【続・仙台ジャズノート#18】ベースという楽器の魅力。岩谷眞さんに聞く

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

【佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】ジャズを演奏している光景を目にしたことのある人は、いろいろなタイプの楽器がある中で、多くの場合、ステージの右奥か左奥に見えるバイオリンの親分のような楽器が縦置きになっているのを目にしているはずです。左手で弦を押さえ、右手を下に「ボンボン」と弦をはじくのが指弾き。バイオリンよりも大型の弓で弦をこすり「ブーン」と鳴らすのが弓弾きです。ダブルベース、コントラバスが名称で、一般に「ウッドベース」「ベース」と呼ばれます。普通のギターと変わらない形状のベースが活躍することもありますが、ジャズの場合、マイクも通さずにベースを生音で聴くのを楽しみにしている人も多いでしょう。

自分のベースラインを一音一音確認しながら演奏する岩谷さん。

ベースは曲の最低音部を受け持つとともに、ジャズ音楽にはなくてはならないリズムを担当します。ベースがまだ登場しない時代は、ベースの役割を「チューバ」が担っていました。古いデキシーランドジャズに耳を澄ますと、「ボン ボン」と鳴る、ひときわ大型の楽器が聞こえてきます。現役で活躍している事例としては「Chuba Skinny」の演奏がおすすめです。YouTube環境にある方は以下のアドレスからぜひどうぞ。バンドの中でジャズベースがどんな役割を果たそうとしているが分かるかもしれません。https://www.youtube.com/watch?v=4W5-JLnV3KY

東北大モダンジャズ研究会出身のベース奏者、岩谷眞さん(45)。岩谷さんの演奏を聴き、インタビューしていると、ジャズの特有の「インタープレイ」(相互作用)を支えるのはこういう人なのだ、という気がしてきます。秋田出身。新型コロナウイルスによる感染拡大によって身近なジャズの現場が冷え込む中、岩谷さんはコロナ以前とあまり変わらない表情でベースを弾き続けているように見えます。

先日、実際に聴いたライブでのこと。サックス奏者名雪祥代さんの作編曲による「インフルエンシア・デ・ラ・サンバ」を、岩谷さんのベース、江浪純子さんのピアノで演奏した際、名雪さんのやや前ノリでスピード感たっぷりのソロを、岩谷さんのベースが冒頭からがっちり支えるのを聞き取ることができました。二人のわずかな「ノリ」の違いが音楽的にどうしても必要な響きとなり、ち密なグルーヴを生み出す瞬間です。共演歴の豊富なミュージシャン同士らしく、リラックスした演奏なのに、とてもスリリングでした。こういうことがあるからジャズを聴くのをやめられません。

飛び入り歓迎によるセッションでもホスト側の常連となることの多い岩谷さん=中央=

「ベース奏者として喜びなのはどんなとき?」と問われて岩谷さんは「演奏一緒に演奏するソロイストと呼吸が合って、音楽がうまく流れること。ソロをとる演奏者を支えるバッキングがうまくいけばそれでいい。いつだって、誰とやる場合だって、ベース奏者としてやることはいつも一緒。余計なことはあまり考えません。逆に言えば、うまく流れないと不安になります」と穏やかに語ります。

ジャズ音楽をリスナーとして楽しもうとする場合、その演奏の出来がいいか、あまりよくないかを感じる場面はさまざまあります。たとえばリズムを受け持つベースやドラム、ピアノの調子が良ければ、メロディやアドリブ(即興演奏)を受け持つ演奏者の「ノリ」を、曲の冒頭からきっちりサポートできる瞬間に立ち会うことができるでしょう。

ここで「ノリ」と表現している音楽的な特徴は、演奏者や楽器によっても微妙に異なるのが普通です。特にジャズの場合、聴いているうちに自然に体が揺れてくる感じを「スイング」「グルーヴ」と呼び、ジャズ音楽の重要な特徴ととらえます。演奏者によって微妙に異なる「ノリ」がバラバラではなく、音楽的な調和を伴って緊張感あふれる形で聞こえるとしたら、恐らくそれはジャズを楽しむうえで、このうえない瞬間=最上のジャズ気分を味わっているといっていいはずです。

岩谷さんが東北大モダンジャズ研究会に入ったのは大学1年のとき。同じ学年で作るバンドで、たまたまベースを弾く人がいなかったためにベース担当を引き受けたそうです。それ以前はロックギターをいじったことがある程度で、楽器を本格的に習うのは初めてでした。「先輩が書いてくれたベースラインを何度も何度も練習しました。当時もFのブルースや『枯葉』から入るのが普通でした。12小節のブルースを何度も何度も・・。先輩からは曲をしっかり覚えるように厳しく言い渡されていました。本番前のステージの上で、先輩が新しい曲を1コーラスだけピアノで弾いて、さあ、やってみろ、といった感じでした。今にして思えば厳しい環境でしたが、こうして今、プロとして演奏させてもらっているのはそのおかげです」

ベース奏者にも、さまざまなスタイルがあるものですが、出身母体のせいか、岩谷さんはいつ聴いても、「大学のジャズ研」の香りを漂わせているように感じます。筆者の世代がまだ学生だったころ、映画の世界では加山雄三さんの演じる「大学の若大将」「エレキの若大将」「アルプスの若大将」が、活躍していました。エレキギターを軽々とこなし、歌はもちろん作詞作曲も自分でやる。スキーだって水泳だって、不得意なものはない-。あんな派手な世界ではないにしても、岩谷さんのベース奏者としてのたたずまいはいかにも「大学のジャズ研」らしいと思いませんか?ちなみにこの10年、筆者が最も聴いているベーシストの一人です。

ジャズ音楽を魅力的にする理由の一つは、演奏者同士が互いに刺激しながら演奏する「インタープレイ」にあります。お互いの演奏に耳を澄まし、他の演奏者が繰り出すフレーズに自分のフレーズを重ねようとします。自分の心の動きや他の演奏者から受ける刺激を、栄養素のように吸収し、自分の自身の演奏が他の演奏者のきっかけになれと願うスタイルが「インタープレイ」です。「インタープレイ」の案内人のような役割を果たすのがベースという楽器です。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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