【続・仙台ジャズノート#24】震災に導かれて 「高齢社会」とジャズあれこれ

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】東日本大震災が起きた2011年はちょうど還暦を迎える年でした。予定通りなら3月末で定年を迎え新しい生活に入るはずでした。38年という長きにわたってお世話になった新聞社を卒業するにあたって、次の仕事イメージを算段するのは心地よい緊張感を伴うものでした。学生時代から続けてきた趣味=音楽の世界でも、何か新しいステップを考えたいものだと浮き浮きしていました。

そこにやってきたのが東日本大震災。震災後の対応など、仕事上の事情があって、定年後も会社員暮らしを継続しなければならなくなりました。それまで経験したことのない宙ぶらりんな感じに悩まされるようになりました。余震に対する恐怖心は一向に収まらず、特に夜間の不安感は11年たった今でも消えません。仕事の現場と家族双方に震災が残した傷跡をどうやって乗り越えたのか、細部は忘れてしまったことの方が多いのですが、明け方にならないと眠れない日々が震災直後から始まりました。

震災当時、筆者は地方新聞社のインターネット部門「メディア局」の責任者でした。東日本大震災はインターネットが日本に登場して初めての大規模な自然災害でした。激しい揺れのためにネット回線が二系列とも断絶し、新聞社のニュースサイトにアクセスできない状態が16時間にわたって続きました。世界中からアクセスが殺到する中で、ニュースを配信できない事態はネット時代の新聞社にとって致命的でした。

そんなときでも、ネット部門のロートル記者(筆者のことです)は、現場に出たい衝動に駆られましたが、仕事上、現場に出かける理由がありませんでした。もともと地震に関する直接取材は編集局が担当します。若い諸君が連日泥だらけになって被災地を駆けずり回っていました。その彼らの邪魔になってはいけないという思いが先に立ち、被災地に向かうことにはどうしてもためらいがありました。

幸い、家族や親せきたちには、家屋以外の被害はなかったものの、地震発生当時、実家で一人暮らしをしていた老母の様子が急激におかしくなり、専門的な支援を必要とするようになりました。老人ホームにお世話になっていた父親は、睡眠中の大きな揺れが夢の中の出来事だったのか、現実のものだったのかの区別さえついていないようでした。震災から3年弱で母が急逝。父もその3カ月後に世を去りました。

振り返れば、あの地震を境に、両親の様子が急激に悪くなり、その対応に十分な時間とパワーを割くことができませんでした。家族の関係を穏やかに維持するには、手当しなければならない事柄があまりに多く、自分でもストレスを感じるようになっていました。仕事を終えて真夜中近くに帰宅しても、なかなか寝付けないことが増えました。

震災によって生じた、どこか不穏な心の空洞を埋めてくれたのが、長い間、親しんできて目新しいこともないはずのジャズ音楽でした。当時、眠れないままに見ていた米国のテレビドラマシリーズ「名探偵モンク」で、強迫性障害を患う私立探偵モンクが亡き妻の墓前でクラリネットを吹くシーンがありました。モンク氏の寂しげで厳しい表情と、静かな旋律が印象的でした。そんなことも、還暦過ぎてメロディ楽器に傾斜した理由になっているような気がします。

【ディスクメモ】WHEN FARMER MET GRYCE ファーマーがグライスと出会ったとき

トランペット奏者アート・ファーマーのグループがジジ・グライス(サックス奏者)と共演した作品です。1954年5月と1955年5月の録音。いいジャケット(すみません。レコードです)だなあ。音が聞こえてきそうです。

「WHEN FARMER MET GRYCE」のジャケット。アート・ファーマーとジジ・グライスの出会い。ジャズの楽しみはモノ本来の質感を五感で楽しめることにある。

時代背景や音楽的な特徴によってジャズを説明する分類に従えば、いわゆる「ハード・バップ期」の代表的な作品といっていいでしょう。チャーリー・パーカー(サックス)らの、ときには実験的、機械的に聞こえる「ビ・バップ」についていけない人でも安心して聴けるはずです。1954年5月録音のA面が特にいい。A NIGHT AT TONY’S、BLUE  CONCEPTなど。

リズムはホレス・シルバーのピアノ、パーシー・ヒースのベース、ケニー・クラークのドラムス。「アドリブ」「フォーバース」(4小節ごとのアドリブ交換)、ドラムソロなど、今日でも親しまれているジャズスタイルがきっちり採用されています。高名なMJQ(モダン・ジャズ・カルテット)のベーシストでもあったパーシー・ヒースのハイテンポでの安定ぶりはさすがです。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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