言えるかもしれません。フリーの取材者としての自由な環境を思い切って生かしながら、インタビューを受けてくれる演奏家のみなさんとの間に、双方向のチャンネルを意識しました。演奏者同志や聴衆との間の相互作用を重んじるジャズ音楽の世界と、重なるように見えるのは思い過ごしでしょうか。

取材に応じてくれたみなさんから記事に対して注文が出るケースは少数でしたが、なかには、筆者の音楽的な勘違いや不正確さを指摘する、貴重なコメントもありました。取材の申し込みからTOHOKU360への掲載・公開に至るプロセスの点で言えば、編集長の最終チェックも含めてふだんの倍以上の手順を踏んでいます。その分、TOHOKU360への掲載・公開後、筆者の立場で読み返してみても、考えさせられるポイントが多く、ジャズ音楽の理論的な理解や実践面で課題の整理などを後押ししてくれているようです。

たとえばこれまでジャズのスタンダード「枯葉(AUTUMN LEAVES)」を何回か取り上げています。「枯葉」のアドリブは事実上、二つのスケール(音階)を覚えれば可能なこと、この二つのスケールは「平行調」と呼ばれる関係にあって、指の押さえは同じという、不思議な関係にあること-についてたどたどしく説明しています。そのあとで、「Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ(ツー・ファイブ・ワン)」と呼ばれるコード進行についてもちょろりと書いています。当時としては、ぎりぎり背伸びした結果といえるでしょう。

今にして思えば、そもそもアドリブを企てるには、大きく分けてスケールを使うか、コードを軸に考えるか、の二つがあり、それぞれに理由や特徴がある点にまったく触れていません。スケールを使ったアドリブと、コードを使ったアドリブでは、考え方も演奏の実感も、だいぶ違います。筆者の実技レベルはいまだに練習レベルにすぎませんが、スケールとコードのニュアンスや意味の違いは何となく分かります。

これまでに何度も触れてきたことですが「アルトサックスの体験記」といっても、単に素人が汗をかいている様子を報告しても、どれだけの人が読んでくれるだろうかという不安が最初からありました。演奏者・グループに対する客観的な取材・報道と、筆者の個人的な体験をセットにするという、珍しい企画になることへの不安や戸惑いもありましたが、自分自身を、アマチュアも含めた「身近なジャズ現場」の一員であるとみなすことで、乗り切ることにしました。

*この連載が本になりました

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