【続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!)
【佐藤和文】ジャズ音楽を学んでいる人たちが『黒本(くろほん)』と呼ばれるスタンダード曲集「JAZZ STANDARD BIBLE」を愛用していると知り、第1集をネットで買い求めました。5、6年前のこと。やや値段のはる楽譜集でしたが、第1集には227曲が収められ、ジャズ音楽の世界の広がりと奥行きを感じさせるには十分なボリュームです。特に60過ぎてから突然、演奏する立場のジャズに接近しようとした筆者にとっては、耳なじみの曲のひとつひとつがジャズ音楽への垣根を低くしてくれているようです。
スタンダード集のありがたいところは、どこかで聴いた曲のメロディをごくシンプルな形で、正しく(?)見せてくれる点です。最近の個人的な目標曲はコール・ポーター作の「I Love You」。ミュージカルのために1943年に作られたそうです。ビング・クロスビーをはじめ、多くの歌手が歌ってきました。典型的な歌もの。歌ものを楽器で表現するのがただ事でないことは、素人にも想像できます。ハードルは確かに高い。世の中には、うたごころも鮮やかにこの種のスタンダードを吹き切る人がいるのだから驚きます。
アドリブ志願の立場で「I Love You」の構造を概観してみます。アルトサックスではキーがDメジャーでいいですかね。マイナーの「Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ(ツー・ファイブ・ワン)」と呼ばれるコード(和音)の進行が2種類、5カ所に登場します。マイナーのⅡ-Ⅴ-Ⅰはなぜか難しい印象が強く、コードネームを見るだけで、おっくうになります。怖いものが出たときの肝試し的な練習場と思えばいいかもしれません。
マイナーのⅡ-Ⅴ-Ⅰの場合、「ハーモニックマイナー」などの適切なスケールで一気に突っ走ってしまうか、小節単位に細分化し、「ロクリアン」「ハーモニックマイナー」「ドリアン」などのスケールを組み合わせて演奏するかです。
曲の構成を細かく見ながら、コードトーンを適切に踏まえる方が曲の特徴を表現できる。と一般には言われますが、当然のことながら筆者の力では、コードの構成音を機械的に並べる演奏になりがちです。実践面で今現在の「旬な悩みは」は、あらかじめ決め事を考えていても、演奏を始めたとたんにボロボロとなってしまうことです。そうなってしまえば一気呵成にいくしかありません。うまく行って満身創痍。ひどいときは、自分がその曲のどこを演奏しているか分からなくなったり、整然とずれてしまったりする、いわゆる「ロスト」が待っています。一体、どうやってこの窮地を抜け出せばいいのか。繰り返し練習するうちに、ヒントの一つでもつかめればいいなあと思う今日この頃です。
「I Love You」に少しでも近づくため、最近、もっぱら聴いているのは前回も取り上げたフィル・ウッズの「Warm Woods」です。1958年の録音。チャーリー・パーカーの直系と言っていいですか?ウッズ節の特徴となった激情と甘いフレージングは、1975年の初来日のときに仙台で実際に聴きました。「I Love You」はやったかなあ。残念ながら覚えていません。
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