【続・仙台ジャズノート#25】難しかったクラリネット 「高齢社会」とジャズあれこれ

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】2011年3月11日の東日本大震災から半年ほどが過ぎて、それまで手にしたことのないクラリネットに向き合う日々が始まっていました。大それたことに「ジャズを演奏したい」と本気で考えていました。特に「スイング」と言われるジャズ特有の音楽的な特徴をどうやれば自分の楽器で出せるのか。ジャズ音楽ならではの「アドリブ(即興演奏)」を自在にこなすには、どんな手順で、何を身に付ければいいのでしょうか。

とんでもなく頭でっかちで、身の程知らず、でした。学生時代から見よう見まねでドラムを演奏し、ジャズのレコードやCDを好んで聴いてきたことが過剰な親近感を抱かせたように思います。それでも、どこかの時点で、そんな思い詰め方がなければ、還暦過ぎてメロディ楽器を一から覚えたいとは思わなかったはずです。

クラリネットは中学、高校と吹奏楽をやっていた娘が遠方に嫁ぐのになぜか残していきました。発表会で演奏を聴く機会は少なかったのですが、とても難しく見える譜面を吹きこなしているようでした。リズム用の楽譜しか読めないドラム担当にとっては、せっかくマスターしたクラリネットを「嫁入り道具」から外すこと自体、信じられません。音楽は一生ものだし、その気になればいつでも再開できるはず。もったいないことです。市販のテキストで楽器の組み立て方から覚えました。新型コロナウイルス前、まだ普通に使えたカラオケルームで「プォー」と鳴らすのは特別の時間でした。

クラリネットは一度に一つの音しか出せない「単音楽器」です。ギターやピアノのように10本の指を総動員して鳴らす楽器はいかにも難しそうでした。一つの運指(指の押さえ)で一つの音を出すクラリネットは、時間をかけて楽譜を追いかけているうちに、何となく音楽になるような錯覚をも楽しませてくれました。

クラリネットと楽譜(イメージ)

初めてのメロディ楽器のとりこになって、あろうことか、結成されたばかりの社会人ビッグバンドに押しかけ参加。翌2012年9月の定禅寺ストリートジャズフェスティバル(仙台市)に出場する機会に恵まれました。仙台のジャズフェスへの出場はアマチュアのグループにとっても年に一度の大目標でした。筆者の場合も、ロック・ブルースバンドのドラム時代に3回、2014年から2019年の間に二つのビッグバンドのドラムで6回出場しました。2012年のジャズフェスは、未熟なクラリネットで参加した点で、その後の活動のきっかけを作りました。

ビッグバンドの場合、クラリネット奏者を特別にクロースアップするケースを除けば、サックスなど他の楽器をメーンに演奏しながら曲によってクラリネットに持ち替えるのが普通です。クラリネット用の楽譜もなく、音の高さ(キー)が同じテナーサックスの楽譜を無理やり演奏していました。アマチュアとは言え、クラリネット1本でバンド活動できると思うのは無鉄砲というものでした。そんな無理やりな志願でも拒むことなく受け入れてもらいました。アマチュアの懐の深さや柔軟な心持ちを学んだような気がします。

もともとクラリネットは素人が自己流でこなせるほど簡単な楽器ではありません。今なら分かります。他の楽器なら自己流OKかと言えば、もちろんそんなことはありません。当時、基本的な音階をマスターするのがやっとで、合奏できるレベルに達していませんでした。その分、他のメンバーの重荷になっていました。

クラリネットで参加したジャズフェス本番の演奏が始まる直前、通りかかった人が筆者の席の前にあるマイクスタンドを「グイッ」と引き上げていきました。何も言わずに・・。ずいぶん乱暴な人だなあと思いましたが、クラリネットを構える際、音が楽器のどの部分から出るのかを理解し、マイクの位置を自分で調整しなければならなかったのでした。

そんなこんなで、「還暦越えのクラリネット」は1年ほどでギブアップ寸前。見かねた(?)バンド仲間が自分のアルトサックスを「吹いてみる?」と貸してくれたのをそのまま引き取りました。アルトサックスは、音を出すだけならクラリネットよりも扱いやすい楽器です。集中して取り組めばクラリネットよりは何とかなるのではないか。相も変らぬ図々しさを発揮してあっさりとアルトサックスに切り替えました。初めてのジャズフェスを東京から聴きに来てくれた知人から「あのときは『クラリネット命だ』と言っていたはずなのに、アルトサックスに乗り換えるなんて・・」と言われるのは、少し先のことです。還暦過ぎで突然やってきた破調がどこに向かうのか本人にも分からないのでした。

【ディスクメモ】「ジョージ・ルイス/不滅のニューオリンズ・ジャズ」GEORGE LEWIS AND HIS N EW ORLINES ALL STARS

ジョージ・ルイス来日時のスタジオ録音。ニューオリンズの情緒にあふれている。

ニューオリンズ発祥のディキシーランドジャズがどんなものかを知る作品は数多いが、クラリネットの名手ジョージ・ルイスほど日本人に親しまれてきた人はいないでしょう。この作品は1964年に2回目の来日を果たした際、スタジオで録音されました。だから録音がいい。ルイスさんのクラリネットだけでなく、ジャック・ウィリスのトランペットやルイ・ネルソンのトロンボーンが鮮明に聴こえます。バンジョー、メロフォーンなどディキシー系の楽器も楽しい。

Basin Street Blues、Tin Roof Blues、George Camp Meetin’などが収録されています。2005年夏、ハリケーン・カトリーナがニューオリンズを襲い、100万人が他の週に避難しました。ディキシーのリジェンドたちの演奏を通してカトリーナ以前のニューオリンズの雰囲気を感じることができるかもしれません。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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