コロナ禍にも音楽を止めぬ店 仙台・稲荷小路のライブバー再訪

【寺島英弥(ローカルジャーナリスト)】新型コロナウイルス対策として仙台市青葉区の酒類提供店が対象にされた時短営業要請が6月13日で解除になり、現在、宮城県内の新たな感染者数も連日、一桁台になった。ようやく通常営業となった店に客は戻ったのか。度重なる時短延長に耐え続けた主(あるじ)は何を思うのか。昨年4月25日に苦境をレポート仙台・稲荷小路のライブバーを再訪した=震災を乗り越えた仙台のライブバー “コロナ廃業”危機に仲間が立つ|TOHOKU360参照=。

ようやく通常営業に

「通常営業になったけれど、まだ、何も変わっていないよ。皆、ワクチンを打ってからでないと安心して出てこられないのかな」

青葉区国分町の繁華街と接する稲荷小路の飲食店ビルの2階、ライブバー「Want you(音酒)」の主人、上野清仁さん(69)はマスク越しに漏らす。

6月1日から青葉区に限定されて延長された午後9時(酒類提供は8時まで)までの時短営業は、13日限りで終了した。しかし、「時短の間、1人、1人、5人、1人といった感じだったお客さんの入りは、時短が明けてからも、1人、6人、1人、1人…。やっと9人、10人の晩も出てきたが、平均すれば3人というところか」

「ライブは街の文化。その灯を守りたい」と語る上野さん=6月19日、仙台・稲荷小路の「Want you」
「ライブは街の文化。その灯を守りたい」と語る上野さん=6月19日、仙台・稲荷小路の「Want you」

コロナ禍では、東京都などに初の緊急事態が宣言された昨年4月、宮城県も同25日から翌5月6日まで時短営業要請が出され、それが解除されて以来の時短要請が今年3月25日から延々と続いた。下火になっていた新規の感染者数が、一時は一日200人に上り、政府の「まん延防止等重点措置」が適用されて、その解除後も県独自の時短要請の期間延長が上記のように続いた。

「店は夜7時過ぎから、仕事や晩ご飯を終えたお客さんが来るもので、『お酒の提供は7時まで、閉店は8時』では全く商売にならなかった。せめてもの対応で5時半から店を開け、6月1日から時短が1時間ずつ繰り下がったが、効果は若干だった」

ステージと客席を仕切るアクリル板、空気清浄機、自動検温機などを買いそろえ、アルコール消毒液や「マイ・マイクカバー」も常備…。その上に協力金も1日当たり4万円から3万円、2万5千円と説明もなく減額され、「お客さんのチャージが2800円のうちの店では赤字だよ」。

コロナ禍の以前は、一晩平均12~3人の入りと、職場グループの二次会などが入って、やっとだったのだから。辛抱にも限度があり、ライブをやっている店には、いつやめようか、と想いあぐねているところもあるようだ」

無観客ライブ配信を続ける

昨年4月に取材した折には、「Want you」を応援する常連の客やバンドメンバーらの発案で、額面1100円の「ライブ飲食券」を発行することになった―という話をお伝えした。その後を上野さんに尋ねると、「おかげさまで約95万円の売り上げがあり、苦境を支えてもらった」と話す。

10年前の開店の翌月に東日本大震災が起きるなど、危機をたびたび乗り越えてきた店の財産は、自らも高校時代からフォークギターを弾き続ける上野さんが音楽でつながる仲間たちだという。

客が1人も来ない夜も、この店から発信され続けていたものがある。文字通りの「無観客ライブ」だ。上野さんがリーダーの60年代フォークバンド「モダンフォークリバイバル」「ロードマップ」「ベアーズハンド」、ビートルズを歌う「髭アンド爺」、オリジナル曲とJポップの「ハートボートボックス」、ジャズを聴かせる「ウェルカムバック」。賛同した音楽仲間が集い、5月末まで約20回のライブステージの動画を、店のフェイスブック上で配信をした。

筆者がのぞかせてもらったのは大型連休中の5月3日夕、2回目のライブ配信の現場だ。ステージには、アコースティックギターの上野さんとベース、ドラム、キーボードに女性ボーカルのグループ「ベアーズハンド」。マスク着用の常連さんも客席に4人、話を聴いて駆け付けた。

バンド仲間と店からライブ配信をする上野さん(左端)=5月3日
バンド仲間と店からライブ配信をする上野さん(左端)=5月3日

「きょうは“有観客ライブ”になりました。久しぶりにやりがいがあるなあ。このコロナ禍の中で、皆さんのつながりを大切にしてほしいと願いながら、やっています。うまい、へたじゃなく、音楽の楽しさを分かち合ってもらえたら」

天井から提げられたアクリル板越しに上野さんがあいさつした。懐かしい『東京ララバイ』『かもめが翔んだ日』…と熱い演奏は進み、その模様を仲間がスマホのムービーカメラで撮り続けた。

「ライブ動画を毎回数十人が見てくれた。投げ銭よりも、『コロナが落ち着いたら、行くからね!』とコメントを返してもらえるのがうれしい」と上野さんは語る。 「そんな様子を東京で見て、出張のついでに来店してくれた人もいる。最後までマスクを離さず、店のギターを弾いてブルースのセッションをやって帰っていった。音楽好きは誰でも、そんな場や時間をずっと求めていたんだ」

無観客ライブを、全国にいるライブハウスの友達も見てくれた。「『仙台でも負けずにやっているよ』というメッセージを届けるんだ」

※無観客ライブの視聴はお店のfacebookページから。https://m.facebook.com/wantyu

ジャズフェスに願うもの

コロナ対策のワクチン接種が進み、宮城、東北の新たな感染者数も大きく減ったが、上野さんの不安の種は尽きない。その一つが7月23日に開幕が予定される東京オリンピック。コロナ禍が下火になったか、と思われた今年3月から宮城県内で感染が再拡大し、苦い思いをさせられた。東日本大震災から丸10年の節目もあり、首都圏などから人の流れの急増が一因とも言われた。世界規模の五輪の影響は計り知れない。

「良いニュースは、去年中止されたジャズフェス(定禅寺ストリートジャズフェスティバル)が、今年は9月の第二土日に開かれること。その無事を願っているんだ」

上野さんはジャズフェスに15回余り、2つのバンドで出演してきた。例年700組もの出演があるが、今年は80組限定の上、「密」を避けて会場が公園のみになるという。

「ジャズフェスには毎年少ないながらも協賛し、東一番丁通りの一会場の運営責任者も引き受けてきた。小さな店からジャズフェスまで、ライブは仙台の街の文化だから。その灯を、何としても守らなくてはならない。そんな仲間に集ってほしいんだ」

少しずつ客が戻ってきた稲荷小路の飲食店街=6月19日

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